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07 真夜中の襲撃者

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 薬草を採集したり、珍しい鉱石を拾ったりしているうちに夕方になった。

「……ここどこだろう?」
「きゅる……」
 ラウルはやっと道に迷っていることに気が付いた。

「ま、迷子になった?」
 迷子になったら下手に動かない方がいい。
 元来た道がわかるなら、わかるところまで戻るべき。
 そういうセオリーではどうにもならないぐらい、ラウルたちは森の奥へと入りこんでいる。

「ま、いっか。明るくなったら道を探そうね!」
「きゅるる」

 ラウルは大して気にすることもなく、ケロと一緒に夜ご飯を食べて寝ることにした。
 コカトリスの肉を焼いて食べて、毛布にくるまった。

 そうして真夜中。熟睡していたラウルは殺気を感じて目を覚ました。

「うわっと!」
「キュルル!」
 ケロを抱きかかえたまま、飛び跳ねて躱す。

「ほう? 今の攻撃を避けるか。罠を破壊しただけあって、ただものではないらしい」
「おじさんだれ?」

 ラウルたちに攻撃を仕掛けたのは、黒いフードとローブを身に着けた男だった。
 まがまがしい形の大きな杖を持っている。

「小僧。その竜をこちらに渡せ」
「キュッキュ!」
 ラウルの腕の中で、ケロが怯えたように震えながら鳴いている。

「いやだよ。おじさんがケロに罠を仕掛けたんだね?」
「ケロ? なんだそれは。まあいい。その竜は我が苦労して捕獲した個体だ」
「やっぱり。ケロちゃんは渡さないよ!」

 目の前のおじさんは黒づくめで強そうだ。
 だが、まだ子犬のケロはラウルより弱い。守ってあげないといけない。
 そう考えてラウルは立ち向かうことにした。

 黒づくめの男が叫ぶ。
「ならば力づくで奪うまで!」

 夜闇の中、黒づくめの男は光魔法を発動させた。
 まばゆい閃光とともに光の熱線がラウルを襲う。

「まぶしいよ!」
 ラウルは、まるで虫を追い払うかのように、魔力をまとった右手で熱線を払いのけた。

「なん……だと……?」

 黒づくめの男は唖然とした。
 男はまったく油断していなかった。
 ラウルが壊したのは長い間かけて魔力を込めたトラバサミ。
 だから、自身の最高威力の魔法を奇襲気味に撃ち込んだのだ。

「我の最高威力の魔法を片手で……」

 男は雑魚魔導師ではない。闇の秘密結社の大幹部だ。
 冒険者ランクでいえば、Aランク相当の魔導師である。

 だというのに、ラウルが言う。
「おじさん、サーカスの人だね?」
「はあ?」
「だから、珍しい犬のケロが欲しいんでしょう?」

 羽の生えた犬に芸をさせれば、サーカスで評判になるだろう。
 そうラウルは考えていた。

「ものすごくまぶしかったけど、花火かな?」
「何を言っている?」
「とぼけても無駄だよ! 花火を人に向けたら危ないでしょ!」
「ふざけるな!」

 男は剣を抜いて、身体能力を魔法で強化するとラウルに襲い掛かった。
 その動きは並みの剣士よりはるかに速く鋭い。
 だが、剣聖に五歳で勝利したラウルにとってはお遊戯のようなもの。

「危ないでしょ!」
 刀身を素手でつかむ。

「貴様……。もはやこれまで……」

 黒づくめの男は覚悟を決めた。
 これほど強い者が、偶然居合わせるわけがない。
 目の前の少年は秘密結社を取り締まろうと国家から派遣された特殊部隊の人間だろう。
 ならば、捕らえられたあとに待っているのは過酷な拷問。
 そう誤解して、男は自爆しようとする。

「はい。そこまで」
 そう言って、黒づくめの男の首の後ろを叩いたのは、魔皇帝直属の隊長、ラウルの護衛だ。
 黒づくめの男は一瞬で気を失って崩れ落ちた。

 通常、首を叩いたぐらいでは気絶しない。
 だが、特殊部隊の秘儀で手から魔力を流し込んで、気絶させたのだ。

「おじさんだれ?」
「……えっと」

 護衛は少し考える。
 できる限りラウルに護衛がいることはばれない方がいい。

「おじさんはね。この男を追ってきた冒険者なんだ」

 そして護衛はうその説明をする。
 黒づくめの男は賞金を懸けられた悪い人で、護衛は賞金稼ぎという偽の説明だ。

「サーカスの人じゃなかったんだ」
「サ、サーカス? 違うよ」
「そうだったんだ」
「……この男は人さらいだよ。奴隷にして売り払うんだ」
「えっ? 怖い」

 人を攫うついでに、珍しい犬であるケロも一緒に捕まえようとしたのかもしれない。
 ラウルはそう思った。

「人さらいだから僕も売ろうとしていたのかも」
「可能性はあるかもな」
「だから、僕を傷つけないようにしてたんだね?」
「ん?」
「だって、びっくりさせる系の攻撃しかしてこなかったもの」
「…………そうだな」

 護衛の目から見れば、超絶威力の苛烈な攻撃だった。
 だが、護衛はラウルに話を合わせることにした。

「坊や、名前は?」
「ラウルだよ?」
「おじさんはピエールと言うんだ」

 自己紹介を済ませると、ピエールは笑顔で言った。

「こいつを町に運びたいんだけど、手伝ってくれないかい?」
「いいよ! どこの町?」
「少し遠いんだが……。ガローネという街なんだ」
「あ、すごい! 僕もガローネに向かっていたんだよ!」

 ピエールはラウルの目的地である隣国の王都の名前を告げる。
 あまりにもラウルが道に迷うので、ピエールは業を煮やしていたのだ。
 だから、身分を隠して同行することにした。

「そうか。奇遇だな。神の思し召しだろう」

 そう言ってピエールは、ほっとした表情でほほ笑んだ。
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