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16 辺境の大都市ゼベシュ

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 荒野をそれなりの速さで四日走ると、大きな都市が見えてきた。
 直径一万から二万メートルの円形で、高さ五メートルほどの石壁で覆われている。

 時刻は昼過ぎ。ちょうど良い時間だ。

「おお、あれがこの世界の人の都市か。城みたいだ」
『人の都市の中でも大きい方じゃな。教えたことは覚えておるか?』
「うん。名前はゼベシュ。人口は五万人でこの国でも有数の大都市。領主は辺境伯家」
『信仰と産業は?』
「えっと、人神信仰が盛んで、産業は交易。近くに鉱山があって、近隣の村では農業と林業が盛ん」
『その通り。まあ人神信仰が盛んなのはこの都市に限らぬがな』

 満足そうにフレキは頷く。


「当然、死神は……」
『ああ、人気が無い。というより恐怖の対象じゃ。隠した方が良いじゃろうな』
「了解。フレキは?」
『冒険者登録して、従魔ということにすればよい。先代の頃もそうしておった』

 冒険者についてはフレキから教わっている。
 冒険者とは、魔物退治などを含めた何でも屋に近い職業らしい。

 大きな街には冒険者のギルドがあって、登録すれば大体誰でも冒険者になれるとのことだ。
 この世界には魔物を従える冒険者はたまにいるらしい。
 だから、魔物を連れて町の中に入ることも、冒険者ならば許容されるとのことだ。

「いや、でも、フレキはでかすぎるし、都市の外で待機した方が良いんじゃないか?」

 従魔と言っても限度があるだろう。
 フレキは体高、つまり地面から肩までの高さが一・七メートルほど。

 頭はもう少し高い場所にあるのだ。
 そんな巨大な狼が檻にも入れられずに都市の中に入ったら、騒ぎになるのは想像に難くない。

『わかっておるわ。わしを常識のない狼だと思っておるのか?』

 そういうと、フレキはみるみるうちに小さくなる。
 あっというまに、大型犬ぐらいの大きさになる。

「え? フレキ小さくなれたのか?」
『うむ、わしは特別な魔狼ゆえな。他の魔狼はできぬぞ?』

 人の言葉を魔法を使って話せるのもフレキだけだ。
 フレキの魔法能力は、他の魔狼に比べて圧倒的に高いのだろう。

『どうじゃ?』
 フレキはどや顔をして、俺を見る。

「改めてフレキはすごいなって思った」
『そ、そうであろ』

 フレキの尻尾がビュンビュンと揺れた。

『とはいえだ。この大きさだと戦闘能力は大きく劣るのじゃ』
「まあ、体格が小さくなれば、弱くなるよね。小さいときは魔法メインで戦うの?」
『それがだな。体を小さくする魔法を使っている状態じゃから、魔法での戦闘能力自体も大きく落ちるのじゃ』
「なるほど。それも道理だ」

 だから、フレキは小さくなることはなかったのだろう。
 目立たない以外の利点はないようだ。

『さて、早速都市に入って、冒険者登録じゃ! 冒険者カードは身分証にもなるゆえ、先代もしていたのじゃ!』
「わかった。……ところで、フレキ」
『なんじゃ?』
「俺はこのゼベシュで生まれたのかな?」
『可能性はあるであろうな』

 フレキの森から最も近い都市はゼベシュだ。
 俺が生まれたのは、きっとゼベシュか、その近隣の村だと考えるのが自然である。

『産みの親に会いたいのか?』
「いや、会いたくはないかな。母さんはいるし」
『そうか』

 フレキの尻尾がゆっくりと揺れた。
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