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忍び寄る未来
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「ただいま」
「お帰りなさい、坊ちゃま」
「ん」
頷き、靴を脱ぐ。
「坊ちゃま、お夕食いかがなさいますか?」
「食べ、たいような、そうでもないような」
「あらあら、間食されたのですか?」
「そう、かも」
「あらあら」
それなりに大きな商いをしているため、僕の家はそこそこデカい。
お手伝いさんもいて、彼女は子供の頃から僕の面倒をみてくれている優しい女性。ちなみにベータだ。
「お父さん、お母さんは?」
「お出かけですよ、坊ちゃま。
お忘れですか?」
コロコロと笑いながら、お手伝いさんは朝食時、家族団らんの時間に互いにそれぞれのスケジュールを言い合ったことを指摘する。僕は苦笑する。
「そうだった」
分かってた。
でも、万が一ってこともあったから。だから、ほっとした。
ふかふかベッドに仰向けになり、スマホで検索。
世の中便利だ、こんなにも情報が溢れていて必要なデータを取り出すことができるんだから。
「オメガ、ベータ、判明」
「ベータ、だった件」
「実は間違い」
「病院ケアレスミス」
んー、と僕は呻きながら、あれこれと。
信じたい内容を見たくて、読みたくて次々とページを変え、時間を忘れて読み進めていくけれど。
どれもこれも、僕の望む結果は出てこなかった。
薄暗い僕の部屋で、僕は急に寂しくなってたまらなくなり、とあるデータを表示させる。
彼の、名前と電話番号だ。
「レイ」
僕の、婚約者。
電話番号は数年前、なんでか親から登録しろといわれ、仕方なく互いに交換したときのままの番号だ。もしかすると、彼はこの番号を違うものにしたのかもしれなかった。それでも僕は、当時のまま登録し続けている。まさか両親も、ここまで僕とレイが話し合うことも、二人っきりのデートとかそういったこともしないままでいる間柄であるということも露ほどに思わなかっただろう。時々思わせぶりに目配せすることはあるけれども、それでも僕たちはこのままでい続けた。だって仕方ない、互いが互いにあまりに違いすぎるものだったから。外見も、そして頭の良さも。話題だって、見付けられなかった。
幾度目かの夜、僕はレイと夕ご飯を食べて満腹のままホテルの庭園を夕涼みとして歩き。
お互いの両親監修の元、整えられた花の間を進み、遠くを見渡したんだった。
彼は決して、僕と目を合わせなかった。
食事中も、手元にある綺麗な色彩で盛り合わせのされた刺身をぱくっと。その整った細い眉を一度たりとも困らせず、僕の父からの勉学の進み具合はどうかというありきたりな質問を丁寧に答えて。
食べるときのレイの所作、いちいち綺麗だったな。
(それに、レイは)
僕のこと、初対面時から嫌いだっただろうな。食事中も決して僕を見ることはなかった。
それでいて、あんなにも色んなオメガと浮名を流し続けている。僕との婚約が不服という証だ。
「……レイ」
彼の名をこっそりと呼ぶと、なんだか息苦しい。
でもまだ、僕とレイは、まだ婚約者同士。そのままなんだ。
きゅっとスマホを握りしめ、心臓の上あたりに置くとますます現実というものが、遠くから歩み寄ってくるものなのだと感じ、怖くなる。
「お帰りなさい、坊ちゃま」
「ん」
頷き、靴を脱ぐ。
「坊ちゃま、お夕食いかがなさいますか?」
「食べ、たいような、そうでもないような」
「あらあら、間食されたのですか?」
「そう、かも」
「あらあら」
それなりに大きな商いをしているため、僕の家はそこそこデカい。
お手伝いさんもいて、彼女は子供の頃から僕の面倒をみてくれている優しい女性。ちなみにベータだ。
「お父さん、お母さんは?」
「お出かけですよ、坊ちゃま。
お忘れですか?」
コロコロと笑いながら、お手伝いさんは朝食時、家族団らんの時間に互いにそれぞれのスケジュールを言い合ったことを指摘する。僕は苦笑する。
「そうだった」
分かってた。
でも、万が一ってこともあったから。だから、ほっとした。
ふかふかベッドに仰向けになり、スマホで検索。
世の中便利だ、こんなにも情報が溢れていて必要なデータを取り出すことができるんだから。
「オメガ、ベータ、判明」
「ベータ、だった件」
「実は間違い」
「病院ケアレスミス」
んー、と僕は呻きながら、あれこれと。
信じたい内容を見たくて、読みたくて次々とページを変え、時間を忘れて読み進めていくけれど。
どれもこれも、僕の望む結果は出てこなかった。
薄暗い僕の部屋で、僕は急に寂しくなってたまらなくなり、とあるデータを表示させる。
彼の、名前と電話番号だ。
「レイ」
僕の、婚約者。
電話番号は数年前、なんでか親から登録しろといわれ、仕方なく互いに交換したときのままの番号だ。もしかすると、彼はこの番号を違うものにしたのかもしれなかった。それでも僕は、当時のまま登録し続けている。まさか両親も、ここまで僕とレイが話し合うことも、二人っきりのデートとかそういったこともしないままでいる間柄であるということも露ほどに思わなかっただろう。時々思わせぶりに目配せすることはあるけれども、それでも僕たちはこのままでい続けた。だって仕方ない、互いが互いにあまりに違いすぎるものだったから。外見も、そして頭の良さも。話題だって、見付けられなかった。
幾度目かの夜、僕はレイと夕ご飯を食べて満腹のままホテルの庭園を夕涼みとして歩き。
お互いの両親監修の元、整えられた花の間を進み、遠くを見渡したんだった。
彼は決して、僕と目を合わせなかった。
食事中も、手元にある綺麗な色彩で盛り合わせのされた刺身をぱくっと。その整った細い眉を一度たりとも困らせず、僕の父からの勉学の進み具合はどうかというありきたりな質問を丁寧に答えて。
食べるときのレイの所作、いちいち綺麗だったな。
(それに、レイは)
僕のこと、初対面時から嫌いだっただろうな。食事中も決して僕を見ることはなかった。
それでいて、あんなにも色んなオメガと浮名を流し続けている。僕との婚約が不服という証だ。
「……レイ」
彼の名をこっそりと呼ぶと、なんだか息苦しい。
でもまだ、僕とレイは、まだ婚約者同士。そのままなんだ。
きゅっとスマホを握りしめ、心臓の上あたりに置くとますます現実というものが、遠くから歩み寄ってくるものなのだと感じ、怖くなる。
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