20 / 39
サギリの気持ち
しおりを挟む
しおしおの体裁で警備員たちに両脇を抱えられて出てきたアルファの横顔に、サギリはぎょっとした。
(わ、あれって)
確か、花園クラスでも話題になっていたトンデモなアルファだ。名前は忘れた。
宇宙人みたいに連れ立つ、何処かくたびれたアルファの後ろ姿を見送る。
なんでか違和感があり気になったが、そうか、答えは半ケツでシワだらけの制服だ。アルファは面子(めんつ)を気にする。だからか、とサギリは理解した。同情はしないが。
どう考えても中で行われた行為は唾棄すべきことだ。
オメガにだって誇りはある。
好き好んでしてやられるわけじゃない。
愛した人と睦みたいし、キモいのは相手にしたくない。
まるで好き者、という好色なイメージが世間にも広がっているのが懸念材料だが、メディアでも取り上げられやすいテーマがヒートだ。視聴率もよく大概は出てくる。その濡れ場はエロすぎてたまに問題になり、R指定されやすいが話題にはなる。
(すべてのオメガがあんな風にはならない、ってのに)
まったく、と不満を表明したいがそういえば僕はオメガじゃなかった……。
人知れずダメージを受けたサギリは、とりあえず中での問題は解決したんだろうと野次馬のヤジを見つめた。
「あのアルファ、高慢チキだったけど、
滑稽だったな。いやあ、哀れだ」
「無理やりオメガをヒートにして襲ってたって噂、マジ?」
「アルファらしい男だったよ。
最後は情けないお尻丸出しだったけど」
「ウケる」
「もう学園へ通えないな」
「恥ずかしすぎるだろう」
「人生の汚点」
状況は終了したようだ。
(生徒会の人たちも来てたし、これ以上、
ここにいても僕は邪魔だよね……)
それより、残してきたクラスメイトたちのことが気になる。
踵を返し、僕は戻った。
「帰ってきた、サギリ!」
「おかえり!」
「ただいま。無事? だよね」
「うん」
二人とも血色は戻り、いつもの可愛い顔だ。
僕は嬉しくて、近寄ってきて抱きしめてきた彼らの背中に手を回しギュっと気持ちを返した。
心なしが良い匂いがする。花園クラスの生徒だからだろうか?
(それともベータであってもわかるんだろうか、
このオメガの香りを)
考え込めば考えるほどに少々気持ちのほうが落ちこみかねないので、ソワソワとしている彼らに経緯を説明することにした。
「それで、どうだったの?」
「襲われてたオメガ、いた? 大丈夫だった?」
「それがね……」
3人のオメガたちが連れ添って帰っていく。
夕日を浴びて帰宅しようとする彼らを、生徒会室から見送る生徒会役員たち(ひとりを除く)の姿はシュールだ。
「やっぱり可愛いな、あの3人組は」
「……君はそればっかりだね」
「だって本当のことだもんもーん」
「うざ」
「会長は素直な人間だね」
「庶務の笑顔はえぐいな」
庶務の微笑みは対外的であると長年の付き合いで分かっている。
生徒会室にて今回の件について、会長と庶務、とついでの会計は書類と睨めっこしている最中であった。それなのに窓辺にて呑気に彼らオメガたち3人組を見下ろしているのは、副会長がこの場にいないからこそである。
面白い光景が見れそうだから、という機会がピン、ときた会計が立ち上がり、他の二人も追随して並んでいるだけではあるが、どこか昔ながらの付き合いであることは雰囲気と言動でわかる。
「今頃、副会長はどこにいるのかなぁーっと」
「君、分かってるくせに。
きっとほら、あそこだよ統計的に考えて」
「ブフッ」
「会長から生徒会長らしからぬ含み笑い。
明日は槍だ~うっひょひょーって、
いててっ、ガチで痛い!」
「……会長をつつくなんて、
君は、まったく学習しない生き物だね」
会長は堅物なので会計からの意地悪を許しはしない。
(調きょ……怒られるだけだろうに)
そんなことは幼稚園児の頃から分かっているくせして、この会計はいつまでたってもチャラついて楯突くのだから始末に負えないと庶務は心底思う。
(そうやって可愛がろうとするから、
会計が調子乗るんだよね)
庶務はそんなことを心の中で呟きながら、副会長がいるであろう門の影を見やる。
案の定な一人分の影。隠蔽してるようにしてみせているが、成績優秀者で名を馳せるオメガには気付かれているようだ。幸い、なのかどうなのか微妙な線だが、婚約者であるサギリには気付かれてはいないように見受けられる。むしろ発見されたほうが婚約者同士なのだ、両家にとっても良さそうなものを。
「しっかし、本当、
副会長ってデレデレなんだなぁあああ」
やけくそ気味に叫びながら、会計は踏みつけられた足の甲をいたわるように、もう片方の足の裏で器用に表面を撫で擦りながら会長から距離を置く。
「言い訳しながら、
彼らの後ろをぴったりマークしてたからね」
「やることあるから所感書いとけって言われたけどさ、
これって仕事押し付けられただけなんじゃ……?」
「普段から仕事サボってるんだから、
今更何を取り繕っても無駄だぞ会計。
貴様はこの生徒会会長よりも働かねばなるまい。
いつまでも副会長に後始末頼むなよ」
「うへえ、ご勘弁を~」
なぜか発案者であるところの副会長ではなく、思ったよりもきれいな字で今回のことを報告せねばならなくなった会計であったが、しかし、どこか満足げではあった。
(わ、あれって)
確か、花園クラスでも話題になっていたトンデモなアルファだ。名前は忘れた。
宇宙人みたいに連れ立つ、何処かくたびれたアルファの後ろ姿を見送る。
なんでか違和感があり気になったが、そうか、答えは半ケツでシワだらけの制服だ。アルファは面子(めんつ)を気にする。だからか、とサギリは理解した。同情はしないが。
どう考えても中で行われた行為は唾棄すべきことだ。
オメガにだって誇りはある。
好き好んでしてやられるわけじゃない。
愛した人と睦みたいし、キモいのは相手にしたくない。
まるで好き者、という好色なイメージが世間にも広がっているのが懸念材料だが、メディアでも取り上げられやすいテーマがヒートだ。視聴率もよく大概は出てくる。その濡れ場はエロすぎてたまに問題になり、R指定されやすいが話題にはなる。
(すべてのオメガがあんな風にはならない、ってのに)
まったく、と不満を表明したいがそういえば僕はオメガじゃなかった……。
人知れずダメージを受けたサギリは、とりあえず中での問題は解決したんだろうと野次馬のヤジを見つめた。
「あのアルファ、高慢チキだったけど、
滑稽だったな。いやあ、哀れだ」
「無理やりオメガをヒートにして襲ってたって噂、マジ?」
「アルファらしい男だったよ。
最後は情けないお尻丸出しだったけど」
「ウケる」
「もう学園へ通えないな」
「恥ずかしすぎるだろう」
「人生の汚点」
状況は終了したようだ。
(生徒会の人たちも来てたし、これ以上、
ここにいても僕は邪魔だよね……)
それより、残してきたクラスメイトたちのことが気になる。
踵を返し、僕は戻った。
「帰ってきた、サギリ!」
「おかえり!」
「ただいま。無事? だよね」
「うん」
二人とも血色は戻り、いつもの可愛い顔だ。
僕は嬉しくて、近寄ってきて抱きしめてきた彼らの背中に手を回しギュっと気持ちを返した。
心なしが良い匂いがする。花園クラスの生徒だからだろうか?
(それともベータであってもわかるんだろうか、
このオメガの香りを)
考え込めば考えるほどに少々気持ちのほうが落ちこみかねないので、ソワソワとしている彼らに経緯を説明することにした。
「それで、どうだったの?」
「襲われてたオメガ、いた? 大丈夫だった?」
「それがね……」
3人のオメガたちが連れ添って帰っていく。
夕日を浴びて帰宅しようとする彼らを、生徒会室から見送る生徒会役員たち(ひとりを除く)の姿はシュールだ。
「やっぱり可愛いな、あの3人組は」
「……君はそればっかりだね」
「だって本当のことだもんもーん」
「うざ」
「会長は素直な人間だね」
「庶務の笑顔はえぐいな」
庶務の微笑みは対外的であると長年の付き合いで分かっている。
生徒会室にて今回の件について、会長と庶務、とついでの会計は書類と睨めっこしている最中であった。それなのに窓辺にて呑気に彼らオメガたち3人組を見下ろしているのは、副会長がこの場にいないからこそである。
面白い光景が見れそうだから、という機会がピン、ときた会計が立ち上がり、他の二人も追随して並んでいるだけではあるが、どこか昔ながらの付き合いであることは雰囲気と言動でわかる。
「今頃、副会長はどこにいるのかなぁーっと」
「君、分かってるくせに。
きっとほら、あそこだよ統計的に考えて」
「ブフッ」
「会長から生徒会長らしからぬ含み笑い。
明日は槍だ~うっひょひょーって、
いててっ、ガチで痛い!」
「……会長をつつくなんて、
君は、まったく学習しない生き物だね」
会長は堅物なので会計からの意地悪を許しはしない。
(調きょ……怒られるだけだろうに)
そんなことは幼稚園児の頃から分かっているくせして、この会計はいつまでたってもチャラついて楯突くのだから始末に負えないと庶務は心底思う。
(そうやって可愛がろうとするから、
会計が調子乗るんだよね)
庶務はそんなことを心の中で呟きながら、副会長がいるであろう門の影を見やる。
案の定な一人分の影。隠蔽してるようにしてみせているが、成績優秀者で名を馳せるオメガには気付かれているようだ。幸い、なのかどうなのか微妙な線だが、婚約者であるサギリには気付かれてはいないように見受けられる。むしろ発見されたほうが婚約者同士なのだ、両家にとっても良さそうなものを。
「しっかし、本当、
副会長ってデレデレなんだなぁあああ」
やけくそ気味に叫びながら、会計は踏みつけられた足の甲をいたわるように、もう片方の足の裏で器用に表面を撫で擦りながら会長から距離を置く。
「言い訳しながら、
彼らの後ろをぴったりマークしてたからね」
「やることあるから所感書いとけって言われたけどさ、
これって仕事押し付けられただけなんじゃ……?」
「普段から仕事サボってるんだから、
今更何を取り繕っても無駄だぞ会計。
貴様はこの生徒会会長よりも働かねばなるまい。
いつまでも副会長に後始末頼むなよ」
「うへえ、ご勘弁を~」
なぜか発案者であるところの副会長ではなく、思ったよりもきれいな字で今回のことを報告せねばならなくなった会計であったが、しかし、どこか満足げではあった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる