オメガバース（タイトル仮

薬

　さほど眠れずに朝となり、しょぼしょぼ髪のままでぼうっとして。
いつもの習慣で、サイドテーブルにある薬へと顔を向ける。飲みやすいサイズで常用しているカプセルが、カーテン越しに照らされてピカリ、と半透明の鈍い光を放った。

　「あと3個、か……」

　少ないな、って思っていたところ、ハッとする。

　「あ」

　別にいらないのだと思い直した。
　そういや僕はオメガじゃなくなったんだ……。
　（変なの）
　摘んで眺める。
　捨てようかと思ったけれど、ゴミとして処分するにしてはなかなかどうして高価なものだ。
商売人の家に生まれた僕は、お金に関してはポリシィ、ってやつを受け継いでいる。
お小遣いだって毎月決められた額だ。必要経費は別途もらえるけれど、それでもお金をやりくりして学生生活を送らねばならないため、周りの過保護にされてきたオメガたちと違って、僕はあまりコストのかからない暮らしを嗜んでいる。
　だもんで、この薬を捨てるに捨てられない。
あ、もちろんオメガとして必要なものだからきちんとお小遣いとは別枠で薬代はもらっているけれど。
　しかし、一般的には高価な薬ではあるため容易に破棄するにしてはもったいないものではある。
　うーん、と唸っていると、扉をノックする音がした。

　「坊っちゃま、お目覚めですか」
　「はーい」

　あ、お手伝いさんの声だ。
　慌ててスマホをタップして覗き込めば、薄暗い室内で輝く時間はいつもの起床時間をとっくに過ぎていた。
もつれるようにして僕はベッドから飛び降りて、制服に着替える。
　ゴト、と床にスマホが落ちたけれど派手な音ではなかったためそのままにして。
　表示された時間が通り過ぎて、婚約者の名前と電話番号の表示があるのを僕はまったくもって気づけなかった。