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サギリ
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僕はサギリ。
なんの特徴もないオメガだと散々に馬鹿にされ続けて生きてきた、元オメガの新生ベータ。
いや、Newベータ。ただのベータになった。
僕の家は生まれながらにしてそれなりに商いをしてきた、成り上がりの家だ。
成金な家なので旧家の血筋を入れたいと常々思っていたらしく、貴族階級の血統であるアルファを取り入れたくて仕方ない僕の実家はオメガという性質を帯びた僕の誕生を、それはもう、万歳三唱で親戚一同大喜びをした変な家である。
とにかく商売大好きな家なので上流階級への販路商売をしたくてしたくて、成り上がりと揶揄されつつも信用を得たくて得たくて、長い長い歳月を経て細工という賄賂やらあれこれを使いまくった結果、アルファの婚約者を取り付けることに成功した。
アルファは貴族階級しかいない。
そのため、僕の実家の商売は貴族階級に対し、うなぎ上りで高付加価値の商品を売りつけることができて高笑いが止まらない。粗悪商品を売買している訳ではないので到底悪評になりようはないけれども、それでも成り上がりというレッテルはいつまでたっても消えない。
僕がアルファとの間に子ができればたちどころに消えるだろう、とは社交界から帰ってきた家族がことあるごとに言っては管を巻くけれど。とはいえ婚約程度でもさすがはアルファ、なかなか良い商売ができて金回りがダンチで良好、ついでとばかりに実家が大きくなっていくと婚約者の家ともつながりが深くなるものか、僕の親とアルファの親は茶飲み友達という間柄にまで親密になった。
そのアルファの家の息子でかつ婚約者のレイは、僕のことが嫌いで嫌いで仕方ない、という険悪な間柄ではあるけれども。
銀糸の髪をたなびかせ、冷ややかな青を双眸に宿す氷の魔性。
美しきアルファ、レイ。
初めて目にしたとき、吸い寄せられるように視線が美少年極まりない彼に縫い止められてしまい、ドキマギとしたものだ。彼は一度僕を視界に収めたあと、ぷい、と。嫌そうな顔をした。あっという間の見合いの場ではあったけれども、そのたった一度の出会いでもって、彼と僕は婚約という縁を結んだのだった。
(小さかったレイ、可愛かったな)
今日もまた、僕は窓辺によりかかり、婚約者のレイと見知らぬオメガの逢瀬を目で楽しむ。
木陰に寄り添い、口づけし合う彼ら。まるで映画のワンシーンのような麗しさだ。
「おい、サギリ。
いいのか? アレ」
「いいよ別に」
「良くないだろ……」
クラスメイトたちは、僕の平然とした様子に呆れた声を出す。
「君の婚約者だろ?
あ~もう、アルファらしく傲慢だし浮気ばっかりして情けないったら」
「でも僕は平気だ」
「そりゃあ、お前はそうかもしれないけどさ」
なんでかクラスメイトたちのほうが気を利かしてあれこれと、文句を言い続ける。
「14回目だっけ? 浮気」
「違うよ、15回目だ」
「そう? でも、先輩もよくやるよね本当」
きゃぴきゃぴとした可愛らしいクラスメイト達の相槌が、僕の背後で聞こえる。
僕はオメガ、だったのでオメガクラスというオメガしかいない学級に在籍しているため、まるで花園といわんばかりの可愛らしい目鼻立ちの子たちばかりに囲まれている。
アルファに愛されるべし。
それがこのクラスのある種、スローガンといっていい。
ちなみに僕の婚約者との浮気は、このクラスからは出ることはない。
二股アルファは死すべし!
それもまた、このクラスの第二のスローガン。とっても仲が良いクラスなのだ。浮気者は殺される。だから、クラスメイトの婚約者を誘惑するオメガなんて出るはずもない。それぐらい仲良しこよしなクラスなのだ。
「サギリ、あいつらさぁ、
あのおじいちゃん大木の陰でいちゃついてるけど、
ここから丸見えだって気付いてるんかな」
「さあねえ」
「わざとかな?」
「サギリに気付いて欲しいとか?」
「まっさかぁ」
このまっさかぁ、は僕の発言だけれども、ぷんすか怒る僕のクラスメイトは、頬を膨らませて、大きな瞳をますます大きくさせて潤ませる。小リスみたいに可愛い。
だってこの前は使われていない教室で、良い感じだったしなあレイ。場所に貴賎はないみたいだ。
「もう!
サギリは可愛いんだよ!
こんなに可愛いのに、あいつっ」
「千切って」
「ちょんぎって」
「河童の川流れにしてやりたいねっ!」
なんて。愛らしいオメガたちが次々に言うのだから、僕はなんとも神妙な顔になってしまう。悲しいかな、僕の顔は平凡極まりない。オメガなのに、細い目、かさついた頬。平らな顔だち。体は細長く、ひょろりとしていて触り心地は悪そう。クラスメイトたちによって肌に合うボディローションこれだとお勧めをよく貰うけれども、使用してもかさつく肌は止められない。だから浮気されるのも仕方ないって思ってた。それに家と家の付き合いでの婚約。アルファである婚約者は見目も良いし、頭も良いうえに教師からの受けが良く、気付けば生徒会の副会長までやっていた。親に連れられて実家に顔見せや家族ぐるみでの会食等以外、面と向かって話す機会なんてさほどもなく、あとはこの学園の檀上で生徒会役員としての任務を全うしているのを眺めるぐらいだ。
学年もひとつ違うし、接点があまりにも少ない婚約者なため、正直、彼が本当に僕と婚約しているのかどうなのか猜疑心を持っていたりする。
ちなみにこの日の午後、僕はベータだって判明するのだから運命という物は不思議なものである。
「……そっか、僕オメガじゃなかったんだ」
道理で話についていけない時があると思った。
オメガは尻が濡れるらしい、という教育をキャーキャー言いながら座学で学んだクラスメイトと違い、僕はお尻が濡れるってどういう状況だよってチンプンカンプンだったんだ。
そりゃそうか、僕は実はベータだったんだから。分かるはずがない。というか、濡れるはずがない。
「そっかあ」
なんだか胸の奥がきゅ、ってなるけれど。
なんの特徴もないオメガだと散々に馬鹿にされ続けて生きてきた、元オメガの新生ベータ。
いや、Newベータ。ただのベータになった。
僕の家は生まれながらにしてそれなりに商いをしてきた、成り上がりの家だ。
成金な家なので旧家の血筋を入れたいと常々思っていたらしく、貴族階級の血統であるアルファを取り入れたくて仕方ない僕の実家はオメガという性質を帯びた僕の誕生を、それはもう、万歳三唱で親戚一同大喜びをした変な家である。
とにかく商売大好きな家なので上流階級への販路商売をしたくてしたくて、成り上がりと揶揄されつつも信用を得たくて得たくて、長い長い歳月を経て細工という賄賂やらあれこれを使いまくった結果、アルファの婚約者を取り付けることに成功した。
アルファは貴族階級しかいない。
そのため、僕の実家の商売は貴族階級に対し、うなぎ上りで高付加価値の商品を売りつけることができて高笑いが止まらない。粗悪商品を売買している訳ではないので到底悪評になりようはないけれども、それでも成り上がりというレッテルはいつまでたっても消えない。
僕がアルファとの間に子ができればたちどころに消えるだろう、とは社交界から帰ってきた家族がことあるごとに言っては管を巻くけれど。とはいえ婚約程度でもさすがはアルファ、なかなか良い商売ができて金回りがダンチで良好、ついでとばかりに実家が大きくなっていくと婚約者の家ともつながりが深くなるものか、僕の親とアルファの親は茶飲み友達という間柄にまで親密になった。
そのアルファの家の息子でかつ婚約者のレイは、僕のことが嫌いで嫌いで仕方ない、という険悪な間柄ではあるけれども。
銀糸の髪をたなびかせ、冷ややかな青を双眸に宿す氷の魔性。
美しきアルファ、レイ。
初めて目にしたとき、吸い寄せられるように視線が美少年極まりない彼に縫い止められてしまい、ドキマギとしたものだ。彼は一度僕を視界に収めたあと、ぷい、と。嫌そうな顔をした。あっという間の見合いの場ではあったけれども、そのたった一度の出会いでもって、彼と僕は婚約という縁を結んだのだった。
(小さかったレイ、可愛かったな)
今日もまた、僕は窓辺によりかかり、婚約者のレイと見知らぬオメガの逢瀬を目で楽しむ。
木陰に寄り添い、口づけし合う彼ら。まるで映画のワンシーンのような麗しさだ。
「おい、サギリ。
いいのか? アレ」
「いいよ別に」
「良くないだろ……」
クラスメイトたちは、僕の平然とした様子に呆れた声を出す。
「君の婚約者だろ?
あ~もう、アルファらしく傲慢だし浮気ばっかりして情けないったら」
「でも僕は平気だ」
「そりゃあ、お前はそうかもしれないけどさ」
なんでかクラスメイトたちのほうが気を利かしてあれこれと、文句を言い続ける。
「14回目だっけ? 浮気」
「違うよ、15回目だ」
「そう? でも、先輩もよくやるよね本当」
きゃぴきゃぴとした可愛らしいクラスメイト達の相槌が、僕の背後で聞こえる。
僕はオメガ、だったのでオメガクラスというオメガしかいない学級に在籍しているため、まるで花園といわんばかりの可愛らしい目鼻立ちの子たちばかりに囲まれている。
アルファに愛されるべし。
それがこのクラスのある種、スローガンといっていい。
ちなみに僕の婚約者との浮気は、このクラスからは出ることはない。
二股アルファは死すべし!
それもまた、このクラスの第二のスローガン。とっても仲が良いクラスなのだ。浮気者は殺される。だから、クラスメイトの婚約者を誘惑するオメガなんて出るはずもない。それぐらい仲良しこよしなクラスなのだ。
「サギリ、あいつらさぁ、
あのおじいちゃん大木の陰でいちゃついてるけど、
ここから丸見えだって気付いてるんかな」
「さあねえ」
「わざとかな?」
「サギリに気付いて欲しいとか?」
「まっさかぁ」
このまっさかぁ、は僕の発言だけれども、ぷんすか怒る僕のクラスメイトは、頬を膨らませて、大きな瞳をますます大きくさせて潤ませる。小リスみたいに可愛い。
だってこの前は使われていない教室で、良い感じだったしなあレイ。場所に貴賎はないみたいだ。
「もう!
サギリは可愛いんだよ!
こんなに可愛いのに、あいつっ」
「千切って」
「ちょんぎって」
「河童の川流れにしてやりたいねっ!」
なんて。愛らしいオメガたちが次々に言うのだから、僕はなんとも神妙な顔になってしまう。悲しいかな、僕の顔は平凡極まりない。オメガなのに、細い目、かさついた頬。平らな顔だち。体は細長く、ひょろりとしていて触り心地は悪そう。クラスメイトたちによって肌に合うボディローションこれだとお勧めをよく貰うけれども、使用してもかさつく肌は止められない。だから浮気されるのも仕方ないって思ってた。それに家と家の付き合いでの婚約。アルファである婚約者は見目も良いし、頭も良いうえに教師からの受けが良く、気付けば生徒会の副会長までやっていた。親に連れられて実家に顔見せや家族ぐるみでの会食等以外、面と向かって話す機会なんてさほどもなく、あとはこの学園の檀上で生徒会役員としての任務を全うしているのを眺めるぐらいだ。
学年もひとつ違うし、接点があまりにも少ない婚約者なため、正直、彼が本当に僕と婚約しているのかどうなのか猜疑心を持っていたりする。
ちなみにこの日の午後、僕はベータだって判明するのだから運命という物は不思議なものである。
「……そっか、僕オメガじゃなかったんだ」
道理で話についていけない時があると思った。
オメガは尻が濡れるらしい、という教育をキャーキャー言いながら座学で学んだクラスメイトと違い、僕はお尻が濡れるってどういう状況だよってチンプンカンプンだったんだ。
そりゃそうか、僕は実はベータだったんだから。分かるはずがない。というか、濡れるはずがない。
「そっかあ」
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