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「昨日、新田くんとどんな話をしたんだい?」
「以前の騒ぎで助けられた生徒の親御さんから御礼の品が届いていると言われて品を受け取りました」
学校の応接室で私は刑事さんに事情聴取というものをされている。
私の右側には桜子さんが、左には白尾さんが保護者として同席している。
「それだけかい?」
「そのあとにちょっと話しましたが最近SNSで話題になってることを話しただけですよ?」
「話題…?」
私の言葉に刑事さんが小首をかしげる。
「こことは違う世界の記憶を思い出して大手クランで出世した話です」
「あ~、なんかウチの若いのもその話で盛り上がってたなぁ」
言いながら刑事さんの背後に立つ若い人を見る。
「今のご時世、前世の記憶…しかも異世界の記憶とか激アツじゃないですか」
ニカっと笑う若い刑事さんをみて私の前の刑事さんは短く息を吐く。
「仕事中にそういう話するんじゃねーぞ?」
「しませんよ」
「で、その後は?」
「教室に戻って午後の授業を受けて家に帰りました」
「いつも通りの時間に帰っているのは彼女の家に常駐させている隊員の証言がありますよ」
言いながら桜子さんが書類を取り出す。
「あー、嬢ちゃんが例の騒ぎを解決した…」
「そういうことです。一応の名目では護衛ですが監視という意味合いも含まれておりますので彼女の行動は我々がちゃんと把握しています」
桜子さんが言えば刑事さんは少しっばかり眼を瞑り、そして静かに問いかけてきた。
「あんたの先生はなにか悩んでいたりしたかい?」
「……とくにこれと言って思い当たりません。本当にいつも通りだったので」
「それは他の生徒達も言ってましたね。いつも通り生徒とワチャワチャしていたと」
若い刑事さんが付け足す。
「んじゃあ誰かから恨まれてたりとか」
「先生のプライベートを生徒が知っているわけないじゃないですか…」
「たしかにな…」
私の言葉に肩を落とす刑事さん。
そこらへんは他の先生に聞いてほしい。
何とも言えない空気感になる。
しかし本当に先生どこ行ったのか…と思っていれば『上島さん!』と声を荒らげた女性が入ってくる。
刑事さん達はぎょっとするが彼女はお構いなしにこちらにズカズカと駆け寄ってくると守秘義務どうしたと言わんばかりに言葉を放つ。
「新田 悠司が代々木公園にできたダンジョンに潜ってから出ていないことがわかりました!!」
彼女はやりきったという顔で、セーハー言いながらドヤ顔をする。
私はそっと遮音をつけた【結界】を桜子さんや白尾さんを含めて張る。
そしてプルプルと震える刑事さんは、次の瞬間顔を真赤にして素人の前で捜査結果を暴露した女性刑事に対し公開説教という形を取ったのだった。
「代々木公園のダンジョンですか」
「確かあそこは虫系の魔物が多いんですよね…」
公開説教を終えた刑事さんは『今日のところはこれで』と去っていった。
その後に続く女性刑事は肩を大きく落とし、若い刑事さんは『どんまいです』なんて励ましていたけれど。
多分この後警察からの要請が入ったどこかのクランか自衛隊に調査要請が入るのだろうと思う。
「どうしますか?」
桜子さんが聞いてくる。
「もちろん行きますよ」
警察が介入したらしばらくダンジョンに入れなくなる恐れがある。
だから今日はこのまま早退という形を取りダンジョンに向かうことにする。
「だったら僕も行くよ。クランリーダーとしてね」
『私も――と言いたいところですが、私は残って色々と準備をしておいたほうが良さそうですね…」
白尾さんが付いてきてくれるらしい。
桜子さんは私が言った後に色々と言われるだろうことを見越して準備してくれると。
「すみません、なんか仕事を増やしてしまって…」
先生の行方を知りたいという私のわがままに完全に巻き込んでしまった事に罪悪感が募る。
だが二人は『頼っていいんだよ』と笑う。
「じゃ、善は急げってことでこのまま転移で家の帰り装備をしっかりしてから行きます」
「僕も一緒に行くよ。装備品はここに入ってるしね」
言いながら白尾さんは腰につけている小さなポーチをポンポンと叩いて見せる。
以前一緒にうちのダンジョンに潜った際に見つけた隠し部屋で見つけた宝箱から出てきた『魔法の鞄(小)』である。
その時宝箱を開けたのが白尾さんで、見つけた時のテンションと言ったら…。
その時一緒に潜っていたのが私と田淵さんで、話し合いの結果それは白尾さんの物になったのだけど。
『はぁ~、僕もこれで一丁前の探究者か~』なんて言いながらポーションやら携帯食やらを詰めている姿は遠足の準備をする子供のようだった。
そこにいつもつけている装備品一式もしまっているのでそのまま来れるという事だった。
「じゃあ桜子さん、お願いします」
「はい、任されました」
私は白尾さんに触れて自宅に転移する。
私は制服からいつもダンジョンに潜る際に来ている服に着替えその上から『朧の衣』も着てしまう。
武器はダンジョンに入ってから出せばいいのであとは収納スキルを胡麻化すための魔法の鞄を腰に漬ければ終わりである。
準備が終わり外に出れば白尾さんと田淵さん、横田さんと三橋さんが待っていた。
「今回は我々が同行します」
「お願いします」
言葉少なく言えば、家の前にとめられていた車に乗り込み代々木公園に向かう。
「代々木公園は虫系の魔物が多いダンジョンで現状自衛隊員が9階層までの攻略を行っています」
三橋さんがダンジョンの情報を教えてくれる。
「初期に出てくる虫は芋虫型の魔物『グリーンキャタピラー』と蛾型の魔物『毒蛾』で、初期から毒を使ってくるダンジョンです」
「いきなり毒とか結構難易度高そうですね…」
「確かにそうですが『毒蛾』は結構大きいのでこちらに近づかれる前に気付けるんですよ。毒を放つ手段は頭上を飛んで毒の鱗粉を撒く動作だけなので撒かれ始めたら距離をとる事で何とか回避できますし」
「それに撒かれたとしても落ちてくるのに少しばかり時間がかかるから余裕で逃げられるらしいんだよね」
三橋さんの言葉に白尾さんが付け加える。
「行ったことがあるんですか?」
「一応ね。クランリーダーだから色々と話題に上がるダンジョンには一度くらいは下見に行ってるんだよ」
言いながら『魔法の鞄』から取り出したタブレットを見ている。
「確か…、ここは10階層にボス部屋があるらしいんだけどどうやら毒蝶の親玉みたいな奴がボスらしくって、しかも武器が届かないらしいんだよね」
「ボス部屋って倒すか倒されないと出られませんよね?その情報はどこから?」
「確かに一度入るとそうだけど、これは扉を少しだけ開けて中を確認して得た情報なんだよ。中に入らなければそういう確認もできるって最近知られ始めたんだ」
あ、それってありなんですねといえば助かるよねぇ~なんて言葉が返ってきた。
「でも自衛隊のメンバーなら魔術使えますよね?」
「我々は眞守さんのスクロールやほぼ毎日付き合ってダンジョンに入っているのでそこそこの火力の魔術が使えるようになりましたが他は全然ですよ」
なのでこの場所を担当している自衛隊員達では現状難しいという事だった。
しかも出てくるドロップアイテムに旨味が少ないということであまり一般の探求者も来ていないとか。
「なんでそんなところに先生行ったんでしょう…?」
「そればっかりは本人に聞かないとわからないんだよね…」
「もうすぐ着きますよ」
疑問に答えが出るわけでもなく、でも目的地はもうすぐそこだった。
「以前の騒ぎで助けられた生徒の親御さんから御礼の品が届いていると言われて品を受け取りました」
学校の応接室で私は刑事さんに事情聴取というものをされている。
私の右側には桜子さんが、左には白尾さんが保護者として同席している。
「それだけかい?」
「そのあとにちょっと話しましたが最近SNSで話題になってることを話しただけですよ?」
「話題…?」
私の言葉に刑事さんが小首をかしげる。
「こことは違う世界の記憶を思い出して大手クランで出世した話です」
「あ~、なんかウチの若いのもその話で盛り上がってたなぁ」
言いながら刑事さんの背後に立つ若い人を見る。
「今のご時世、前世の記憶…しかも異世界の記憶とか激アツじゃないですか」
ニカっと笑う若い刑事さんをみて私の前の刑事さんは短く息を吐く。
「仕事中にそういう話するんじゃねーぞ?」
「しませんよ」
「で、その後は?」
「教室に戻って午後の授業を受けて家に帰りました」
「いつも通りの時間に帰っているのは彼女の家に常駐させている隊員の証言がありますよ」
言いながら桜子さんが書類を取り出す。
「あー、嬢ちゃんが例の騒ぎを解決した…」
「そういうことです。一応の名目では護衛ですが監視という意味合いも含まれておりますので彼女の行動は我々がちゃんと把握しています」
桜子さんが言えば刑事さんは少しっばかり眼を瞑り、そして静かに問いかけてきた。
「あんたの先生はなにか悩んでいたりしたかい?」
「……とくにこれと言って思い当たりません。本当にいつも通りだったので」
「それは他の生徒達も言ってましたね。いつも通り生徒とワチャワチャしていたと」
若い刑事さんが付け足す。
「んじゃあ誰かから恨まれてたりとか」
「先生のプライベートを生徒が知っているわけないじゃないですか…」
「たしかにな…」
私の言葉に肩を落とす刑事さん。
そこらへんは他の先生に聞いてほしい。
何とも言えない空気感になる。
しかし本当に先生どこ行ったのか…と思っていれば『上島さん!』と声を荒らげた女性が入ってくる。
刑事さん達はぎょっとするが彼女はお構いなしにこちらにズカズカと駆け寄ってくると守秘義務どうしたと言わんばかりに言葉を放つ。
「新田 悠司が代々木公園にできたダンジョンに潜ってから出ていないことがわかりました!!」
彼女はやりきったという顔で、セーハー言いながらドヤ顔をする。
私はそっと遮音をつけた【結界】を桜子さんや白尾さんを含めて張る。
そしてプルプルと震える刑事さんは、次の瞬間顔を真赤にして素人の前で捜査結果を暴露した女性刑事に対し公開説教という形を取ったのだった。
「代々木公園のダンジョンですか」
「確かあそこは虫系の魔物が多いんですよね…」
公開説教を終えた刑事さんは『今日のところはこれで』と去っていった。
その後に続く女性刑事は肩を大きく落とし、若い刑事さんは『どんまいです』なんて励ましていたけれど。
多分この後警察からの要請が入ったどこかのクランか自衛隊に調査要請が入るのだろうと思う。
「どうしますか?」
桜子さんが聞いてくる。
「もちろん行きますよ」
警察が介入したらしばらくダンジョンに入れなくなる恐れがある。
だから今日はこのまま早退という形を取りダンジョンに向かうことにする。
「だったら僕も行くよ。クランリーダーとしてね」
『私も――と言いたいところですが、私は残って色々と準備をしておいたほうが良さそうですね…」
白尾さんが付いてきてくれるらしい。
桜子さんは私が言った後に色々と言われるだろうことを見越して準備してくれると。
「すみません、なんか仕事を増やしてしまって…」
先生の行方を知りたいという私のわがままに完全に巻き込んでしまった事に罪悪感が募る。
だが二人は『頼っていいんだよ』と笑う。
「じゃ、善は急げってことでこのまま転移で家の帰り装備をしっかりしてから行きます」
「僕も一緒に行くよ。装備品はここに入ってるしね」
言いながら白尾さんは腰につけている小さなポーチをポンポンと叩いて見せる。
以前一緒にうちのダンジョンに潜った際に見つけた隠し部屋で見つけた宝箱から出てきた『魔法の鞄(小)』である。
その時宝箱を開けたのが白尾さんで、見つけた時のテンションと言ったら…。
その時一緒に潜っていたのが私と田淵さんで、話し合いの結果それは白尾さんの物になったのだけど。
『はぁ~、僕もこれで一丁前の探究者か~』なんて言いながらポーションやら携帯食やらを詰めている姿は遠足の準備をする子供のようだった。
そこにいつもつけている装備品一式もしまっているのでそのまま来れるという事だった。
「じゃあ桜子さん、お願いします」
「はい、任されました」
私は白尾さんに触れて自宅に転移する。
私は制服からいつもダンジョンに潜る際に来ている服に着替えその上から『朧の衣』も着てしまう。
武器はダンジョンに入ってから出せばいいのであとは収納スキルを胡麻化すための魔法の鞄を腰に漬ければ終わりである。
準備が終わり外に出れば白尾さんと田淵さん、横田さんと三橋さんが待っていた。
「今回は我々が同行します」
「お願いします」
言葉少なく言えば、家の前にとめられていた車に乗り込み代々木公園に向かう。
「代々木公園は虫系の魔物が多いダンジョンで現状自衛隊員が9階層までの攻略を行っています」
三橋さんがダンジョンの情報を教えてくれる。
「初期に出てくる虫は芋虫型の魔物『グリーンキャタピラー』と蛾型の魔物『毒蛾』で、初期から毒を使ってくるダンジョンです」
「いきなり毒とか結構難易度高そうですね…」
「確かにそうですが『毒蛾』は結構大きいのでこちらに近づかれる前に気付けるんですよ。毒を放つ手段は頭上を飛んで毒の鱗粉を撒く動作だけなので撒かれ始めたら距離をとる事で何とか回避できますし」
「それに撒かれたとしても落ちてくるのに少しばかり時間がかかるから余裕で逃げられるらしいんだよね」
三橋さんの言葉に白尾さんが付け加える。
「行ったことがあるんですか?」
「一応ね。クランリーダーだから色々と話題に上がるダンジョンには一度くらいは下見に行ってるんだよ」
言いながら『魔法の鞄』から取り出したタブレットを見ている。
「確か…、ここは10階層にボス部屋があるらしいんだけどどうやら毒蝶の親玉みたいな奴がボスらしくって、しかも武器が届かないらしいんだよね」
「ボス部屋って倒すか倒されないと出られませんよね?その情報はどこから?」
「確かに一度入るとそうだけど、これは扉を少しだけ開けて中を確認して得た情報なんだよ。中に入らなければそういう確認もできるって最近知られ始めたんだ」
あ、それってありなんですねといえば助かるよねぇ~なんて言葉が返ってきた。
「でも自衛隊のメンバーなら魔術使えますよね?」
「我々は眞守さんのスクロールやほぼ毎日付き合ってダンジョンに入っているのでそこそこの火力の魔術が使えるようになりましたが他は全然ですよ」
なのでこの場所を担当している自衛隊員達では現状難しいという事だった。
しかも出てくるドロップアイテムに旨味が少ないということであまり一般の探求者も来ていないとか。
「なんでそんなところに先生行ったんでしょう…?」
「そればっかりは本人に聞かないとわからないんだよね…」
「もうすぐ着きますよ」
疑問に答えが出るわけでもなく、でも目的地はもうすぐそこだった。
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