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二章・愛の世界

見守っていく……

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 身分の差はあったものの、さすがは私が見惚れたマドロラ、きちんと出会いを重ねてプロポーズを受け取ったようだ。

 長かった。色々な意味を込めて、長かった。
あれこれと、たくさんの弊害や、まあ損害も一部あるにはあったが瑣末なこと。
 
 私が長年築き上げてきた人脈と権力でもって、マドロラの公爵邸に出迎えられた婿殿は実に見事な経歴で、さすがはマドロラの恋人、素晴らしき婚約者、ああ、今は。

 私は現在、結婚式場であるところの教会を外から眺めている。
木陰の涼しいところだ。執事は良い働きをする。

 あらゆる計画を練った私だが、感無量である。
なんせ彼女の晴れやかな姿を見つめることができるのだから。
幸せいっぱいの彼女を見守ることができて、私は……、ぎゅっと片手にある杖を握りしめる。
 とうとう私の足も年寄りになってしまった……。ふう、と人心地がつく。

「マドロラ……」

 何度、彼女の名前を心の中でなぞり、呼び続けたことか。
傍で一歩引いて影のように立つ執事の肩が、私のつぶやきに少しだけ揺れた。

 からん、からん。

重々しい鐘が鳴る。
教会から出てきたたくさんの群衆。
おめかしした関係者が群れて中央の間を開けている。彼女たち夫婦を祝うための門出だ。
ここからが多少、長い。
しばし時間を要したが、私はそれでも立ち続けた。おかげで、見事な花嫁を目にすることができた。

「おお……」

通りすがりの人々も可憐な妖精の美しすぎる白無垢姿に、きれー、と率直な言葉が出てくる。
そうだろう、そうだろう、もっと言ってくれたまえ、と脚長おじさんたる私は頷いた。

「ご主人様……そろそろ、お薬の時間でございます」
「む……もう少し……」
「いけません」

振り向く動作が良くなかったのか、私はよろりとよろけた。
執事もそれなりに同じぐらい歳をとったというのにかくしゃくと、私の重たい体を受け止めた。
日頃鍛えた体をもつせいか、幼馴染みたる彼は私を両手で支えたと同時に、さ、いきましょうとばかりに馬車へと連れていく。押し込められ、杖すらとられてしまった。

「……」

諦める、しかないか……。
頼りなくどうにか乗り込んだ馬車の、その背中越しにきゃーとか騒いだ声がする。
苦労して座り込んだ座席から顔を向ければ、口付けをかわす若夫婦がいらっしゃった。
ズキリ、と軋んだものはなんだっただろうか。

まあいい。
だが、もう少し待ってくれないか。僅かかもしれないが、しかし、……いずれ、私の出番はなくなるだろうが……。

いくら前途ある若者とはいえ、彼女を任せるには時間がいる。
領地に勉学は実地だって重要だ。前公爵夫人から学び続けている最中とはいえ、優秀とはいえ、まだまだ時間がかかると……そう、マドロラの継母はおっしゃっておられた。

……マドロラ……運命の君……。
少しだけ、泣いていいだろうか。純白のレースに包まれた綺麗な君。
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