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08 到着! ガローネの街

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 ピエールは黒づくめの男を、魔法の縄でぐるぐる巻きに縛る。

「今は真夜中だ。明日出発することにしよう」
「うん!」「きゅる!」
 毛布をかぶると、ラウルとケロはすぐに眠った。

 それを確認すると、
「……さてと」
 ピエールはもがいている黒づくめの男にさらに魔法をかける。
 体の自由を完全に奪う魔法だ。

 ピエールは凄腕魔導師揃いの魔皇国でも特に凄腕な魔導師だ。
 そのうえ特殊部隊なので、色々な秘儀を身に着けている。
 拘束は得意分野だ。

 目を完全にふさいでから、黒づくめの男の動きを完全に封じる。
 そして耳元でささやく。

「動こうとするな。話そうとするな。指示に従わなければどうなるかわかるか?」
 黒づくめの男はうんうんと頷く。

「いや、わかってないな。……死ねるとは思わぬことだ」
 指示に従わなければ、暗に死よりもつらい目に会わせてやると言っている。
 それに気が付いたので、黒づくめの男は必死になってうなずいた。


 次の日から、ピエールが道案内してくれたので旅は順調に進んだ。
 馬車を使い、船を使い進んでいった。

 それでもラウルたちがガローネの街についたのはそれから一か月後のことだった。
 それほどに魔皇国の皇都は辺境なのだ。

 ちなみに黒づくめの男は出会って二日後に魔皇国の街で引き渡されている。
 引き渡し相手はピエールと同じ特殊部隊のメンバーだ。
 各町に特殊部隊メンバーは潜んでいるのだ。

「あれ? ガローネの街に連れて行かないとだめなんじゃないの?」
「ギルドに聞いたら任せてくれると言ってくれたからお任せした」
「よかったですね!」

 その後もピエールは当然のようにラウルたちに同行する。
 ラウルも細かいことを気にしない。だから何も言わずに一緒に同行した。

 そのこともピエールを不安にさせた。
 正体が護衛のピエールだからよかったものの、ピエールの正体が悪い者だったら……。
 大変なことになっていたかもしれない。

 ラウルは力が強いだけの未熟な子供。
 自分が守ってあげなければという思いをピエールは強くした。


 ピエールが同行することで、ラウルはガローネの街へと無事に到着できたのだった。
 大きな街の中に入る際には身分証が必要だ。
 当然、ラウルはそういう書類はしっかり持っている。


 無事に街の中に入ると、ラウルは笑顔で言う。

「ピエールおじさん、ありがとうね!」
「きゅるるる」
 ラウルもケロも、一か月の旅でピエールにだいぶ懐いていた。

「困ったことがあったらいつでも言ってくれよ。俺はここにいることが多いから」
 そういって、ピエールは自分の宿の場所を描いた地図をラウルに渡す。

「ありがとう! おじさんも困ったことがあったら言ってね!」
「ああ、頼りにさせてもらおう」
「うん!」

 笑顔で立ち去ろうとするラウルをピエールは呼び止める。

「ラウル。錬金術師さんの家はわかるのかい?」
「うん! わかるよ! 地図を描いてもらっているから」
 ラウルには自信があるようだが、ピエールは不安になる。
 旅の途中、ラウルの方向音痴ぶりを身に染みて理解したからだ。

「そうかい。だが、もし迷ったら遠慮せずに俺の宿に来るんだよ」
「ありがとー」
「きゅるきゅる!」

 ラウルはケロを頭の上に乗せて、笑顔で歩いていく。

「……大丈夫かな」
 ラウルの笑顔を見て、ピエールはものすごく不安になった。

「やはり、つけるべきか」
 そして、ピエールは再び尾行を開始したのだった。


 ………………
 …………
 ……

「あれ? 門まで来ちゃった。通り過ぎちゃったかな?」
「きゅるー?」

 ラウルだけでなく、ケロも実は方向音痴の竜だった。
 そんな二人が組んでいるのだから、迷わないはずがない。

 ラウルたちは、ピエールと一緒に西門から街に入った。
 そして街の中心を通って南の街区へと向かったのだ。

 だが、ラウルはいつの間にか街の端、西門とは別の門のまで来てしまっていた。

 ラウルは門番に尋ねる。
「あの、すみません。ここは南門ですか?」
「ん? 違うよ。ここは東門だ」
「むむう?」
「坊主。迷子か? どこに行きたいんだ?」
「えっと南の街区のエラ・シェリク先生のおうちに行きたいんですけど」

 エラ・シュリクは、ラウルが弟子入りする相手だ。
 世界的に高名な錬金術師である。齢二百を超えているという噂もある。
 そう簡単に弟子入りなどできないが、剣聖に紹介状を書いてもらったのだ。

「エラ先生のおうちか。それなら、この道をまっすぐ行って……」
 門番は親切に教えてくれる。
 エラ・シュリクの家はとても有名なようだった。

「ありがとう!」
「きゅっきゅ!」

 お礼を言ってラウルとケロは移動を開始する。

「親切な門番さんだったね」
「きゅるー」
「えっと、この道をまっすぐ進んでー」

 ラウルは門番に教えてもらった通りに進んだつもりで、また迷った。
 どんどん周囲の家が小さくボロボロになっていく。
 ラウル気付かずに貧民街に迷い込んでいたのだ。

「あれ? 間違ったかな?」
「きゅるる?」

 その時、足を止めたラウルの耳に、争う声が聞こえて来た。
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