33 / 39
その綺麗な顔、後悔させてやんよ
しおりを挟む
(つ、冷たぁ!)
無駄に小綺麗な顔をしてるくせして、中身は凶暴。態度もひどい。
転がった床の上も冷たいが、こいつもだ。癖のある人間は見知っているだけでも片手どころではないが、レイもまた格別である。ふざけんなコラ。なんでそう、嫁ちゃんを困らせたり泣かせたりビビらせたりするねん。や、今はもう泣いてないけどさ。
つか、
(そんなに大事なら囲っとけっつーの!)
でもそれだとサギリちゃんに会えなくなるわいな……、なんて、あくまでも軽いスタイルを崩さない会計である。廊下に転がりながらも、冷静だ。副会長の頭に血が上っているのはまあ手にとるようにわかる。
図書室から嫁ちゃんと二人で出てきたところを目撃してしまい、嫌悪したのだろう。
己の所業については棚に上げて。不特定多数のオメガと乳繰り合ってるくせに。
(まあオレも人のこと言えないけど)
「はぁ……アホくさ」
くたびれ、心底ため息ついた。
氷のような視線を頭上から感じるも、それなりに付き合いのある間柄である、
「よいさっと。
まったく、面倒な性格してるよレイ」
「なんだと?」
誰の手も借りずにサクッと立ち上がり、絶対零度のごとき威圧を放つアルファを見返す。ふふん。
「ふざけているのか?」
銀糸を陽光に煌かせるも、冷ややかささえ感じさせる青い双眸がまたさらに険しくなる。
レイは外見だけはピカイチだ。
長身アルファから放たれるプレッシャーはなかなかのものだし。
ビリビリもくる。が、鼻を鳴らしてやる。ふふふふふん。高いところから見下ろしてやろう。
なにせ、
(……こいつは知らないんだったなあ。
レイは、嫁ちゃんのこと……)
衝撃的だったしな。今もそう。
やや混乱気味だ。
ちら、と会計から隠すようにして立つ長身副会長の背にいるであろうサギリの体格が、はみ出て見えている。
ベータとはいえ、アルファの持つ能力に気付いているのか。どうなのか。
(オレはベータじゃないしなぁ。わからんちーん。
けど……はぁ)
このまま拗れるのもよろしくはなかった。
今後の生徒会運営の要でもある副会長の要職っぷりも考慮してもそうだ。
(番への感情は当人たるアルファでさえ、
どうしようもなく暴発する恐れがあるしぃ)
副会長の剣呑とした態度は変わらずだ。
「お前たち、授業中に、
図書室でなにをしていた」
じ、と見続けるとレイの青い瞳がますます吊り上って行き、勝手にボルテージが上がっていく。
アルファでいうところの番への攻撃、接触はご法度である。その番だと嫁だと認識しているサギリとの逢瀬……にも見えてしまう行動を、アルファの中であるアルファのレイに発見された。まあ別に見られるのはいいんだが(よくないけど)悪いことはしてないし、ここで理由を述べて、ある程度、この過激派アルファを大人しくさせるのも良いのではないか、という考えがないわけでもない。実際、そうだし。
んが、
(……なんかムカ)
である。
会計が。
(なんでこう、超絶に意味不な怒りをぶつけられるワケ?)
元を正せば、きちんと婚約者であるサギリを大切にしないから、こうなるわけである。
疑心暗鬼になるのだ。
アホみたいにつけ回すのも、こいつがアホだからだ。
(ならこう、やっちゃう?)
うずうずとした。
この妙な考えに。
まるで魔が入り込んだかのような隙間だ。するりと入ってきた悪戯心。
レイは悪いやつではない。
ただ、狭量なだけである。
そのさもしい感情をぶつけられる側からしてみるとたまったもんじゃないが、しかし意趣返ししてやっても良いのではないか、という気持ちもないわけではない。
にや、と会計の心の中に住う小悪魔が微笑んだ。
やったれ、と。
(よっしゃ)
さて、どちらが大いに転がったのか。それはわからないが、しかし。
コロコロと転がったさいの目は大いに会計の心を盛り上げる。
おかげで精神もろともあっさりと立ち直り、ニコリと口角を上げて胡散臭い笑みをたたえた会計は、ちょいちょい、と嫁ちゃんへ手招きした。
瞬いたサギリ。
しかし、呼ばれて飛び出る。副会長の後ろから。
まるで悪意を悪意と感じないのは、サギリがあっさりとバラしたからこその気安さがあるからであろう、とととと、とそのオメガらしからぬ長身が近づいてくる。彼の背中を呆気にとられて見つめる副会長は、慌てて手を伸ばそうとしたが、ゆるりとしたなにもない空間だけを掴んだ。
悪い笑みをした会計を見つけるだけの余裕はあったか、否か。
良くも悪くも素直なサギリを、会計はにっこりとまるで聖母のごとき笑みで迎え入れ、両手を広げ。
驚いたのは副会長。びっくりしたけどそのまま会計の前まで進んでしまったサギリ。
会計は非常に満足げに、大いに抱きついた。サギリに。
「あ」
「なっ!」
「ぶふふ」
我ながらぶさいくなほどにこみ上げてくる笑いを口端から殺しきれず漏らしつつも、懐に入れ込んだサギリをぐっときつく抱き留めた会計は、まるで勝利宣言するかのように副会長へと告げた。
「……レイ、
オレたちとっても仲が良いというか、良くなったんだ。
これからも付き合っていくから、今後ともよろしくね?」
無駄に小綺麗な顔をしてるくせして、中身は凶暴。態度もひどい。
転がった床の上も冷たいが、こいつもだ。癖のある人間は見知っているだけでも片手どころではないが、レイもまた格別である。ふざけんなコラ。なんでそう、嫁ちゃんを困らせたり泣かせたりビビらせたりするねん。や、今はもう泣いてないけどさ。
つか、
(そんなに大事なら囲っとけっつーの!)
でもそれだとサギリちゃんに会えなくなるわいな……、なんて、あくまでも軽いスタイルを崩さない会計である。廊下に転がりながらも、冷静だ。副会長の頭に血が上っているのはまあ手にとるようにわかる。
図書室から嫁ちゃんと二人で出てきたところを目撃してしまい、嫌悪したのだろう。
己の所業については棚に上げて。不特定多数のオメガと乳繰り合ってるくせに。
(まあオレも人のこと言えないけど)
「はぁ……アホくさ」
くたびれ、心底ため息ついた。
氷のような視線を頭上から感じるも、それなりに付き合いのある間柄である、
「よいさっと。
まったく、面倒な性格してるよレイ」
「なんだと?」
誰の手も借りずにサクッと立ち上がり、絶対零度のごとき威圧を放つアルファを見返す。ふふん。
「ふざけているのか?」
銀糸を陽光に煌かせるも、冷ややかささえ感じさせる青い双眸がまたさらに険しくなる。
レイは外見だけはピカイチだ。
長身アルファから放たれるプレッシャーはなかなかのものだし。
ビリビリもくる。が、鼻を鳴らしてやる。ふふふふふん。高いところから見下ろしてやろう。
なにせ、
(……こいつは知らないんだったなあ。
レイは、嫁ちゃんのこと……)
衝撃的だったしな。今もそう。
やや混乱気味だ。
ちら、と会計から隠すようにして立つ長身副会長の背にいるであろうサギリの体格が、はみ出て見えている。
ベータとはいえ、アルファの持つ能力に気付いているのか。どうなのか。
(オレはベータじゃないしなぁ。わからんちーん。
けど……はぁ)
このまま拗れるのもよろしくはなかった。
今後の生徒会運営の要でもある副会長の要職っぷりも考慮してもそうだ。
(番への感情は当人たるアルファでさえ、
どうしようもなく暴発する恐れがあるしぃ)
副会長の剣呑とした態度は変わらずだ。
「お前たち、授業中に、
図書室でなにをしていた」
じ、と見続けるとレイの青い瞳がますます吊り上って行き、勝手にボルテージが上がっていく。
アルファでいうところの番への攻撃、接触はご法度である。その番だと嫁だと認識しているサギリとの逢瀬……にも見えてしまう行動を、アルファの中であるアルファのレイに発見された。まあ別に見られるのはいいんだが(よくないけど)悪いことはしてないし、ここで理由を述べて、ある程度、この過激派アルファを大人しくさせるのも良いのではないか、という考えがないわけでもない。実際、そうだし。
んが、
(……なんかムカ)
である。
会計が。
(なんでこう、超絶に意味不な怒りをぶつけられるワケ?)
元を正せば、きちんと婚約者であるサギリを大切にしないから、こうなるわけである。
疑心暗鬼になるのだ。
アホみたいにつけ回すのも、こいつがアホだからだ。
(ならこう、やっちゃう?)
うずうずとした。
この妙な考えに。
まるで魔が入り込んだかのような隙間だ。するりと入ってきた悪戯心。
レイは悪いやつではない。
ただ、狭量なだけである。
そのさもしい感情をぶつけられる側からしてみるとたまったもんじゃないが、しかし意趣返ししてやっても良いのではないか、という気持ちもないわけではない。
にや、と会計の心の中に住う小悪魔が微笑んだ。
やったれ、と。
(よっしゃ)
さて、どちらが大いに転がったのか。それはわからないが、しかし。
コロコロと転がったさいの目は大いに会計の心を盛り上げる。
おかげで精神もろともあっさりと立ち直り、ニコリと口角を上げて胡散臭い笑みをたたえた会計は、ちょいちょい、と嫁ちゃんへ手招きした。
瞬いたサギリ。
しかし、呼ばれて飛び出る。副会長の後ろから。
まるで悪意を悪意と感じないのは、サギリがあっさりとバラしたからこその気安さがあるからであろう、とととと、とそのオメガらしからぬ長身が近づいてくる。彼の背中を呆気にとられて見つめる副会長は、慌てて手を伸ばそうとしたが、ゆるりとしたなにもない空間だけを掴んだ。
悪い笑みをした会計を見つけるだけの余裕はあったか、否か。
良くも悪くも素直なサギリを、会計はにっこりとまるで聖母のごとき笑みで迎え入れ、両手を広げ。
驚いたのは副会長。びっくりしたけどそのまま会計の前まで進んでしまったサギリ。
会計は非常に満足げに、大いに抱きついた。サギリに。
「あ」
「なっ!」
「ぶふふ」
我ながらぶさいくなほどにこみ上げてくる笑いを口端から殺しきれず漏らしつつも、懐に入れ込んだサギリをぐっときつく抱き留めた会計は、まるで勝利宣言するかのように副会長へと告げた。
「……レイ、
オレたちとっても仲が良いというか、良くなったんだ。
これからも付き合っていくから、今後ともよろしくね?」
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君を変える愛
沙羅
BL
運命に縛られたカップルって美味しいですよね……受けが嫌がってるとなお良い。切なげな感じでおわってますが、2人ともちゃんと幸せになってくれるはず。
もともとβだった子がΩになる表現があります。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる