オメガバース（タイトル仮

困ったけど、現実は終わらない

　（結局、今日も言えなかった）

　真っ黒アルファが学園から一人消え去った（というか退学処分）されたが、僕の日常に変化はない。……あるにはあるが。

　「あーどうして僕って肝心な時に……」

　ゴロゴロとベッドの上を転がる。
しかしどうしても言いづらい。長いため息をつきながら、夕食後のコーヒー美味しかったな、なんて黒々とした飲み物の味を舌の上に思い出したけど、結局は苦味が残る。
　（だってそうだよ、僕は今までオメガだったのに。
　　まるで嘘つきみたい……）
　別にそうではないが、しかし取り巻く環境が間違いなく変化する。
　分かってはいるのだ。
　自覚できるぐらい、ぎゅっとしかめっ面してみたけれども何も現実に彩りはなく代わり映えはしない。
　（いや、変わるべきは……僕か）
　自分のことながら、ここまでヘタレだとは思わなかった。
　新生ベータの悩みは尽きない。

　机上には、オメガの残り香である抑制剤と、宿題がある。
　たらふく出された復習問題は一応、オメガに配慮された形のものでアルファほど難しい問題は出ないらしい。僕はアルファの勉強したことないし、関わったことがあるのは婚約者の彼でしかないのでわからないが、しかし、社会を賑わせている人たちが軒並みアルファであるため（たまにベータだっているけど）やっぱり頭の作りが違うというか、レベルが違うのだ。

　（婚約破棄、か……）

　あるいは、婚約解消、かな？
　きっと、そうなるだろう。

　そう、改めて文字にしてみて複雑な心の中で書き起こしてみると、じわり、と目端が緩む。
　だって、そうだよ。
　ずっと、僕は彼と結婚するとばかり思っていた。
　オメガとアルファの結婚だってことで、貴族という立場をもつ特権階級の人と、本来であれば手に触れることさえできなかった人と、わずかばかり会話することができたんだ。縁だってできた。
　（それがここにきて、とんだ間違い、だなんて）
　実はオメガではなく、ベータだったなどと判明し。
　ゾッとする未来しか想像できず……。
　今回の場合、たまたまのケースに該当し、違約金とかなんやかんやはかなり減額するだろうし、穏便に澄ますだろうと浅ましくも計算するけれど。
　
　夕暮れも過ぎた天井は薄暗い。
　まるで現実ではないみたいだ。
　眺めるばかりの僕は、ベッドの上で、堂々としたアルファである彼の姿をなぞってみた。

　銀色の髪を風に遊ばせ、水色の瞳をちらりと向けて、顔を背ける婚約者のこと。
　小さくて、可愛かった時代、わずかな時を過ごしたことを。