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サギリの気持ち
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しおしおの体裁で警備員たちに両脇を抱えられて出てきたアルファの横顔に、サギリはぎょっとした。
(わ、あれって)
確か、花園クラスでも話題になっていたトンデモなアルファだ。名前は忘れた。
宇宙人みたいに連れ立つ、何処かくたびれたアルファの後ろ姿を見送る。
なんでか違和感があり気になったが、そうか、答えは半ケツでシワだらけの制服だ。アルファは面子(めんつ)を気にする。だからか、とサギリは理解した。同情はしないが。
どう考えても中で行われた行為は唾棄すべきことだ。
オメガにだって誇りはある。
好き好んでしてやられるわけじゃない。
愛した人と睦みたいし、キモいのは相手にしたくない。
まるで好き者、という好色なイメージが世間にも広がっているのが懸念材料だが、メディアでも取り上げられやすいテーマがヒートだ。視聴率もよく大概は出てくる。その濡れ場はエロすぎてたまに問題になり、R指定されやすいが話題にはなる。
(すべてのオメガがあんな風にはならない、ってのに)
まったく、と不満を表明したいがそういえば僕はオメガじゃなかった……。
人知れずダメージを受けたサギリは、とりあえず中での問題は解決したんだろうと野次馬のヤジを見つめた。
「あのアルファ、高慢チキだったけど、
滑稽だったな。いやあ、哀れだ」
「無理やりオメガをヒートにして襲ってたって噂、マジ?」
「アルファらしい男だったよ。
最後は情けないお尻丸出しだったけど」
「ウケる」
「もう学園へ通えないな」
「恥ずかしすぎるだろう」
「人生の汚点」
状況は終了したようだ。
(生徒会の人たちも来てたし、これ以上、
ここにいても僕は邪魔だよね……)
それより、残してきたクラスメイトたちのことが気になる。
踵を返し、僕は戻った。
「帰ってきた、サギリ!」
「おかえり!」
「ただいま。無事? だよね」
「うん」
二人とも血色は戻り、いつもの可愛い顔だ。
僕は嬉しくて、近寄ってきて抱きしめてきた彼らの背中に手を回しギュっと気持ちを返した。
心なしが良い匂いがする。花園クラスの生徒だからだろうか?
(それともベータであってもわかるんだろうか、
このオメガの香りを)
考え込めば考えるほどに少々気持ちのほうが落ちこみかねないので、ソワソワとしている彼らに経緯を説明することにした。
「それで、どうだったの?」
「襲われてたオメガ、いた? 大丈夫だった?」
「それがね……」
3人のオメガたちが連れ添って帰っていく。
夕日を浴びて帰宅しようとする彼らを、生徒会室から見送る生徒会役員たち(ひとりを除く)の姿はシュールだ。
「やっぱり可愛いな、あの3人組は」
「……君はそればっかりだね」
「だって本当のことだもんもーん」
「うざ」
「会長は素直な人間だね」
「庶務の笑顔はえぐいな」
庶務の微笑みは対外的であると長年の付き合いで分かっている。
生徒会室にて今回の件について、会長と庶務、とついでの会計は書類と睨めっこしている最中であった。それなのに窓辺にて呑気に彼らオメガたち3人組を見下ろしているのは、副会長がこの場にいないからこそである。
面白い光景が見れそうだから、という機会がピン、ときた会計が立ち上がり、他の二人も追随して並んでいるだけではあるが、どこか昔ながらの付き合いであることは雰囲気と言動でわかる。
「今頃、副会長はどこにいるのかなぁーっと」
「君、分かってるくせに。
きっとほら、あそこだよ統計的に考えて」
「ブフッ」
「会長から生徒会長らしからぬ含み笑い。
明日は槍だ~うっひょひょーって、
いててっ、ガチで痛い!」
「……会長をつつくなんて、
君は、まったく学習しない生き物だね」
会長は堅物なので会計からの意地悪を許しはしない。
(調きょ……怒られるだけだろうに)
そんなことは幼稚園児の頃から分かっているくせして、この会計はいつまでたってもチャラついて楯突くのだから始末に負えないと庶務は心底思う。
(そうやって可愛がろうとするから、
会計が調子乗るんだよね)
庶務はそんなことを心の中で呟きながら、副会長がいるであろう門の影を見やる。
案の定な一人分の影。隠蔽してるようにしてみせているが、成績優秀者で名を馳せるオメガには気付かれているようだ。幸い、なのかどうなのか微妙な線だが、婚約者であるサギリには気付かれてはいないように見受けられる。むしろ発見されたほうが婚約者同士なのだ、両家にとっても良さそうなものを。
「しっかし、本当、
副会長ってデレデレなんだなぁあああ」
やけくそ気味に叫びながら、会計は踏みつけられた足の甲をいたわるように、もう片方の足の裏で器用に表面を撫で擦りながら会長から距離を置く。
「言い訳しながら、
彼らの後ろをぴったりマークしてたからね」
「やることあるから所感書いとけって言われたけどさ、
これって仕事押し付けられただけなんじゃ……?」
「普段から仕事サボってるんだから、
今更何を取り繕っても無駄だぞ会計。
貴様はこの生徒会会長よりも働かねばなるまい。
いつまでも副会長に後始末頼むなよ」
「うへえ、ご勘弁を~」
なぜか発案者であるところの副会長ではなく、思ったよりもきれいな字で今回のことを報告せねばならなくなった会計であったが、しかし、どこか満足げではあった。
(わ、あれって)
確か、花園クラスでも話題になっていたトンデモなアルファだ。名前は忘れた。
宇宙人みたいに連れ立つ、何処かくたびれたアルファの後ろ姿を見送る。
なんでか違和感があり気になったが、そうか、答えは半ケツでシワだらけの制服だ。アルファは面子(めんつ)を気にする。だからか、とサギリは理解した。同情はしないが。
どう考えても中で行われた行為は唾棄すべきことだ。
オメガにだって誇りはある。
好き好んでしてやられるわけじゃない。
愛した人と睦みたいし、キモいのは相手にしたくない。
まるで好き者、という好色なイメージが世間にも広がっているのが懸念材料だが、メディアでも取り上げられやすいテーマがヒートだ。視聴率もよく大概は出てくる。その濡れ場はエロすぎてたまに問題になり、R指定されやすいが話題にはなる。
(すべてのオメガがあんな風にはならない、ってのに)
まったく、と不満を表明したいがそういえば僕はオメガじゃなかった……。
人知れずダメージを受けたサギリは、とりあえず中での問題は解決したんだろうと野次馬のヤジを見つめた。
「あのアルファ、高慢チキだったけど、
滑稽だったな。いやあ、哀れだ」
「無理やりオメガをヒートにして襲ってたって噂、マジ?」
「アルファらしい男だったよ。
最後は情けないお尻丸出しだったけど」
「ウケる」
「もう学園へ通えないな」
「恥ずかしすぎるだろう」
「人生の汚点」
状況は終了したようだ。
(生徒会の人たちも来てたし、これ以上、
ここにいても僕は邪魔だよね……)
それより、残してきたクラスメイトたちのことが気になる。
踵を返し、僕は戻った。
「帰ってきた、サギリ!」
「おかえり!」
「ただいま。無事? だよね」
「うん」
二人とも血色は戻り、いつもの可愛い顔だ。
僕は嬉しくて、近寄ってきて抱きしめてきた彼らの背中に手を回しギュっと気持ちを返した。
心なしが良い匂いがする。花園クラスの生徒だからだろうか?
(それともベータであってもわかるんだろうか、
このオメガの香りを)
考え込めば考えるほどに少々気持ちのほうが落ちこみかねないので、ソワソワとしている彼らに経緯を説明することにした。
「それで、どうだったの?」
「襲われてたオメガ、いた? 大丈夫だった?」
「それがね……」
3人のオメガたちが連れ添って帰っていく。
夕日を浴びて帰宅しようとする彼らを、生徒会室から見送る生徒会役員たち(ひとりを除く)の姿はシュールだ。
「やっぱり可愛いな、あの3人組は」
「……君はそればっかりだね」
「だって本当のことだもんもーん」
「うざ」
「会長は素直な人間だね」
「庶務の笑顔はえぐいな」
庶務の微笑みは対外的であると長年の付き合いで分かっている。
生徒会室にて今回の件について、会長と庶務、とついでの会計は書類と睨めっこしている最中であった。それなのに窓辺にて呑気に彼らオメガたち3人組を見下ろしているのは、副会長がこの場にいないからこそである。
面白い光景が見れそうだから、という機会がピン、ときた会計が立ち上がり、他の二人も追随して並んでいるだけではあるが、どこか昔ながらの付き合いであることは雰囲気と言動でわかる。
「今頃、副会長はどこにいるのかなぁーっと」
「君、分かってるくせに。
きっとほら、あそこだよ統計的に考えて」
「ブフッ」
「会長から生徒会長らしからぬ含み笑い。
明日は槍だ~うっひょひょーって、
いててっ、ガチで痛い!」
「……会長をつつくなんて、
君は、まったく学習しない生き物だね」
会長は堅物なので会計からの意地悪を許しはしない。
(調きょ……怒られるだけだろうに)
そんなことは幼稚園児の頃から分かっているくせして、この会計はいつまでたってもチャラついて楯突くのだから始末に負えないと庶務は心底思う。
(そうやって可愛がろうとするから、
会計が調子乗るんだよね)
庶務はそんなことを心の中で呟きながら、副会長がいるであろう門の影を見やる。
案の定な一人分の影。隠蔽してるようにしてみせているが、成績優秀者で名を馳せるオメガには気付かれているようだ。幸い、なのかどうなのか微妙な線だが、婚約者であるサギリには気付かれてはいないように見受けられる。むしろ発見されたほうが婚約者同士なのだ、両家にとっても良さそうなものを。
「しっかし、本当、
副会長ってデレデレなんだなぁあああ」
やけくそ気味に叫びながら、会計は踏みつけられた足の甲をいたわるように、もう片方の足の裏で器用に表面を撫で擦りながら会長から距離を置く。
「言い訳しながら、
彼らの後ろをぴったりマークしてたからね」
「やることあるから所感書いとけって言われたけどさ、
これって仕事押し付けられただけなんじゃ……?」
「普段から仕事サボってるんだから、
今更何を取り繕っても無駄だぞ会計。
貴様はこの生徒会会長よりも働かねばなるまい。
いつまでも副会長に後始末頼むなよ」
「うへえ、ご勘弁を~」
なぜか発案者であるところの副会長ではなく、思ったよりもきれいな字で今回のことを報告せねばならなくなった会計であったが、しかし、どこか満足げではあった。
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