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14.5 巣立ち

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 次の日、俺はフレキと一緒に身支度を調える。
 フレキは先代の死神の使徒の衣服を持っていたので、その中から見繕った。

「フレキ、武器はないの?」
『ナイフならあるじゃろ、そう、その奥じゃ』
「これか」
 切れ味が良さそうなナイフだが、刃渡り〇・一メートルほどだ。

「色々と便利そうだけど、こんなに短いと戦闘には向かないんじゃない?」
『先代の使徒さまは神具でもある大きな武器を使っておられたが……』
「それいいね、どこにあるの?」
『行方不明じゃ。だが神具じゃからな。いつかフィルの元に戻るであろう。きっと近づけばなんとなくわかるに違いないのじゃ』
「そんなもんかね」

 明日巣立ちするときに着る服や装備の準備を終えると、俺は弟妹たちと遊んだ。
 弟妹たちも俺が明日巣立つと知っているからか、名残を惜しむように、長い時間遊んだ。

 その夜は、小さい頃そうしていたように弟妹たちと抱き合って眠った。
 違うのは、体が大きくなったことと、母がいないことだけだ。



 次の日の朝。
 日の出とともに起きると、皆で狩りをして、鹿をとらえて皆で分けて食べた。
 そして、先代使徒の着ていた服と靴を身につけ、ナイフを腰に差す。
 先代使徒が使っていたという、鞄を背負い準備は終わる。

「くぅーん」
 弟妹たちが寂しそうに鳴いて、俺の顔を舐め、俺に体を押しつける。

「みんな元気でな。またいつか、戻ってくるから」

 俺は弟妹たちのことを順番に抱きしめて撫でた。
 フレキも弟妹たちに狼の言葉で何か言っていた。

「……がう」
 そのとき、弟妹たちの父が戻ってくる。
 その口には、大きな赤苺を口に咥えていた。
 それを、俺に渡してくる。

「がう」
 どうやら、弟妹たちの父は赤苺を採ってきてくれたらしい。
 母がしていたことを代わりにやってくれようとしているのだろう。

「ありがとう、うれしいよ」

 お礼を言って受け取り、よく見るとそれは偽赤苺だった。
 偽赤苺は、赤苺にそっくりで毒も無い。だが、酸味が強すぎて甘みがなく美味しくないのだ。
 弟妹たちの父は、赤苺など採ってきたことがないので、間違えたのだろう。
 俺は弟妹たちの父を抱きしめて、偽赤苺を口に入れる。

「うん。美味しいよ」
 強烈な酸味が口に広がった。涙が出たのは酸味のせいではないと思う。

「弟妹たちをお願いね」
「がう」
 そして、俺とフレキは歩き出す。

『フィル。墓に挨拶しなくて良いのか?』

 ちらりと、俺は母の墓に目をやった。
 人族として、母の息子として、挨拶したいという気持ちはある。

「…………母さんは、天にいる」
 墓にはなにもない。
 それが死神の使徒である俺が知る事実なのだ。

『……そうじゃな』

 俺は死神の使徒として巣を出るのだ。
 ならば、墓には挨拶しないほうがいい。

 俺はフレキと一緒に、振り返らずに、歩いて行った。
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