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涙
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僕は、一体何を考えているんだろう。
教室に戻らねばならないのに、とぼとぼと歩いていた。
授業が始まる、それなのに僕の足はクラスから遠のいていく。
そりゃそうだ、
(僕はベータだ)
本来の、居場所じゃあなかった。
頭の芯が痺れているのか、一度目の浮気が頭の中をよぎる。
(綺麗、だった……)
今回は太陽が出てたし、現場はまるで隠し切れていない丸出しな現場だったけれど。
前回の、夕陽に照らされて睦み合うオメガと彼のあれこれは、遠目からも美しく見えた。
なんでだろう。
(まるで、僕が部外者だった……)
婚約者なのに。
絵画でも眺めている気分だった。
あとから、じわじわと何かが心の中を締め付けてきたけれど。
(……)
苦しい。
彼を、愛しているから、こんなに辛いんだろうか?
問い詰めなかったから、浮気を責めなかったから、僕は息苦しいんだろうか?
それとも、
(ただの弱腰だったから……。
僕が、きちんとしなかったから……)
ただの政略結婚だと、そう思いたかったから。
こんなにも悩むんだろうか?
ぐるぐると巡る、過去と、時々、挟まる、見知らぬオメガとの逢瀬。
完全に黒といえる現場は幾度かあったが、しかしそれは口づけばかりだった。
戯れのような、もの。
僕にはキスひとつ送ってくれさえしなかった。
(いや、愛の……、言葉も)
相手を労る声も。
贈り物も。
デートだって、してない。
親からいわれ、ただ目の前の花々を眺めただけ。綺麗に植えられたホテルの庭園は見事なものだった。散歩しただけだ。上の空の、まったくもって楽しそうじゃない婚約者の隣で、僕はどう言えばいいのかわからなくて、年上のアルファのつまらなさそうな横顔を眺め、ぽつり、ぽつりと世間話をするばかりだ。心浮き立つとか、そういったことはちっともなかった。ただ息苦しいだけ。そう、
(彼と……、
レイといると、悲しい)
自分が嫌いになりそうだ。
はっきりいって、彼が悪い。そう、婚約者が。不貞してばかり。何も楽しくない。嬉しくない。彼と、一緒にいるのが面白くない。彼が、見知らぬオメガと仲良さげにしているのをみるのも、喋っているのも、ああやって、
(誰かと、舌を絡めているのを、
みるのも……)
辛い。
辛いよ。
「……っ」
ダメ、ダメだよ、こんなところで。
でも、もう。
「僕……」
だって、ベータだもの。
「う……う、う、あ、あ、ああっ……」
僕は、こみ上げてくる熱に負けた。
熱く、息苦しいものに僕は、自分に敗れた。
「ヤダ……っ」
両手で、流れてくるしょっぱいそれを拭き続ける。
「レイ、嘘つき、
嫌い……やだよ、」
こみ上げてくるものに、馬鹿みたいに考えて、ぐるぐるとしていた気持ちにぐらついた僕は、もう授業が始まっているというのに学園を彷徨いながら泣いていた。
どうして僕はオメガじゃなかったんだろう。
どうして、僕はベータなの?
なんで、彼は、僕を見てくれないんだろう……。
教室に戻らねばならないのに、とぼとぼと歩いていた。
授業が始まる、それなのに僕の足はクラスから遠のいていく。
そりゃそうだ、
(僕はベータだ)
本来の、居場所じゃあなかった。
頭の芯が痺れているのか、一度目の浮気が頭の中をよぎる。
(綺麗、だった……)
今回は太陽が出てたし、現場はまるで隠し切れていない丸出しな現場だったけれど。
前回の、夕陽に照らされて睦み合うオメガと彼のあれこれは、遠目からも美しく見えた。
なんでだろう。
(まるで、僕が部外者だった……)
婚約者なのに。
絵画でも眺めている気分だった。
あとから、じわじわと何かが心の中を締め付けてきたけれど。
(……)
苦しい。
彼を、愛しているから、こんなに辛いんだろうか?
問い詰めなかったから、浮気を責めなかったから、僕は息苦しいんだろうか?
それとも、
(ただの弱腰だったから……。
僕が、きちんとしなかったから……)
ただの政略結婚だと、そう思いたかったから。
こんなにも悩むんだろうか?
ぐるぐると巡る、過去と、時々、挟まる、見知らぬオメガとの逢瀬。
完全に黒といえる現場は幾度かあったが、しかしそれは口づけばかりだった。
戯れのような、もの。
僕にはキスひとつ送ってくれさえしなかった。
(いや、愛の……、言葉も)
相手を労る声も。
贈り物も。
デートだって、してない。
親からいわれ、ただ目の前の花々を眺めただけ。綺麗に植えられたホテルの庭園は見事なものだった。散歩しただけだ。上の空の、まったくもって楽しそうじゃない婚約者の隣で、僕はどう言えばいいのかわからなくて、年上のアルファのつまらなさそうな横顔を眺め、ぽつり、ぽつりと世間話をするばかりだ。心浮き立つとか、そういったことはちっともなかった。ただ息苦しいだけ。そう、
(彼と……、
レイといると、悲しい)
自分が嫌いになりそうだ。
はっきりいって、彼が悪い。そう、婚約者が。不貞してばかり。何も楽しくない。嬉しくない。彼と、一緒にいるのが面白くない。彼が、見知らぬオメガと仲良さげにしているのをみるのも、喋っているのも、ああやって、
(誰かと、舌を絡めているのを、
みるのも……)
辛い。
辛いよ。
「……っ」
ダメ、ダメだよ、こんなところで。
でも、もう。
「僕……」
だって、ベータだもの。
「う……う、う、あ、あ、ああっ……」
僕は、こみ上げてくる熱に負けた。
熱く、息苦しいものに僕は、自分に敗れた。
「ヤダ……っ」
両手で、流れてくるしょっぱいそれを拭き続ける。
「レイ、嘘つき、
嫌い……やだよ、」
こみ上げてくるものに、馬鹿みたいに考えて、ぐるぐるとしていた気持ちにぐらついた僕は、もう授業が始まっているというのに学園を彷徨いながら泣いていた。
どうして僕はオメガじゃなかったんだろう。
どうして、僕はベータなの?
なんで、彼は、僕を見てくれないんだろう……。
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