20 / 71
14 巣立ち
しおりを挟む
母の葬儀が終わった日の夜。
俺と弟妹たちは、昔のように固まって眠った。
そして、俺は夢を見た。
母が俺をかばって死ぬ夢だ。
俺は懸命に母を救おうとお腹の傷を押さえるのだが、血が止まらない。
そして、母は優しい笑顔で死んでいった。
魔狼に笑顔などないのだが、夢の中では笑っていたと思う。
俺が目を覚ましたとき、俺の頬は濡れていた。泣いていたようだ。
まだ真夜中で、弟妹たちは寝息を立てていた。
小さかったころ、大きな母が俺たちを囲うように眠ってくれていたことを思い出す。
いまはもう、弟妹たちは母と同じくらい体が大きくなっている。
こうしてみると、みな母にそっくりだ。
そのとき妹が悲しそうな寝言を鳴いた。
そんな妹をぎゅっと抱きしめる。妹は母にそっくりの匂いで、その毛は母よりも柔らかかった。
抱きしめていると、妹は安らかに寝息を立て始める。
安心して、巣の中を見回すとフレキと弟妹たちの父がいなかった。
そして巣の外には魔狼たちの気配があった。
巣の外に出て見ると、フレキと十頭ほどの魔狼がいた。弟妹たちの父もいる。
『む? フィル、起こしたか?』
「いや、そうじゃないけど」
『少し待つのじゃ』
その後、フレキと魔狼たちは何やら魔狼の言葉で会話をする。
集まっていた魔狼はフレキの森をいくつかに分けた縄張りの長たちだ。
みな大きく立派な魔狼だが、フレキが最も大きく、弟妹たちの父がその次に大きかった。
しばらく眺めていると、会議が終わったらしく、魔狼たちが帰って行く。
そして、弟妹たちの父は俺の顔を舐めて、巣の中に入っていった。
「フレキ。何を話していたの?」
『そなたの巣立ちに同行し、わしも森を出るからな、後事を託していたのじゃ』
「でも、あんなことがあったばかりだし。あいつらも……」
弟妹たちが落ち着くまで、巣立ちは延期した方が良い。
そう思ったのだが、フレキは何でも無いことのように言う。
『親は子より先に死ぬ。それが自然というものじゃ。だからそなたの弟妹は大丈夫じゃ』
ならば一人娘を失ったフレキは大丈夫なのだろうか。
心配になって、フレキを見ると、
『育てなければならぬ者がいれば、親は大丈夫じゃ』
そういって、俺を見た。
『わしに残された時間は少ない。それまでにフィル、そなたにわしの知る全てを教えなければならぬ』
「フレキはまだまだ元気じゃないか」
『元気そうに見えても、年寄りはすぐに死ぬものじゃ』
「そんなことは……」
『本当じゃ。フィルに教え残したことがあれば、天に還れぬ。それにそなたの母にも頼まれたゆえな』
死ぬ前に母とフレキは魔狼の言葉で何か話していた。
「母さんはなんて?」
『フィルを頼むと。あの娘は、そなたの弟妹たちのことよりも、そなたが心配らしい』
「そっか」
弟妹たちには、魔狼社会に精通した立派な父がいる。
だが、弟妹たちの父は人族社会のことや使徒のことは何もしらない。
だから、フレキに俺のことを頼んだのだろう。
『うむ。そなたを育てずに天に還ろうものなら、娘に怒られてしまうであろ』
その後、俺とフレキは話し合い、巣立ちは、明後日に決った。
そして、俺とフレキ、弟妹たちと弟妹たちの父は、巣の中で固まって眠ったのだった。
俺と弟妹たちは、昔のように固まって眠った。
そして、俺は夢を見た。
母が俺をかばって死ぬ夢だ。
俺は懸命に母を救おうとお腹の傷を押さえるのだが、血が止まらない。
そして、母は優しい笑顔で死んでいった。
魔狼に笑顔などないのだが、夢の中では笑っていたと思う。
俺が目を覚ましたとき、俺の頬は濡れていた。泣いていたようだ。
まだ真夜中で、弟妹たちは寝息を立てていた。
小さかったころ、大きな母が俺たちを囲うように眠ってくれていたことを思い出す。
いまはもう、弟妹たちは母と同じくらい体が大きくなっている。
こうしてみると、みな母にそっくりだ。
そのとき妹が悲しそうな寝言を鳴いた。
そんな妹をぎゅっと抱きしめる。妹は母にそっくりの匂いで、その毛は母よりも柔らかかった。
抱きしめていると、妹は安らかに寝息を立て始める。
安心して、巣の中を見回すとフレキと弟妹たちの父がいなかった。
そして巣の外には魔狼たちの気配があった。
巣の外に出て見ると、フレキと十頭ほどの魔狼がいた。弟妹たちの父もいる。
『む? フィル、起こしたか?』
「いや、そうじゃないけど」
『少し待つのじゃ』
その後、フレキと魔狼たちは何やら魔狼の言葉で会話をする。
集まっていた魔狼はフレキの森をいくつかに分けた縄張りの長たちだ。
みな大きく立派な魔狼だが、フレキが最も大きく、弟妹たちの父がその次に大きかった。
しばらく眺めていると、会議が終わったらしく、魔狼たちが帰って行く。
そして、弟妹たちの父は俺の顔を舐めて、巣の中に入っていった。
「フレキ。何を話していたの?」
『そなたの巣立ちに同行し、わしも森を出るからな、後事を託していたのじゃ』
「でも、あんなことがあったばかりだし。あいつらも……」
弟妹たちが落ち着くまで、巣立ちは延期した方が良い。
そう思ったのだが、フレキは何でも無いことのように言う。
『親は子より先に死ぬ。それが自然というものじゃ。だからそなたの弟妹は大丈夫じゃ』
ならば一人娘を失ったフレキは大丈夫なのだろうか。
心配になって、フレキを見ると、
『育てなければならぬ者がいれば、親は大丈夫じゃ』
そういって、俺を見た。
『わしに残された時間は少ない。それまでにフィル、そなたにわしの知る全てを教えなければならぬ』
「フレキはまだまだ元気じゃないか」
『元気そうに見えても、年寄りはすぐに死ぬものじゃ』
「そんなことは……」
『本当じゃ。フィルに教え残したことがあれば、天に還れぬ。それにそなたの母にも頼まれたゆえな』
死ぬ前に母とフレキは魔狼の言葉で何か話していた。
「母さんはなんて?」
『フィルを頼むと。あの娘は、そなたの弟妹たちのことよりも、そなたが心配らしい』
「そっか」
弟妹たちには、魔狼社会に精通した立派な父がいる。
だが、弟妹たちの父は人族社会のことや使徒のことは何もしらない。
だから、フレキに俺のことを頼んだのだろう。
『うむ。そなたを育てずに天に還ろうものなら、娘に怒られてしまうであろ』
その後、俺とフレキは話し合い、巣立ちは、明後日に決った。
そして、俺とフレキ、弟妹たちと弟妹たちの父は、巣の中で固まって眠ったのだった。
0
お気に入りに追加
875
あなたにおすすめの小説
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。
全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。
花粉症だった空は歓喜。
しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。
(アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。
モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。
命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。
スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。
*作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。
*小説家になろう・カクヨムでも公開しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界のんびり冒険日記
リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。
精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。
とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて…
================================
初投稿です!
最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。
皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m
感想もお待ちしております!
神々の依頼、面倒なんですけどっ!
はなを
ファンタジー
ラス・シャムラの神々の鬱憤は頂点に達しようとしていた。
ヒト種が他種族の土地・金を奪い、自分の代わりに働かせるための奴隷の確保に明け暮れているからである。
この世界(以下、シャムラ)に神々の依頼で現れたハジメ。彼が人々の優しさの中で暮らし、神々の依頼を少しづつこなしていくほのぼのなファンタジー。
毎週火曜日と木曜日の朝7時に更新予定です。
R15は保険でつけました。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる