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30.5 不死者の調査

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「夜の街も少しみてまわろうか」
『うむ。それもよかろう』

 夜のゼベシュは、昼とはまた違う顔を見せている。
 そんな夜のゼベシュを俺とフレキは見てまわる。

 人の声が騒がしくも、どこか心地よい。

 そんな空気を感じながら、歩いていると、
「ん?」
『どうしたのじゃ?』
「不死者の気配だ」
 俺は周囲を歩く者たちに会話を聞かれないよう、声を潜める。

『なんじゃと? 街中だというに。どこからじゃ?』
「……」

 俺は黙って領主の館を指さした。

『……なんと、厄介な事じゃ』
「厄介だからといって、無視はできないだろう?」

 領主が不死者を管理しているならば、見逃せない。
 いい企みではないのは間違いないだろう。

 不死者がゼベシュの街を滅ぼそうとしている可能性すらある。
 それは絶対に防がねばなるまい。

 もしくは、不死者を使って、領主に対しての反乱を企てている可能性もある。
 その場合、その反乱の首謀者は不死者か、少なくとも不死者と関係の深い者だろう。
 どちらにしろ、不死者側の人間だ。

「ゼベシュは不死神に狙われているのかも」

 不死者になったものの中から、ごく稀に不死者の王が生まれる。
 つまり、不死者が増えれば増えるほど、不死者の王が発生する可能性が高くなるのだ。 
 だから、不死者は、人を殺してでも不死者を増やそうとする。

 不死神に狙われれば、多くの死者が出ることになるということだ。


「ゼベシュの街の危機だな」
『不死者は、一体いつから領主の館にいたのじゃ?』
「昨日は感じなかったけど……」

 隠されていたからわからなかったのか、新たに不死者が生まれたのかはわからない。

『それにしても、この距離でよく気付いたのじゃ』

 俺たちのいる場所から領主の館は三百メートルはある。

「なんでだろう? 今いる場所が人神の神殿から遠いからかな?」
『なるほどのう。人神の神殿は人神の領域。死神の使徒の勘も鈍るのやもしれぬ』
「やっぱり、そうなのか。先代はどうだったの?」
『先代は、もっと遠くから感じ取っておった。フィルもそのうち感覚が鋭くなるであろう』
「そっか」

 どうやら、不死者を察知する感覚を鋭くするには、経験が大事なようだ。

『で、どうするのじゃ?』
「うーん」

 人神の神殿にならば、明日の朝になれば、正規の方法で入れる。
 だから、忍び込むのを止めて、明日行くことにしたのだ。

「領主の館はどちらにしろ入れないよな」
『まあのう。フィルは貴族ではないし』

 高名な冒険者でもない。領主の館を訪れても入れてもらえるわけがない。

「どうせ正規の手段で入れないなら、忍び込むか」
『ふむ』
「どうせ忍び込むなら早い方がいい。不死者が不死者を増やしたら困るしな」

 不死者に殺された者が、無念のあまり未練を残し、不死者になることがある。

「早速、忍び込むよ」
『うむ』

 フレキは俺の判断に対して、何も言わなかった。
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