上 下
23 / 39

浮気者

しおりを挟む
 2度目だ。
 致してる現場に遭遇したのは。

 最初に見た衝撃が強すぎて耐性でもできたのか、思ってたよりも僕の心臓は張り裂けそうなほどではなかった。それでも動悸息切れはする。基本的に人前でみせる行為ではないからであろう。
 そもそもの話、
 (こういった誰が通るかわからないところでヤるっていうのが、
  僕には理解できない)
 不貞だし。
 ショックすぎて、どう考えれば良いか分からなかった。
 だから、生まれて初めて目撃した他人の情事を、そのまま通り過ぎてしまった。あまり深く考えられなかった。
 
 さて、今回の扉は少し、あいている。
 僕は、頼まれたことをやり遂げねばなるまい。
 くぐもった声がするけど。

 そっと、横開きの戸口を一人分、押すようにして広げた。
すると、見たくもない光景だが、やけに人を惹き付ける行為がつまびらかになった。

 (う……)
 何度見ても、いや2回目だけど。
 ひどいものだと思う。理不尽さに、僕の目頭が熱くなる。
 でも、泣いては、いけない。
 噛み締めると、なんとか、熱量は引っ込んだ。泣いてる場合じゃない。
 (端っこにでも置けばいいか)
 実験教室内部の、壁際に。
 そっと、両手で抱えていた実験器具をゆっくりと棚の上に載せた。特に音もなくガラス製品も割れず、しっかりとしたものだ。設計が良いからだろうか。ほっとした僕は、彼らを見ないフリをして、しかし、少しずつ退出した。まるで心からも、何かが出ていくかのようだけれど。

 「レイ、レイ、んんんっ、そこ、もっと奥に……、
  出して、いっぱいぃ……」

 艶のある声とやけに具体的な交わり内容が、耳にこびりつく。
 オメガの興奮した声というものはなんと甘やかなものか。

 「赤ちゃんほしいよぉ……、
  レイ、レイの赤ちゃん……」

 僕には、生まれない。
 産んでやれない。

 「気持ちいい……、
  レイ、もっと……、
  ん、ん、んっ」

 激しい混交がする。
ちゅぱちゅぱと、水音もする。汚らしい、と思った。
 
 「ああああ、あん、あ、んっ、
  すごい、すご、いっぱい出てるっ……」

 最後に振り返ると、さっき見た二人の重なり合う影が色彩を帯び、はっきりと僕の目に映った。
銀色の髪を振り乱し、しっかりとオメガの細い腰を掴み、ぐっと力強く押し付けている浮気者の背中と。彼の腰にしっかりと絡めとっているオメガのたおやかな、生々しい白い素足を。足の指がぎゅうぎゅうに強くくるまっていて、絶対に彼を離すものか、という迸る情熱が感じられる。
 
 見なくてよかったのに、僕はつい、傷つくだろうにこの光景を両目で焼きつける。
 根っこのように張り付く足を動かしたかったけれど、

 「チュー、して、レイぃ……」
 
 オメガの、浅い息をはきながらのおねだりに、婚約者は疲れた息を吐き出しつつも。
 僕の目の前で背を丸め、口づけをしていた。
 なんともいやらしい口づけではあった。
 僕は一度たりとも、彼と、いや、手すら握ったことはない。
 やけに濃厚な淫らな水音もする。
 
 「はぁ……」

 どちらの吐息かわからない。
 だが、婚約者の影にせっかく隠れていたオメガの口元がテラテラと濡れてい、またさらに、婚約者にキスをねだり、大きくその桃色の唇を広げて空気を吸い込むようにして、彼の。

 そこから、僕は金縛りにあっていたかのように身動きできなかった両足を、動かすことができたんだ。
 退出、できた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...