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二章・愛の世界

やれやれな人生モブおじさん

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 素直にガクっと肩が落ちそうになるけども、歴史に残る程度は浮気していたようで、ベタ惚れされてた妻と家庭円満という一時代を築いた運命の王子様は、そこそこの子供を作ってそれなりに良い人生を送っているようだった。良かった。私、がむしゃらに突撃しなくて。
 もし運命が私と結びつくようなことがあったなら、危うく国際問題になるところだ。

 人知れず身を引いた私は、そんな節操のない王子様を想いながら修道女になったけれど、まあまあ切ない前世よね。
ただ、問題は、そんな過去を宿したまま生まれてしまったのが大問題だ。
 前世アネモネス国の、それも男である。
 男だ。
拗らせたままとうとう私は性別をも超越してしまったものらしい。どういうこと?

 (うーん……、
  そこまで熱い想いを抱えてたっけ?)

 慕っていただろうか?
 うーん。疑問は尽きないが、ま、生まれてきてしまったものはどうしようもない。
 商人の息子として誕生した私である、過去生を抱えたままのこの人生。どう謳歌しよう、と幼いのに賢しらなまま将来を悩む。

 うんうん唸り、閃いたのは前世における新聞記事である。
偏屈そうな記者は旅人らしくあちこちのお国事情を日記帳記述で、読者の目を楽しませて居た。
たまにしか掲載しないコラムだったのでそれだけが惜しいところなれども、ああ、そうか。
 
 世界中を旅するのも、良いかもしれない。

 (たくさんの国へ行って見たい)

 今、小さな男の子でしかない私は自国から出たことがなかった。特に何もない国だ。
あるとしたならば、私が生まれたこの国の隣がまたしても、あの第三王子の血脈、女王を擁したあの国である。
 女王の国は常夏だ。
キラキラ輝くという海だって見てみたいし、しょっぱいというじゃないか。夕日が宝石みたいに眩しくて輝いているらしい。一度きりの人生、見なきゃ損だとか。前世でもこの目に入れたことのない、まさしく冒険。
 
 (うん、最初そこに行こう)

 ぐっと拳を握りしめる。

 運命の相手である彼が生活して居た国であるので、なんともいえない黒々とした思いは前世からしてあるけれども、今じゃそんなもの邪魔でしかない。むしろ、かつての彼が楽しんだ空気や、環境、その景色に親しみを感じるのはワクワクして良いかも、と。気持ちを切り替えたくなった。そして。

 世界中を旅する、という人生の最大目標を叶えるためにもまずは腕を磨かねば。商人としての。

 決意表明と共に小さな握り拳はやがて大きくなり、上背も大きくなった私の商人としての職業はまさしく天職だったようで、みるみるうちに行商人としての立場は大商人、大商団となり、私はあっという間にその頂点に躍り出てしまった。
 大出世にもほどがある。鼻高々。

 隣国にはもちろん腐るほど行った。
 生まれて初めて訪れた時の感動といったらない。
 私の魂に刻まれる海辺の日暮れは、見事なものだった。

(あの人が行くぐらいだから、悪く無い場所だとは思ってたけど。
 食べ物は少し辛いが祖国と味付け変わらないし、文化圏も一緒だから悪くない。
 温暖な気候も良い。風が爽やかで心地よい……)

 夕日が綺麗な海辺。
首都から見渡せるカラッとした景色は最高に気分も良かった。

 (あの人も、この光景を毎日見てただろうか……)

 どう見てもただの男が風光明媚な観光地で泣いてる姿は違和感しかないが、他の観光客は私を放っておいてくれて助かる。

 そんな、順風満帆な人生を送っている、私。
30年、40年と歳を重ねていき、腕も拳も太ましくなり……。

 「げぷっ」

 三段腹になってしまったお腹をさすりつつ、おじさんとしての貫禄がすっかり身に付いてしまったなあ、とボヤく。
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