7 / 17
07 真夜中の襲撃者
しおりを挟む
薬草を採集したり、珍しい鉱石を拾ったりしているうちに夕方になった。
「……ここどこだろう?」
「きゅる……」
ラウルはやっと道に迷っていることに気が付いた。
「ま、迷子になった?」
迷子になったら下手に動かない方がいい。
元来た道がわかるなら、わかるところまで戻るべき。
そういうセオリーではどうにもならないぐらい、ラウルたちは森の奥へと入りこんでいる。
「ま、いっか。明るくなったら道を探そうね!」
「きゅるる」
ラウルは大して気にすることもなく、ケロと一緒に夜ご飯を食べて寝ることにした。
コカトリスの肉を焼いて食べて、毛布にくるまった。
そうして真夜中。熟睡していたラウルは殺気を感じて目を覚ました。
「うわっと!」
「キュルル!」
ケロを抱きかかえたまま、飛び跳ねて躱す。
「ほう? 今の攻撃を避けるか。罠を破壊しただけあって、ただものではないらしい」
「おじさんだれ?」
ラウルたちに攻撃を仕掛けたのは、黒いフードとローブを身に着けた男だった。
まがまがしい形の大きな杖を持っている。
「小僧。その竜をこちらに渡せ」
「キュッキュ!」
ラウルの腕の中で、ケロが怯えたように震えながら鳴いている。
「いやだよ。おじさんがケロに罠を仕掛けたんだね?」
「ケロ? なんだそれは。まあいい。その竜は我が苦労して捕獲した個体だ」
「やっぱり。ケロちゃんは渡さないよ!」
目の前のおじさんは黒づくめで強そうだ。
だが、まだ子犬のケロはラウルより弱い。守ってあげないといけない。
そう考えてラウルは立ち向かうことにした。
黒づくめの男が叫ぶ。
「ならば力づくで奪うまで!」
夜闇の中、黒づくめの男は光魔法を発動させた。
まばゆい閃光とともに光の熱線がラウルを襲う。
「まぶしいよ!」
ラウルは、まるで虫を追い払うかのように、魔力をまとった右手で熱線を払いのけた。
「なん……だと……?」
黒づくめの男は唖然とした。
男はまったく油断していなかった。
ラウルが壊したのは長い間かけて魔力を込めたトラバサミ。
だから、自身の最高威力の魔法を奇襲気味に撃ち込んだのだ。
「我の最高威力の魔法を片手で……」
男は雑魚魔導師ではない。闇の秘密結社の大幹部だ。
冒険者ランクでいえば、Aランク相当の魔導師である。
だというのに、ラウルが言う。
「おじさん、サーカスの人だね?」
「はあ?」
「だから、珍しい犬のケロが欲しいんでしょう?」
羽の生えた犬に芸をさせれば、サーカスで評判になるだろう。
そうラウルは考えていた。
「ものすごくまぶしかったけど、花火かな?」
「何を言っている?」
「とぼけても無駄だよ! 花火を人に向けたら危ないでしょ!」
「ふざけるな!」
男は剣を抜いて、身体能力を魔法で強化するとラウルに襲い掛かった。
その動きは並みの剣士よりはるかに速く鋭い。
だが、剣聖に五歳で勝利したラウルにとってはお遊戯のようなもの。
「危ないでしょ!」
刀身を素手でつかむ。
「貴様……。もはやこれまで……」
黒づくめの男は覚悟を決めた。
これほど強い者が、偶然居合わせるわけがない。
目の前の少年は秘密結社を取り締まろうと国家から派遣された特殊部隊の人間だろう。
ならば、捕らえられたあとに待っているのは過酷な拷問。
そう誤解して、男は自爆しようとする。
「はい。そこまで」
そう言って、黒づくめの男の首の後ろを叩いたのは、魔皇帝直属の隊長、ラウルの護衛だ。
黒づくめの男は一瞬で気を失って崩れ落ちた。
通常、首を叩いたぐらいでは気絶しない。
だが、特殊部隊の秘儀で手から魔力を流し込んで、気絶させたのだ。
「おじさんだれ?」
「……えっと」
護衛は少し考える。
できる限りラウルに護衛がいることはばれない方がいい。
「おじさんはね。この男を追ってきた冒険者なんだ」
そして護衛はうその説明をする。
黒づくめの男は賞金を懸けられた悪い人で、護衛は賞金稼ぎという偽の説明だ。
「サーカスの人じゃなかったんだ」
「サ、サーカス? 違うよ」
「そうだったんだ」
「……この男は人さらいだよ。奴隷にして売り払うんだ」
「えっ? 怖い」
人を攫うついでに、珍しい犬であるケロも一緒に捕まえようとしたのかもしれない。
ラウルはそう思った。
「人さらいだから僕も売ろうとしていたのかも」
「可能性はあるかもな」
「だから、僕を傷つけないようにしてたんだね?」
「ん?」
「だって、びっくりさせる系の攻撃しかしてこなかったもの」
「…………そうだな」
護衛の目から見れば、超絶威力の苛烈な攻撃だった。
だが、護衛はラウルに話を合わせることにした。
「坊や、名前は?」
「ラウルだよ?」
「おじさんはピエールと言うんだ」
自己紹介を済ませると、ピエールは笑顔で言った。
「こいつを町に運びたいんだけど、手伝ってくれないかい?」
「いいよ! どこの町?」
「少し遠いんだが……。ガローネという街なんだ」
「あ、すごい! 僕もガローネに向かっていたんだよ!」
ピエールはラウルの目的地である隣国の王都の名前を告げる。
あまりにもラウルが道に迷うので、ピエールは業を煮やしていたのだ。
だから、身分を隠して同行することにした。
「そうか。奇遇だな。神の思し召しだろう」
そう言ってピエールは、ほっとした表情でほほ笑んだ。
「……ここどこだろう?」
「きゅる……」
ラウルはやっと道に迷っていることに気が付いた。
「ま、迷子になった?」
迷子になったら下手に動かない方がいい。
元来た道がわかるなら、わかるところまで戻るべき。
そういうセオリーではどうにもならないぐらい、ラウルたちは森の奥へと入りこんでいる。
「ま、いっか。明るくなったら道を探そうね!」
「きゅるる」
ラウルは大して気にすることもなく、ケロと一緒に夜ご飯を食べて寝ることにした。
コカトリスの肉を焼いて食べて、毛布にくるまった。
そうして真夜中。熟睡していたラウルは殺気を感じて目を覚ました。
「うわっと!」
「キュルル!」
ケロを抱きかかえたまま、飛び跳ねて躱す。
「ほう? 今の攻撃を避けるか。罠を破壊しただけあって、ただものではないらしい」
「おじさんだれ?」
ラウルたちに攻撃を仕掛けたのは、黒いフードとローブを身に着けた男だった。
まがまがしい形の大きな杖を持っている。
「小僧。その竜をこちらに渡せ」
「キュッキュ!」
ラウルの腕の中で、ケロが怯えたように震えながら鳴いている。
「いやだよ。おじさんがケロに罠を仕掛けたんだね?」
「ケロ? なんだそれは。まあいい。その竜は我が苦労して捕獲した個体だ」
「やっぱり。ケロちゃんは渡さないよ!」
目の前のおじさんは黒づくめで強そうだ。
だが、まだ子犬のケロはラウルより弱い。守ってあげないといけない。
そう考えてラウルは立ち向かうことにした。
黒づくめの男が叫ぶ。
「ならば力づくで奪うまで!」
夜闇の中、黒づくめの男は光魔法を発動させた。
まばゆい閃光とともに光の熱線がラウルを襲う。
「まぶしいよ!」
ラウルは、まるで虫を追い払うかのように、魔力をまとった右手で熱線を払いのけた。
「なん……だと……?」
黒づくめの男は唖然とした。
男はまったく油断していなかった。
ラウルが壊したのは長い間かけて魔力を込めたトラバサミ。
だから、自身の最高威力の魔法を奇襲気味に撃ち込んだのだ。
「我の最高威力の魔法を片手で……」
男は雑魚魔導師ではない。闇の秘密結社の大幹部だ。
冒険者ランクでいえば、Aランク相当の魔導師である。
だというのに、ラウルが言う。
「おじさん、サーカスの人だね?」
「はあ?」
「だから、珍しい犬のケロが欲しいんでしょう?」
羽の生えた犬に芸をさせれば、サーカスで評判になるだろう。
そうラウルは考えていた。
「ものすごくまぶしかったけど、花火かな?」
「何を言っている?」
「とぼけても無駄だよ! 花火を人に向けたら危ないでしょ!」
「ふざけるな!」
男は剣を抜いて、身体能力を魔法で強化するとラウルに襲い掛かった。
その動きは並みの剣士よりはるかに速く鋭い。
だが、剣聖に五歳で勝利したラウルにとってはお遊戯のようなもの。
「危ないでしょ!」
刀身を素手でつかむ。
「貴様……。もはやこれまで……」
黒づくめの男は覚悟を決めた。
これほど強い者が、偶然居合わせるわけがない。
目の前の少年は秘密結社を取り締まろうと国家から派遣された特殊部隊の人間だろう。
ならば、捕らえられたあとに待っているのは過酷な拷問。
そう誤解して、男は自爆しようとする。
「はい。そこまで」
そう言って、黒づくめの男の首の後ろを叩いたのは、魔皇帝直属の隊長、ラウルの護衛だ。
黒づくめの男は一瞬で気を失って崩れ落ちた。
通常、首を叩いたぐらいでは気絶しない。
だが、特殊部隊の秘儀で手から魔力を流し込んで、気絶させたのだ。
「おじさんだれ?」
「……えっと」
護衛は少し考える。
できる限りラウルに護衛がいることはばれない方がいい。
「おじさんはね。この男を追ってきた冒険者なんだ」
そして護衛はうその説明をする。
黒づくめの男は賞金を懸けられた悪い人で、護衛は賞金稼ぎという偽の説明だ。
「サーカスの人じゃなかったんだ」
「サ、サーカス? 違うよ」
「そうだったんだ」
「……この男は人さらいだよ。奴隷にして売り払うんだ」
「えっ? 怖い」
人を攫うついでに、珍しい犬であるケロも一緒に捕まえようとしたのかもしれない。
ラウルはそう思った。
「人さらいだから僕も売ろうとしていたのかも」
「可能性はあるかもな」
「だから、僕を傷つけないようにしてたんだね?」
「ん?」
「だって、びっくりさせる系の攻撃しかしてこなかったもの」
「…………そうだな」
護衛の目から見れば、超絶威力の苛烈な攻撃だった。
だが、護衛はラウルに話を合わせることにした。
「坊や、名前は?」
「ラウルだよ?」
「おじさんはピエールと言うんだ」
自己紹介を済ませると、ピエールは笑顔で言った。
「こいつを町に運びたいんだけど、手伝ってくれないかい?」
「いいよ! どこの町?」
「少し遠いんだが……。ガローネという街なんだ」
「あ、すごい! 僕もガローネに向かっていたんだよ!」
ピエールはラウルの目的地である隣国の王都の名前を告げる。
あまりにもラウルが道に迷うので、ピエールは業を煮やしていたのだ。
だから、身分を隠して同行することにした。
「そうか。奇遇だな。神の思し召しだろう」
そう言ってピエールは、ほっとした表情でほほ笑んだ。
0
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
異世界転移で無双したいっ!
朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。
目の前には絶世の美少女の女神。
異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。
気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。
呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。
チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。
当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。
果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
異世界チート無双へのアンチテーゼ。
異世界に甘えるな。
自己を変革せよ。
チートなし。テンプレなし。
異世界転移の常識を覆す問題作。
――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。
※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。
※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。
【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める
シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。
メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。
しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
チルドレン
サマエル
ファンタジー
神聖バイエルン帝国ではモンスターの被害が絶えない。
モンスターたちは人を攻撃し、特に女性をさらう。
そんな義憤に駆られた少女が一人。彼女の那覇アイリス。正義感に厚い彼女は、モンスターを憎んで、正義と平和を果たすために、剣を取る。
アイリスが活躍したり、しなかったりする冒険活劇をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる