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 真・バースが判明した病院帰りに、僕はぶらりと立ち寄った書店にてアルファ、オメガ、ベータの本を探す。

 「あ、違った」

 僕はこれからベータとして生きねばならないので、オメガの本ばかり読んではいられない。
 悩んではいたので、少しは読んでいたのだ。
 (でも、これからは別の生き方を模索していかなきゃ)
 そのためには情報を集めねば……。
 けれど僕の足は慌てて別のコーナーへと向かい、それなりに読めそうだとパラ見した文庫本を片手にレジへとお金を払いに行く。カバーは僕はかけてもらう派だ。
 ありがとうございましたーの声を背景に、そっと近場にある公園へと踏み入れた。
 茂る緑が瑞々しい、人が閑散としたところだ。子連れもいる。
なんとはなしに彼らとは距離を置き、人がさらにまばらで誰も僕のことなど興味を持たないであろう隅っこへと突き進んだ。日当たりは良さそう。ぐるりと見回し、公園のベンチに座る。

 「……ふう」

 目の前にある池とも沼ともいえない水辺を眺める。青臭い。立ち込めた匂いから、また僕は色々と考えが浮かんでは消え、取り留めのないことばかりが頭の中をぐるぐると巡っていった。疲れる。
 (深呼吸しよう)
 そうだ、気分転換だ。決してフェロモンのこととか考えてはいけない。
 すーはー、と怪しい人みたいな吸い方をわざとしてみる。誰も見てはいない。
 しばらくそうして気持ちを落ち着けてから、僕はがさがさと購入したばかりの文庫を取り出す。
 ぺら、ぺら。
 黙々と読み続けた。
でも、目が全然文字に追いつけない。
 直射日光が、紙の白い部分を照射してまるでスポットライトを浴びているみたいになっているが、決して眩しいから読めないってことではない。ただ単に、僕の心が大荒れなだけ。
 未来のこととか、将来のこと。たくさんのこと。これからのこと。
 深く考えれば考えるほどに、辛い。
 今日ばかりは、何も考えずに眠りたい。お昼寝にもちょうどいいかもしれない。
 ほどよい風が吹いている。

 「んー……」

 といっても眠気はないし。
帰っても、ね。何も。
 (いいや、違う)
 僕は、分かっていた。

 しばらくそうして、僕はたなびく空の夕闇を見詰めていた。
冷たく、呼気さえも寒々しくなってきた頃、ようやく僕は立ち上がって帰路につくことにした。
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