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どろどろになったハサミをまず洗い、そして自身の体もよく洗った。
電気もガスも普通に使えるようになっていて助かった。
…心無し、粘液がついていた場所が温泉に入ったようなツルスベ肌になっていたけれどスライムには高い美容成分でも含まれているのだろうか?と思ってしまう。
でろでろになった靴は洗剤と共にバケツにつけておき、着替えたら家の中の確認をする。

祖父が施してくれていた耐震がしっかりしていたので家具類はやはり倒れておらず、でも本や飾り物は落ちていた。
年代物だった壁掛け時計も落ちて壊れてしまっており、私はなんだか寂しさを感じた。
落ちた物をもとの場所に戻し、壊れた物を段ボールにまとめて少し遅めの朝食を食べる。

先程再びご近所さんがやってきて近況の被害を教えてくれた。
と言っても揺れで家具がちょっと移動したとか食器や小物の落下などはあったけれど大抵みんな耐震の備えをしていて大きな被害はなかったと。
数人のお年寄りが驚き転倒して病院に行ったけれどそれも捻挫とか打ち身で骨折とかはなかったそうだ。
その言葉に安心しつつ、でも今後も余震に気を付けて心細かったら避難所においでと言い残してご近所さんは帰っていった。
祖父母の幼馴染だからか私を本当の孫のように思い何かと世話を焼いてくれることに感謝しつつ、私は家の中に戻る。

テレビをつければあの夜に一変した騒動が取り沙汰されており、そんな専門家居たのか?と疑問に思うほどの胡散臭い専門家が『神の怒りが~』『この世界は好き勝手やり過ぎたから~』と喚いていた。

「試練って言われるとそうだけど、救いとも言ってなかったっけ?」
一番初めに声が聞こえた時、そんな事を言っていたような気がする。
怒りというよりかは諦めと哀れみが込められた声で。
まぁそのあと庭に出来た扉と火を放つスライムに祖父母が残してくれた家が燃やされる!と思ってヒャッハーしてしまったのだけれど。
……若干、後半からこれまでに溜まっていたストレスを発散するためにプチっていた気もしなくはない。
でもそのお陰でどうやら扉がある付近に魔物が近寄れなくなったようなので結果オーライである。

「しかし、あの後見に行ったらいろんなものが落ちてたんだよね…」
身を清めた後にしっかりとした懐中電灯を持って再びあの扉の中に入ってみれば、なんと地面に色とりどりのビー玉や小瓶、ナイフのような物と色々と落ちていたのだ。
あの時得た知識からゲームで言うところのドロップアイテムというやつなんだろうなと思いながら、量が多かったので段ボールを持ってきてそれに入れて回収する羽目になった。
段ボール三箱分の品々の大半は色とりどりのビー玉で、他は小瓶やら巻物やらナイフといったものである。
「…こういう時に鑑定できるものがあればってやつなんだろうなぁ…」
どう見てもファンタジー素材で、でも私に詳細を知る術はない。
与えられた知識もそこまで万能ではなかったようで、魔物の名前も分からなかったし目の前のアイテム類の名前も分からない状態だ。

どうやら政府が自衛隊を派遣してダンジョンの中を調査し始めたようだとニュースで言っていたので調査の結果がこちらに流れてくるまではこれは押し入れにでも隠しておこうと思う。
それにしても…。
「こんな見た感じでもすごい重そうなものを軽々と持てるようになったのって…スライムを倒してレベルが上がったから?」
小首を傾げながら段ボールを見る。
段ボールはミカンが10キロ入っていたものだ。
それに今500円玉サイズのビー玉やら小瓶――アンプル?が詰められている。
多分この1箱で20キロ以上はあるんじゃないかと思うけれど、それをヒョイと持ててしまった時点で今の私は昨日までの私と違うのかもしれない。

「そういえばスマホ乾いたかなぁ…」
スライムに埋没してぬるっとしていたスマホはウエットティッシュでふき取り、キッチンペーパーでふき取り、ジャックや隙間を綿棒でふき取った後に風通しが良いところに放置しておいた。
これで壊れたら買い替えだな…と思いつつ電源を入れてみれば、どうやら大丈夫だったようで――でも画面には見慣れないアプリが数個増えていた。

「…え、なにこれ…?」
増えていたのは【アイテム辞典】【スキル一覧】【魔物辞典】【薬草辞典】【ステータス】の5つ。
微妙に地図アプリも変わっているように見えるけれどそれは後だ。
「見るからにファンタジー要素が…」
まずは順番に見ていこうとまずは【アイテム辞典】を開いてみる。

――肩透かしというのか中身は『???』だけで何も載っていない。
え?と思い他のアプリも開いてみたけれど、どうやらどれも同じようで――どうやら詳細が分かったら内容が表示されるゲームで言うところの『自分で得た情報だけが乗る』機能が採用されているようだった。
「使えない…」
期待が一瞬にして砕かれて肩の力が抜ける。
ただ魔物辞典に私が倒したのであろう色とりどりのスライムの事は載っていた。
名前と姿だけ。
詳細は???と表示されていて分からないけれど備考部分に『火の魔術を放つ』とか『水の魔術を放つ』といったものが書かれているからやっぱり私が見知った内容が追加されるのは確かなようだった。
ますます鑑定の能力とか道具が必要じゃないかと思ってしまう。

「この分だと【ステータス】アプリも期待できなさそう…」
肩を落としつつアプリを開いてみれば、今度はその情報に顎が外れそうになった。


====================
【名前】眞守まもり 鈴子すずこ
【年齢】16歳
【種族】人間
【職業】-

【レベル】24
【体力】380/380
【魔力】430/430

【スキル】
 サーチ 魔力感知 魔力操作 料理 裁縫
【戦闘系スキル】
 体術Lv.1 小剣術Lv.1 

【固有スキル】
 魔法の地図 万能収納

【ギフト】
 ‐
【魔術適性】
 ‐

【称号】
最速の侵入者 勇気ある者 収集家コレクター 魔導の目覚め スライムの天敵
====================

スライムを一晩プチプチしていただけなのになんか数値とか能力がやばい。
ぱっと見は数が少なく見えるのにその実既にある能力がやばい。

【最速の侵入者…この世界で誰よりも早くダンジョンに足を踏み込んだ者に贈られる特別な称号。ボーナスとして【魔法の地図】【サーチ】のスキルを取得】

【勇気ある者…この世界で誰よりも早く魔物を討伐した者に贈られる特別な称号。ボーナスとして種類問わず武器類との相性が良くなり戦闘センスが向上、戦闘系スキルが習得しやすくなる】

収集家コレクター…この世界で誰よりも早く魔物素材を取得した者に贈られる特殊な称号。ボーナスとしてドロップ率がアップしレアドロップも出やすくなる。【万能収納】のスキルを取得】

【魔導の目覚め…この世界の誰よりも早く魔術と言う存在をその目にした者に贈られる特殊な称号。ボーナスとして【魔力感知】【魔力操作】のスキルを取得】

【スライムの天敵…スライムを短期間で10000匹以上討伐した者に贈られる称号。スライムに与えるダメージが30%アップ】


『この世界で誰よりも早く…』ということはこの称号類は一人が複数持っていてはいけない能力なのではないかと冷や汗が出る。
『この世界で誰よりも早く…』なんて言われたらこの異変がここだけではなく世界中で起きているという事を嫌に実感させるじゃないか。
あの瞬間、無謀にもダンジョンに入りあれこれをしたのが私だけという少し恥ずかしい事実にちょっと耳までもが赤くなる。
まぁ海外はそんなに地震に対する耐性がないからパニックを起こしたかもしれないけれど、それでも日本でもここ以外にダンジョンは出来たはずでしょ?と思ってしまう。

「…まぁ今後の事を考えると助かるんだけど…」
暫く悶々と考えていたけれどどうにもならないので考えるのはやめた。
その代わりこの能力を使って前向きに庭のダンジョンをどうにかしなければと思う。
小さなマッチの火サイズの魔術を放つスライムが居た。
だったらもう少し大きな火を扱う魔物だって出てくるかもしれない。
いくら入り口部分が安全圏になって魔物が寄りつかなくなったとは言え、それがダンジョンの魔物全てに効くのかもわからないのだからそのまま義人するのではなく、がんばってダンジョンをなくす方向に頑張りたいと思う。

「……スライムは水風船みたいだから倒せたけど…それ以外の魔物を倒せるのかなぁ…」
そこでふと思う。
魔物の定番はスライムではあるけれど、それ以外にだって血が通った動物型や何だったらゴブリンといった人型だって居るんじゃないかと。
「……生きた存在に刃物を刺す…。想像しただけで怖いし震える……けど…」
それでもこの家は守りたいという気持ちの方が勝る。
「…一回休憩したらスライム以外の魔物も出るのか確認してみよう…」
居たら倒せるかどうかチャレンジしてみて、ダメそうなら他の手を考えるという事で落ち着いてみた。
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