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切れる3秒前どころじゃない

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 抱きつかれた経緯のせいか元々不機嫌だったのかはわからないが、副会長は戸惑うサギリを他所に大いに眼を開くに開き、

 「……ふざけるな!」

 罵倒し、恐ろしい剣幕で姿を消した。
 
 「え?」

 サギリが驚くのも無理はない。
まるで残像も残さんばかりに全力パンチを仕掛けたのだから。会計に。
 
 「ぐっ」

 振り向くと、襲いかかる副会長からの猛攻にきちっと両腕でガード対応していた。腐っても鯛である。

 「てめ、ふざけろ!」
 「チッ」

 防戦しながらも足蹴りで転ばそうとするあたり、なんだかんだでただのチャラ男ではなかった。
舌打ちかましながら頭突きまで仕掛ける副会長の動きもおかしいが、それをさらりと避けて弾みをつけ、両足でドロップキックする会計をさらにかわしてみせてくるりと、どこに重力置いてきたの? といわんばかりに回転して(それも廊下を転げたのかバック転したのかすらベータのサギリにはわからないぐらい早い動きで)生徒会役員たる彼らの戦いは熾烈を極めた。
 しかも会計は半笑いだ。

 「……なにが可笑しい!」

 ブチギレ副会長はキレッキレのマジ切れ3秒前というかやっぱキレ気味だが。
ぷす、と含み笑いしながらも重たいパンチを受け流す会計の歪つな口はおふざけも止まらない。

 「さすレイ」
 「貴様ァ……」
 
 地獄の底を這うようなおどろおどろしい副会長の声に比例し、ニヤニヤと引きつっていく口元。
 (はは、まさかの秒パンチとは)
 殺意を感じ、守りに入ったのは正解だった。
 力と執念が籠りきったアルファパンチを顔面にキメられでもしたら、唯一の取り柄でもある顔面が陥没するところだ。しかも結構体重乗ってたし。思わずヒュー、と口笛吹いてしまった。

 (やっべ、マジつええ。
  案外とレイはヤル奴だったは……)

 ちょっぴり漏らしそうになったのは内緒だ。
副会長の醜聞があるからこそ、と思っていたが、存外に能力あるやつが努力をすると青天井である。会計だって護身術は嗜んでいるものの、レイの持ち前のポテンシャルと能力はこうして拳を交えてわかるほどに常日頃から鍛えている者のソレであった。おそらくだが、レイと副会長が同級生であり、顔馴染みであるから無意識の手加減があるのかもしれなかった。
 (まあ願望でしかないけどねん)
 ひっそりと冷や汗を垂らしつつ。会計は真っ直ぐに予断なく見据える。ちっとも観念せず、むしろ燃え盛る目をその冷ややかな瞳から発している副会長のその修羅のごとき闘気からは普段のクールな面がすっかり消え去っている。
むしろ、意思を宿した青い瞳は冷え冷えとした炎を轟々と燃やし、白磁の肌を興奮で染めてややも整った美しさを際立たせ、魅力的なギャップすら披露していた。
 黙って立ってさえいれば美しい男ではあるのだ。
 それが、感情豊かに向かってくる。その熱い目線。
 普段が普段の振る舞いなだけに、面白さもこみ上げてくるのも事実だった。
 ただのヘタレかと思っていたのに、とんだ一面を隠し持っていたものだ。ゾクゾクする。
 少しだけ、ほんの少しだけなら抱いてもいいな、と思ったが、一言でも軽口だとしても口にしたものならば、翌日には海魚の餌になってそうだからやめとこう、

 「イテっ」

 と、無事なほうの頬を触りながら思った。ちょっとだけ張り手を喰らってしまった。

 「なにをしている!」
 「あ、やべっ」
 
 さて、こんな攻防を学園側が無視するわけもなく。
元々向かっていたらしい警備員たちによって、この戦いは甲乙つけることすらなく終了した。
 
 
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