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「あれ?先生どうしたの?」
「俺はもう先生じゃないんだがな…」
「しょうがないじゃん。先生は先生だよ」
言って藤森は笑った。
「今日さ、眞守さん休みだったんだけど何かあったの?」
最近行方不明事件が起きてるから心配だと言いながらこちらの様子を伺ってくる。
「あー、まぁそのことを踏まえて藤森に話さないといけないことがあるんだ」
「……わかった」
あまり深い事は聞いてこないがそれだけで何かを察し、田淵が運電する車に乗ってくれた藤森。
その顔は少し緊張しているように見えた。


「はぁ?!!眞守さんが行方不明?!!!」
「しー!一応遮音の道具は置いてるが声がでかくて耳がいてぇ」
「あ、ごめん。でもあの眞守さんが行方不明って…」
「正確にはダンジョンを消滅させたときのエネルギーを使ってどこか別の世界に飛ばしたっていうのが正しいらしい」
「はぁ?!」
「落ち着けって。今神々の方で捜索してくれてる。っていうかいるであろう場所はわかってるんだ。わかってるんだがそこに今回あれこれやっている親玉と子分が居てな…」
「そんなところに眞守さんが1人で居るっていうの?!!」
「だから落ちつけぇぇ!!」
思いっきり鼻を摘まんでやったらアップアップと慌てていた。
「…ごめん」
言いながら椅子に座る。
「心を落ち着かせるフレーバーの紅茶です。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
桜子が出した紅茶を数口のんで数度深呼吸をする藤森。
「で、眞守さんが行方不明になっている事もその原因も分かった。…なんでその事をあたしに?」
「……すっごく言いづらい事なんだがな?敵の親玉がお前と――正しくは前世のお前とちょいと因縁があるんだよ」
「は?意味が分かんないんだけど」
「それを今説明する」
そこから神から聞いた話をすることになった。
女神が人の男に本気の恋をして振られた挙句醜く嫉妬して勢いで世界も滅ぼしたことを。

「えぇぇ…、ドン引きなんだけど。どんだけ病んでるのよ…」
「だよな。俺もその嫉妬で殺された記憶が蘇った口だから何とも言えねぇ…」
俺の言葉に確かにそうだったと藤森は言う。
「でだ、どうやらやっこさん、まだお前に対しての気持ちを消化できていないようなんだよな」
「はぁ?今のあたし女なんだけどぉ!」
勘弁してくれない?!と藤森は声を上げる。
「まぁ正確にはお前の魂に執着してるんだよ。その証拠にお前あの魅了野郎に魅了されなかったろ?眞守をどうにかするんだったらお前を魅了して手駒にした方が良かったのに」
「たしかに…」
声はかけられたが好みがどうとか好物は何だとかしか聞かれなかったと言う。
「きっとお前以外のすべてを壊して今度は二人きりで生きようとか思ってたんじゃないのか?」
「いや、マジで勘弁なんだけど…」
俺の言葉に藤森はげんなりとしている。

「まぁそういうわけでお前も眞守とは違った意味でのターゲットなんだよ」
「だからこそ僕たちで君の事を保護して守りたいっていうお話をね…?」
そこで白尾が話に加わる。
「それってあたしもこのクランに入れるって事?」
「そうだね。まぁ当初の予定の一つだった眞守ちゃんの家の庭のダンジョン攻略っていう内容は無くなっちゃったわけだけど」
あの庭の惨状を見たら眞守はどう思うだろうか…。
「別に大丈夫!クラン、入ります!」
「ではこちらの書類にサインを。お母さまからの許可はもうすでにいただいておりますので」
「対応ははや!眞守さんが言ってたけど流石だよね」
「恐縮です」
あははと笑う女子高生とふふっと微笑む鉄の女。
いつもだったらここにほんわかしたのも居たのにな…と思うと少し胸のあたりが切なくなる。


『神からの知らせを持ってきました』
そこに白狐が現れる。
「すっごい美人が来た!」
初見だった藤森が驚き声を上げれば白狐はちらりと一目見て『例の?』と聞いてくる。
「そうだ」
『そうですか。良かったです。先程管理神様より知らせがありました。―――鈴子や貴女が通っていた学校がどうやらダンジョン化したようだと」
「は?!」
「なんだと?もう新たなダンジョンは生まれないと言っていたはずだが」
『はい。ダンジョン管理神様方は今あるダンジョンがある程度減らないと新しいダンジョンは生み出さないとおっしゃっておりました。――なので今回のダンジョン化はイレギュラーです』
「ダンジョンに関する情報は…?」
『時間が時間だった為生徒や教師が取り込まれてしまいました』
「命に別状は?」
『ありません。中には探究者資格を持つ生徒や教師が居たようで合流できたものが集団で動いているようです』
「自衛隊は?」
『情報が入ったばかりでまだ…。ですがいつも鈴子と一緒に居たあの数人は既に学校に向かったようです』
田淵さん達きっと命令無視してるんだろうな。
眞守が行方不明になった件を報告した際に急ぎ戻ってこようとしたようだけれどお偉いさんに半ば脅されて待機を余儀なくされたようだし。
案外今回の事でブチギレて辞表を叩きつけてそうだと思う。

「俺たちも行った方が良いな」
「だね」
「でも眞守さんの方は?」
そこで藤森が少し焦ったような顔で言う。
「…よく考えてみろ藤森。眞守はチーターだ」
俺はきっぱりと言い切る。
正直あいつが『自重』をやめたらとんでもない化け物になると思う。
「それひどくない、先生」
「だって本当の事だろ?」
言いようがそれしかないからしょうがない。
「眞守ちゃんに悠司がそう言ってたって言っとくね」
白尾がサムズアップしながらそんな事を言ってくる。
「お前、鈴さんに失礼だぞ…?」
ユリウスもそんな事を言ってくる。
「いや、お前達だって内心そう思っているはずだろ?」
俺がそういえば二人はそっと目を反らした。

「先生、サイテーだよ」
「あとで少しOHANASHIしましょうか…」
藤森に加えてメガネを光らせている桜子に言われて必死に弁明した。
この年でこんなに大慌てをしたのは初めてかもしれない。
俺の色々な平穏の為に早く戻ってきてくれ、眞守…!
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