私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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終章・女神

ニバリス家の女

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 アネモネス脆弱国のニバリス家、というごくごく一般家庭に生まれた子女。
それが今の私。

まさか修道女だった国に、再び生まれ戻るとは思わなかった。
文化似通ってるから、なかなか気づかなかった。言葉も共通だし……第三王子を遠くから見守る、という選択をした過去の国にある意味舞い戻るとはこれぞ因業か。
自分の墓でも見に行こうかな……ちょっと遠いけど。

 しかし、このアネモネス国は変わり映えがしない。
建物も、人の服装も変わらず。多少、流行はあるぐらい。
鮮やかなドレスの色使いは隣国からのものだろうな。まぁ考えるまでもなく第三王子の婿入り国からのもの。
かつての商いの知識はこんなところにも役に立つ。多少、ズルをしているみたいに感じるが……致し方ない、今までそうして生きてきたのだから急に真っ白のまま純粋のフリをするのも難しい。
男として生きてきた訳だし。すっかり言葉遣いも荒っぽい感じになってしまっている。はぁ、せめて人前では取り繕わねば。不足が出るかもしれない。
成り上がりの前世における人生を顧みれば、それが女として生きることになった今生において生きやすいだろうことは算盤弾ける。
……王子として生まれほうが、逆に面白かったかも。
次はそれで頼む。

 さて、この朝刊も懐かしい。
毎朝投函される相変わらずの国営新聞だが、昔ながらの野次馬丸出しの国民性とやらは変わり映えはしない。由緒ある王室関係者は当然として、かき回すための提灯記事があちこちに散りばめられている。気掛かりなのは、財政問題か。三面記事にまで顔を出しているアネモネス国の切ない事情。ははあ、大変だな。
 経営破綻、というのは国にも当てはまるものらしい。

(愛だの運命とやらに、昔から振り回されてきた国だからねぇ……)

 さもありなん。
主教が愛の女神なのでそればかりになるのは仕方ないが、しかしそればかりなので本当にやばい国舵である。
王家の政略結婚でなんとか保っていた体裁も、今や昔。運命のために婚約破棄をかなり無理して繰り返してきたらしい……からね。かつての運命であるところの第三王子だけが真面目だっただけ、かも。
 なんだか切ないわ……。

 さて、そんなしみじみとした思いを抱きながらも私はゆっくりと成長していった。
興味のあることは前世で大体やり尽くしたので、あとはもう、静かにするしかないのでね。目立つのは好きじゃない。単純に飽きたというのもあるし。前世では散々に目立ったし。それにまぁ三度も生き直すと、ね。秀才程度が一番楽だ。ほどほどでも、私の両親は天才扱いしてくれるけど。ふふ。家族運には恵まれたな。ニバリス家はそこそこ仲が良い。
 私の今まで生きてきた年齢を足していくとぞっとする年数経過だけど、何事もそこそこがいいのですよ。

 それより、気になるのがアネモネス国の在り方だ。
国籍なくなるのは困るな……両親は良い人間だし、家族揃って難民申請も考えるべきかなぁ……昔の知識でしかないが、それなりには過去生は役に立つ。この歳で親孝行とか、ふふ。前世の執事も笑うだろう。あいつも元気にしているだろうか。さすがにもう死んでいるか。あの暖かい国で。退職金はたらふく出てるはずだ。孫もいるというのに、私のことばかり心配して……。

 女王の国は変わらず、存在している。
第三王子の血脈は無事、受け継がれている。
滅亡していなくて良かった、それはそれで因縁がある国だとしても嫌だった。

 とはいえ我が脆弱国にも、多少は変化はあったものらしく。
危機感はあったみたいで、かねてより研究を重ねていた魔法という未知なる力の発露に成功した、と。
神聖視していた運命を軽んじてるぞ派閥もいるらしく貴族議会は紛糾しているようだが、意外な成功談である。女王の国との共同研究だったのが功を成したのかもしれない。まぁ、どうでもいいけど。

私の前では、両親と兄妹がくつろぎながら談笑している。
私だけがこうして食事のあともひとり、新聞を広げて情報収集に勤しんでいる。
ふと目があった。

「やあ、こっちにきなさい可愛い娘。
 面白い話題でもあったのかい?
 教えておくれ」
「はぁい」
「お姉さん、聞いてよぉ!
 お兄ったらまた……!」
「なんだよ、いいじゃん」
「はいはいまた兄妹喧嘩がはじまったわね」
「賑やかでいいじゃないか」

本当、そうですね。
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