上 下
5 / 17

05 小さな竜と錬金術

しおりを挟む
**20180818 少し改稿しました。竜の種類をファードラゴンにしました。


「羽と角が生えている犬もいるんだね。知らなかった」

 竜のことを、ラウルは珍しい犬だと思った。
 全身にモフモフな毛の生えている珍しい竜だったこともラウルを誤解させた。

 ラウルは竜を見たことが初めてだった。
 その上、両親と姉たちから竜の怖さを聞かされていた。
 だから、こんなに小さく、鶏に負けるぐらい弱い生き物が竜のはずがない。
 ラウルはそう判断した。

「あれ?」

 よく見ると竜の足には頑丈そうな罠、トラバサミが食い込んでいた。
 そのトラバサミには魔法がかかっていて、容易には外れないようになっている。
 加えてトラバサミの刃は、魔力を吸い続けているようだ。まるで呪いだ。
 魔力を吸い取られ続ければ、命にかかわる。

「痛そう……。今外してあげるね」
「キイイイイイイ!」

 トラバサミにかけられた魔法は非常に強力だ。
 だが、ラウルにとっては解除するのは難しくはない。

 罠を外すためにラウルが伸ばした手に、竜は噛みつこうとした。

「はいはい。偉い子だから暴れないでね」

 ラウルは右手で竜の口を掴むと、左手でトラバサミを魔法で破壊した。
 トラバサミはかなり深く食い込んでいたようだ。
 トラバサミが外れた個所から血がどくどくと流れている。

「痛いだろうけど我慢して。逃げないでね。すぐ治療するから」
「キキ……」
 小さな竜は助けてもらえたことが分かったのか大人しくなっている。
 それでも警戒は解かず、じっとラウルのことを見つめていた。
 
「少し待ってて。僕は見習いだけど薬師だから」

 ラウルは鞄から、金属製の錬金壺を取り出した。
 魔皇帝城の禁帯出書庫の書物を読んでラウルが自作したものだ。

 神代に失われた製法で作られた錬金壺なのだが、ラウルはそれを知らない。
 普通の錬金壺だと思っている。

 ラウルはその錬金壺を使って、その場で錬金を開始する。

「さっき採集したばかりの薬草が、さっそく役立つね」

 薬草を錬金壺へと放り込んだ。
 その後、水や触媒となる材料を色々入れて、壺の上の空中に魔法陣を描いた。
 すると錬金壺の中身が光り輝いていく。
 ラウルの魔力と材料が反応しているのだ。

 魔力を入れすぎても足りな過ぎても錬金は失敗する。緊張の一瞬だ。
 数秒後、反応が完了して輝きは止まる。

「ふう。ヒールポーションが完成! ……したはず。上手にできたと思う!」
 ラウルは、竜を怯えさせないように、優しい笑顔を浮かべて話しかける。

「少ししみるけど、我慢してね」
「キュゥ」

 ラウルはまず魔法で水を作って傷口を洗い流す。
「キュイィィィ」
「ごめんね、しみたよね。でも傷口を洗わないといけないんだ」

 傷口に土や石を取り込んだまま治癒すると、体内に残ってしまう。
 その場合、傷がふさがったとしても痛みが残る。
 それにじゅくじゅくと膿んでしまう。

 その結果、後で取り出すために、折角ふさがった傷を切開することが必要になる。

 勿論、失血死しそうなほどの重傷なら、何よりも止血が優先だ。
 全てを後回しにして、とりあえずポーションをぶっかける。

 だが、この竜は重い傷ではあるが、今すぐ失血死しそうなほどではない。
 こういう場合は傷口を洗った方がいい。

 これはラウルが書物で学んだのではなく、魔皇国の錬金術師から教えてもらったことだ。
 一般的な錬金術の薬自体の治癒効果は実はたいしたものではない。
 それゆえ、錬金術師は切開、縫合、診断を含めた医療全般の知識を蓄えている。
 あくまで錬金薬の効果は補助的なものに過ぎないのだ。

「一応、傷口をもう一度チェックさせてね」
「キュィ……」
「賢くていい子だね」

 普通の野生動物ならば、ラウルの行為を理解できない。
 治療者を痛いことをする人だと認識して噛みついてきてもおかしくない。
 だが、竜はラウルの行為を治療だと、ちゃんと理解しているようだった。

「よし、石とか傷口には入り込んでないね」
「キュ」
「でも、傷は深いね。それに傷の数も多い」
「キュィ……」
「よっぽどあの大きなにわとりにいじめられたんだね。でも大丈夫だよ」

 竜は罠の効果で魔力を失い、瀕死になっていた。
 当然魔法も使えない。そこをコカトリスに襲われたのだ。
 満足な反撃も出来なかっただろう。

「かなりしみるけど、我慢してね」
「キュィ」

 ラウルは錬金壺からヒールポーションを手ですくって傷口にかける。

「キュイイイイィィィィィ!!」
「ごめんね。あと少しだから、頑張って」

 竜の傷はみるみるうちにふさがっていく。
 あっという間に竜の体からかすり傷一つ無くなった。
 通常の錬金薬ではありえない効果である。
 だが、ラウルはその異常さに全く気付いていない。

「これでよしっと」
「きゅきゅ」

 竜の鳴き声から険が採れた。
 今までは体が深く傷ついていたせいで本能的に警戒し続けていたのだろう。

「傷口はふさがっても、魔力とか体力は回復できてないから安静にしてね」
「きゅっきゅっ!」

 竜は嬉しそうに鳴くと、ラウルの胸元に飛び込んでくる。
 そしてラウルの顔をぺろぺろ舐めた。

「ふふ、くすぐったいよ。お礼を言ってくれてるの?」
「きゅいきゅい!」

 竜はものすごくラウルに懐いていた。
 ラウルの肩に登り顔を舐めて、体をすりすりとこすりつけてくる。
 ラウルも嬉しくなって竜を優しく撫でたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ロードバックッ! 勇者アレクの英雄譚

TADA
ファンタジー
剣と魔法のファンタジー、バトル物です。  タイヴァス王国の人々は、魔と呼び忌み嫌うニビ族との戦いに疲弊していた。  戦争を集結させるため、剣聖アレクとその仲間たち、王女シルヴァ、聖女エミリア、そしてエミリアの従士リューリの四名が旅立つ。  たどり着いた敵本拠地を目前にしても一行には緊張した風もなく、お気楽な話し合いから力押しを選択し、敵城を見事崩壊させる。  そして怒りに燃える魔王との激闘の末、見事勝利したアレクは、なぜか1年後にポンコツ勇者と罵られていた。 栄光からの転落。苦悩からの復活。これは再起する勇者と仲間の物語。

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...