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二人のオメガからの通告

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 サギリ以外は軽薄になりがちな副会長の記憶中枢に、珍しくこのオメガ二人に関してはしっかと刻まれている。サギリのしなやかな腕にすがって平べったい胸を押し付けているほうがよく喋るオメガ、サギリの艶々な黒髪を撫でさすったり、ゴロニャンプレイで婚約者へけしからん膝枕を要求しているのが庭園デートで話題に出たオメガだ。どちらもサギリの長らくの友人である。

 「一体、何の用事ですか」

 休憩時間とはいえ、生徒会役員という立場においても、彼らオメガをこの野獣の群れでしかないアルファクラスにおいてはおけない。ヒートはいついかなる時でもアルファにとって脅威だ。子種を絞ればなんとかなるだろうと安易にアルファに近づく軽薄なオメガだっている、問題になってはいけない。睥睨する。
 (心底ムカつくオメガどもだが、少々威嚇してやれば問題あるまい)
 婚約者にただでさえベタベタする苛立ちの者どもである。
ソワソワと浮ついたアルファたちとは真逆の、冷酷な目を向ける。
 (……とはいえ、サギリの顔も立ててやらねばならんか)
 孤立させてしまうのもかわいそうだ。
怯えさせるだけで十分か、振り払ってしまおう、そうすれば彼らは花園クラスへしおしおと大人しく、

 「サギリがいないんです!」

 副会長の脳が止まった気がした。あ、心臓だったか。

 


 「……どういうことだ!」

 コンマ数秒だったかもしれない。
白目剥いてたように見えた、と証言したのは同じクラスのアルファ男子であったが、それはともかく、この素っ頓狂なレイの叫びは隣のクラス二つや三つぐらいは飛んでいった。
 
 「いた、痛いです! 副会長!」

 知らず知らずのうちに、副会長は目の前のうざいオメガの柔い両肩を力強く掴んでいたし。

 「あ、これはすまない……」

 涙目のオメガから漂う標準装備な色香など気にも留めない取り乱し中のレイは、続けざま、婚約者について尋ねた。

 「どういうことです、サギリは?
  サギリが、どうしたというのです」
 「サギリ、急にいなくなっちゃって……」
 
 いつもはきちんと教科書を準備して先生を待ち構える真面目なサギリが、授業が始まる数分前であっても姿を現わさなかったのだ。帰って、こない。遅い。
 (何かあったのかな……?)
 (具合が悪くて、保健室?
  でも、それならそうと一言……)
 なんだかんだでオメガは無用心では生きてはいけないし、サギリの性格上、友人たちに言伝すら告げないのも変だった。カバンだってある。帰宅もしていないようだし、先生に頼まれた用事が終わっていないか、あるいは……。
 ぶるり、と身を震わせたのは、オメガならではの事情だった。
 オメガには、オメガにとって危険な芳香がある。
 
 「まさか……!」

 と、ここでようやく副会長レイは、婚約者のまずい状況を察した。
言わずともわかる、もしかするとサギリは……。
 (ヒートか!?)
 いくら抑制剤を飲んでいるとはいえ、サギリはオメガだ。
 この学園内部における犯行はできうる限り潰す予定なのは、副会長としてもオメガがそういったものに巻き込まれて悲しい思いをして欲しくなかったから。もっといえば、
 
 (サギリ……!)

 血の気が引く。
 副会長の脳内では、サギリの上にのしかかっている見覚えのないクソアルファが顕在していた。
 涙をたたえ、苦しそうに喘ぐオメガたる婚約者にへこへことした動きは想像とはいえ実に情けなく、後ろからブチコロシたくなる。想像上の産物でも副会長の怒りを買った。彼のたおやかな腕さえも自分のものだし、汗にまみれしっとりとした柔らかそうな黒髪一本だってレイのもの。決して他人に明け渡す予定のないものだ。無理やり開かれたオメガの体は蕾が開くのは自分だけ。他人に渡すつもりはない。というか社会的にヤル。絶対だ。
 たちまちに血の気が集まった便利なセルフ副会長、言動だけは冷静に繋げた。
 
 「…………、
  君たちは、オメガクラスへ戻りなさい」
 「副会長……けど!」
 「貴方のようなオメガがこの学園内部を、
  うろつくほうが危険です。
  首を守りなさい」
 「う……でも、でもでもでも!」
 「かえって邪魔なんです。
  授業中にも戻ってこなかった、
  ということは教師には知らせあるんですね?」

 こくん、と頭を縦に降った平たい体つきのオメガに、レイは、アルファらしく命令した。

 「であれば、これから先は婚約者たる俺の役目だ。
  君たちは花園クラスへ戻りなさい。
  これ以上、そのフェロモンを漂わせたならば、
  かえって邪魔になる」

 面倒なことになる、とはっきりと言い放つレイはすぐさま教室から出て行った。
 早く、行かねば、迎えに行かねばならない。

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