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「ワイバーンの群れだ!」
「反対からグリフォンも来てる!」
フィールド階層はどこまでも続く草原と青空が広がる階層だった。
木の一本もない生えていない、身を隠すところなんて現状ないだだっ広いだけの。
気配を消せて、素早く移動できれば見つかる事も襲われることも回避できるけれど、うちには七光り達という足手まといが居るのでこうして彼らが騒ぐことで魔物がわんさかやってくる始末。

「何度言えばわかるんだ!騒ぐな!」
「ワイバーンなんて見たことが無かったんだからしょうがないだろ!」
「我々だって見たことなんてないが騒がん!」
「そんなの知らねーよ!」
「そうやって言い合おう声でも魔物来るんだから静かにしてくれ!」
SAMURAI武田さんと七光りの言い合いに自由人の天塚さんが正論をぶつける。
しゃべっている暇があれば戦え!と。
「リーダーこっちを頼む!」
「岸畑どうにかしてよ!!!」
各クランからも叱責が飛ぶ。
いがみ合っている暇なんてないのだ。
この状態をどうにかしないとまず生きて帰る事が出来ない。

「鈴さん、こっちは終わりました。これドロップアイテムです」
「あ、ありがとうございます。オニキス、弾丸アタックは駄目だよー!」
ユリウスさんが倒したワイバーンのドロップアイテムを持ってきたので収納にしまう。
その間オニキスがまた弾丸のように突っ込みそうだったので注意をする。
「ひん!」
「サンドラサポートありがとう。その翼落とすよ…《ダブルスラッシュ!》」
サンドラが鳴き声を上げて注意を反らし、横から白尾さんが翼を落としにかかる。
今白尾さんが使っているのは細身の双剣である。
以前使っていた火属性の剣は先生と被るという理由で使うのをやめたらしい。
『僕、手数が多い方が良いかもしれない』と言っていた通り、前に使っていた武器よりもだいぶ動きが良い。
「落とすぞ眞守!」
「了解です!」
先生が跳躍で上空まで飛び、グリフォンを地面に叩き落とす。
落下地点に土属性で大きな杭を数本設置してやればそのまま串刺しとなりドロップアイテムに変わる。

「おいおいおい、何なんだあの連中…」
襲い来る魔物を何とか対処しながら天塚はいう。
自分たちはワイバーン一体に苦戦しているというのに。
「あいつらはただの八百長野郎達だ!」
そこに憎々し気に声を上げながら武田さんがワイバーンに斬りかかる。
仲間は傷ついた事でポーションを飲み傷を癒し、武田さんは傷を癒すことなく魔物に向かっていく。
「無茶しないでください!」
「無茶しないと生き残れないだろう!」
何処か焦ったように聞こえる声を上げ、手にした風の属性が付いた剣を振り下ろす。
「ぐっ…!」
斬りつけた場所が悪かったのか、ワイバーンの硬い鱗に刃を弾かれて大きく体勢を崩す。
その隙を見逃すほどワイバーンは愚かではなかった。
その大きな口をがバリと開くと狙ったのは弾かれた事でがら空きとなった腹部。
誰もがだめだと思った。
本人さえも。

「オニキスGO!」
「きゅっ!」
その声と共に突風が横切る。
その場に居合わせた者は理解することが出来なかった。
ダメだと思った次の瞬間、ワイバーンの頭が弾けていたのだから。
「緊急事態だったとはいえ、やっぱり弾丸アタックはやらない方が良いね…」
「きゅきゅい」
「《クリーン》、偉かったよオニキス~」
そんなやり取りを聞いてやっと今何が起きたのかを理解する。
「…反則でしょ……」
天塚さんはそんな事を呟き笑い出した。
助けられた武田さんは俯き、手に持った剣を強く握りしめていた。

何とか窮地を脱し、このエリアのセーフティーゾーンと思われる林に移動することが出来た。
「時間的にそろそろ引き返した方が良いね」
「……そうですね。思っていた以上にきつかったです」
白尾さんの言葉に天塚さんは疲れた顔を見せる。
「賛成だ!聞いていたのと違い過ぎる!」
七光りがこくこくと頷く。
「話が違う?」
「この話を持ってきたのはパパの会社のやつだったんだ。『鳥型の魔物を魔術で倒すだけ』って聞いてたのに!」
七光りメンバーたちもその言葉にうんうんと何度も頷いている。
その言葉に他クランメンバーがなんとも言えない顔になる。
言っては何だけど本当に面倒くさい・・・・・ことに巻き込まれたようだ。
「……これは戻ったら桜子さんに任せる案件ですね」
「そうだね、彼女なら色々と・・・搾り取ってくれそうだね」
私がポツリと呟けば白尾さんも黒い笑みを浮かべて言う。

戻る為にここで各自食事をとり帰路につくことになった。
行きは道が分からなかった為時間がかかってここまで来たけれど帰りはちゃんとマッピングしている為スムーズに帰れる。
【魔法の地図】でサポートしようとしたけど武田さんが『お前たちの力には頼らない!』と言い張ったためそうなってしまったのだ。
出来るだけ攻略してほしいというクライアント側の要望よりも自分のプライドが勝っている状況にこちらサイドは冷たい目をしていたけれど。

「眞守、これおかわり」
「はいどうぞ」
「眞守ちゃん、これもない?」
「これで最後です」
「鈴さん、サンドラがリンゴのおかわりが欲しいそうです」
「了解です」
ウチは変わらずの食事風景を見せる一方、他はお通夜状態で空気が重い。


「なんであんなに普通で居られるんだろうね…」
そうポツリと呟いたのは自由人の天塚だった。
「力を色々と持ってるからじゃないッスか?」
メンバーの一人が面白くなさそうな顔で言う。
「それもあるだろうけどさ…」
そう言いながら天塚は月夜見のメンバーをチラ見する。
「っ…!」
その時、二人の人物と目があった。
目があった瞬間、ぞくりとした悪寒のようなものを感じ急ぎ目を反らす。
「どうしたん?」
「なんでもない…。でもあそこを敵に回すのは得策じゃないと思うよ?」
そう言いながら今度はSAMURAIの方を見る。
そこには尋常じゃない程の睨みを月夜見に向ける男の姿があった。
「どうしてあそこまで憎悪できるのか逆に不思議だよね…」
「たしかに。ウチらも最初は色々と疑ってたけど、あそこまでの強さと落ち着きを見せられたら納得しちゃうよね~」
メンバーの一人が言えば最初に不満を言ったメンバーが顔を反らす。
「とにかく、うちはあそこを敵対しないし絡みにもいかないでOK?」
「そうだね。なんかめんどいことに巻き込まれたみたいだしこれ以上はお腹いっぱいだ」
天塚のその言葉にメンバーもうんうんと頷いた。



「リーダー、ダンジョンの攻略に私情を挟み過ぎるな」
「なに?」
一方SAMURAIでもメンバー間で話をしていた。
一方的にメンバーがクレームをつける形で。
「正直死ぬかと思う場面がいくつかあった」
「私も」
この二人は一度腹を貫かれて死にかけている。
手持ちにあった中級ポーションを使ったことで一命をとりとめたが、その傷を創った原因がクランリーダーの無茶な行動のせいなのだから文句の一つも言いたいところだった。
「あのクランのどこに恨みを持っているのか知らないがそういうのはソロの時にやってくれ」
「恨んでいるわけじゃ…!」
「じゃあさっきまであのクランを見ていた時の異常な目つきはなんだ?」
「それは…」
指摘されて初めて自分の中に黒い感情が渦巻いていることを自覚する。
「確かにあそこの強さは異常だ。…でもそれを鼻にかけるわけでもなくその力を誇示するために勝手な行動をとるわけでもない。一体何が気に入らないのかわからん」
「それは…」
「はっきり言って今のリーダーについていきたいとか思わないんだよね」
「そうそう、ここに来るまでの事もそう。いつもは慎重に進むのに何?あの強行軍」
「武器がボロボロだ。戻ったら修繕してもらわなければならない」
ここぞとばかりにメンバーから不満が上がった。
「だがここで俺らの強さを見せつけて揺るぎないものにしておかないと1位の座が」
「別に1位という座に拘っていない」
「むしろそれに拘ってるのリーダーだけでしょ?」
白けた目が男に向けられる。
「今回の話を持ってきたときから変だとは思っていたが、個人的な感情に我々を巻き込むな」
「私、この仕事の後しばらくお休み貰うからね。正直今回の件で結構精神的に疲れてるし、なにより――」
女性メンバーはそう言ってから暫くリーダーである男を見る。
男は目を反らしたい衝動に駆られるがぐっと堪える。
「今のリーダーは信用できない」
そう言われて心臓をぐっと掴まれたように息が止まる。
「とにかく今は生きて戻る事に集中しよう」
「そうね。無理な命令にはもう従わない方向で」
メンバーはそう話し終えると手早く携帯食を食べてしまう。

男は呆然としながら出発するまで地面に視線を向けていた。
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