上 下
66 / 71

41 不死者とゼベシュの街

しおりを挟む
 俺とフレキの背に乗ったリリイは、王都に向かって走った。
 俺は走りながら考える。
 
「敵は領主か、面倒だな」

 領主は辺境伯、大貴族だ。
 それも後ろに不死神の使徒が付いている大貴族である。

『何か策はあるのかや?』
「ないよ」
『…………大丈夫かや? 不安になるのじゃ』
「とりあえず、仮面つけて突っ込んで、不死者どもを天に還そうかなって」
『単純すぎるのじゃ』

 フレキは呆れたように言う。

「作戦は単純な方が良い。よくわからない状況では特にそう。でしょ?」

 緻密な作戦を立てられるほど、情報は揃っていない。
 だが、悠長に情報収集している時間も無い。

「千体の不死者を天に還したからね。奴等は動くでしょ?」
『それは、動くであろうが……』

 千体の不死者を率いていた不死者の王も天に還った。
 死神の使徒がいることに気付いてもおかしくない。

「俺が不死神の使徒なら、作戦を前倒しにすると思うし」

 今までのように地下に不死者を集めたりして、少しずつ増やしたりはしないだろう。

『敵は動くであろ。だが、そなたの想定通りに動くとは思わない方が良いのじゃ』
「うん、気をつける」


 ゼベシュに付いた頃には、日の出から既に数時間経っていた。
 いつもならば、人々が起きて、露天が出始め、ゼベシュ全体に活気が出てくる時間帯である。

 それにしても、
「……騒がしいな」
 いつもとは違う喧騒だ。

「悲鳴? でしょうか?」
「悲鳴に戦闘音だな」

 ゼベシュからは大量の不死者の気配を感じた。
 数百体はいるだろう。

 どうやら、不死者がゼベシュの街で暴れているらしい。

「墓地の死体を片っ端から叩き起こしたのか?」

 ゼベシュの墓地だけでは足りないだろう。
 各地から死体をかき集めているようだ。

 俺はゼベシュから少し離れた場所に移動する。
 街からは直接見えない平原だ。

「フレキはここで待機して」
『わかったのじゃ』

 俺はリリイに向けて言う。

「俺は不死者を天に還すから、それが終わった後、リリイは民に説明して落ち着かせてくれ」
「わかりました」
「やり方は任せる。が、人神の力だとアピールした方が民は落ち着くだろうな」
「フィルさんの手柄を、私がとるようなことは……」
「いや、それは気にしなくていい。えっとだな……」

 俺は簡単にリリイに説明する。

 不死者が暴れたあとに、死神の使徒が来たと聞いたら民は怯えだろう。
 普通の民は、神についての知識も無いのだ。

 死神の使徒が不死者を操っていたのだと大半の民が思うだろう。

「だから、死神の使徒はいなかったことにした方が良い」
「……わかりました」
「うん。頼んだ」

 会話を終えようとしたのだが、リリイは決心した様子で言う。

「あの……もし、不死神の使徒に捕らえられたら」

 不死神の使徒に祝福されれば、リリイは傀儡になってしまう。

「わかっている。そうなったら、リリイは俺が天に還す」

 俺はそう言ってから、仮面をつけた。
 俺の髪は銀色、目は赤いままである。


 そして、俺は門へと向かった。

「中に入れて――」
 俺は門番に声を掛けたが、
「GUAAAA」
 不死者と化した門番が、俺を殺そうと襲いかかってくる。

 俺は神器でその門番の首をはねた。
 門番は不死神の祝福をうけてしまっていたようだ。

「安心して天に還るといい」

 門番には外傷はなかった。
 恐らく、毒殺されて、不死神の使徒に祝福されてしまったのだろう。

「……この状況だと、騎士や兵士は、全員不死者になっているかもな」

 俺は門をくぐってゼベシュの街の中へと入る。
 門に入ってすぐのところに、不死者と化した兵士たちが五人いた。
 その兵士たちは、ゼベシュの内側を見つめている。

「民を外に逃がすなと命令を受けているんだろうな」

 民を守るべき兵士が、民に刃を向けさせられているのだ。

 俺は背後から、兵士たちに声をかける。

「安心しろ。もう苦しむことはない」

 俺は神具の大鎌を振るう。五体の首が地面に転がる。
 綺麗な赤い血が噴き出した。血からは、不死者独特の腐臭がしない。

 まだ、死んでからさほど時間が経っていないのだろう。

「天はいいところだ。安心しろ」

 神器で斬られたことで、魂は天へと還っていく。

『……アリが……ト』
 天に還る直前、地面に落ちた兵士の首の一つ、その魂が呟いた。


 ゼベシュの街中では至る所で戦闘が繰り広げられていた。
 戦っているのは冒険者たちと不死者である。

 不死者と戦っている騎士や兵士はいなかった。 
 騎士や兵士の全員が、不死者にされている可能性もあるだろう。

「さて、権能を使って一気に天に還したいが、不死神の祝福を受けているだろうし」

 一体ずつ不死者を天に還さなければならない。

 俺は一人で走り出す。
 目に見えた不死者に氷の魔法を放ち心臓を貫く。
 すれ違いざまに、神器を振るって首をはねる。

「数が多いな」

 不死者たちは腐臭をまき散らしながら、家々の扉を破ろうとしていた。
 目に入るだけで三十体ほどいた。

 恐らくは不死者の総数は数百体。
 そして、街中は先ほど千体を天に還した平原とは違う。

 ゼベシュには多くの民がいて、建物が沢山並んでいるのだ。
 思いっきり魔法を放てないし、神器を振り回すのにも気を使う。
 非常に厄介だ。

 俺は慎重に、魔法を放ち、不死者の首を神器で刎ねていく。

 そして、扉を破られた家の住民に言う。
「神殿まで走れ!」

 人神の神殿が最も安全だろう。
 神殿には領主の指揮下にない門番たちもいる。

「は、はい!」
「付いてこい、護衛する」

 俺の銀髪も赤い目も怪しげな仮面も、民は気にしている余裕はないらしい。
 大人しく、俺に付いてくる。

 助けた民は五人。父母と十歳から五歳ぐらいの子供三人だ。

「あっ、うぇぇぇ」
 一番小さな五歳ぐらいの子が転んで泣いた。

 俺はその子を抱えると、
「すぐ神殿につくよ」
 そういって、神殿目がけて走っていく。

 途中、いくつもの扉を破られかけている家が目に入った。
 破ろうとする不死者を天に還した後、住民を連れて神殿へと走った。

「避難誘導か、手伝おう!」
「助かる」

 冒険者たちも手伝ってくれる。
 神殿に到着する頃には、護衛している住民は三十人を超えていた。

「おにいたん、ありがと!」
 途中で抱えた五歳ぐらいの子供がお礼を言ってくれる。

「うん、泣かないで偉いね」
 俺はその子供の頭を撫でた。

 俺と一緒に民の護衛をしてくれた冒険者の一人が言う。

「貧しい民は神殿に集めた方が効率よく守れそうだな」

 金持ちの家は、壁や扉がしっかりしているから、家の中で引きこもっていれば安心だ。
 だが、貧しい民の家は、扉を破られかねない。

「仮面の君、助かったよ」
 
 冒険者の一人にお礼を言われる。

「いや、気にするな。民の誘導と護衛、任せて良いか」
「もちろん。君はどうするんだ?」
「俺には他にやることがある」
「他に?」
「不死者の発生源を潰す」
「そんなことが?」
「ああ。ここは任せた」

 まだ何か聞きたそうな冒険者を置いて、俺は走りだす。
 目的地は領主の館だ。

 その途中にいる不死者を神器の大鎌で斬りながら、走って行く。

「死んでからかなり時間が経っている不死者が多いな」

 先ほど天に還した兵士とは全く様相が違う。

 恐らく墓地から暴かれた死体だろう。

 白骨化しているスケルトンも少なくない。
 肉が付いているものも、腐敗がひどい。

 みな苦しそうにうめき声を上げている。

「魂を取り憑かせたか?」

 墓の下で白骨化するまで時間が経った死体に魂が残っているとは考えにくい。
 死体に、浮遊している魂を取り憑かせたのだろう。
 その魂は、人のものとは限らない。

(被害は……多いな)

 そこここに不死者に喉を食い破られた人の死体が至る所に転がっている。
 見えるだけで死体は二十人いた。

 放っておいたら、彼らも不死者になりかねない。
 不死神の使徒が死んだばかりの死体に目をつけたら、状況は悪化する。

「天はいいところだ。安心して天に還れ」

 周囲に転がる死体にむけて、まとめて権能を行使する。

 まだ殺されたばかりの死体から、魂が天に還っていった。
 放置すれば、不死者になりかねないし、不死神の使徒の餌食にもなりかねない。
 天に還すしかないのだ。

「……ぅ」
 不死者になりかけていた魂も天へと還る。

「話しを聞いてやれなくてすまない」
『ロミを……タス……けテ』

 ロミが誰かわからないが、その魂の大切な人だろう。

「わかった。全力を尽くそう」

 俺がそういうと、魂は少し微笑み天へと還っていった。

(すまない)

 俺は心の中で謝った。
 こんな状況でなければ、ロミを探し、無事を確認し、安全を確保して、未練を無くし天に送り出してやりたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

処理中です...