黒き深淵の彼方で

阿院修太郎

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第二章:虚像と現実

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荒れ果てた故郷の街を後にし、彼女は一人、深い森の中へと足を踏み入れていた。木々は不気味に揺れ、風が葉をざわめかせる。どこからか不気味な囁きが聞こえ、彼女の背後を追いかけてくるように感じた。

「この森は……昔と変わらない」

彼女は、かつて家族と一緒にこの森を歩いた記憶を思い出していた。幼い頃、父と母、そして弟と共に、この森で遊んだことがあった。だが、今ではその記憶すら薄れていき、ただ冷たい風が彼女の頬を撫でるばかりだった。

「今はもう……誰もいない」

彼女は無意識に握りしめていた手を見つめた。黒い紋章がその手に刻まれており、まるで彼女の決意を縛り付ける鎖のように感じられた。

「この力で……全てを取り戻すんだ」

彼女はそう呟き、前を見据えて歩みを進めた。しかし、次の瞬間、目の前に突然、一人の男が現れた。

「誰……?」

男は彼女と同じように黒衣に身を包んでいた。その顔はフードに隠れて見えなかったが、彼女に向けられた視線は鋭く、冷たかった。

「お前も契約者か」

男の声は低く、まるで氷のように冷たかった。彼女は一瞬、言葉を失ったが、すぐにその問いに答えた。

「そうだ。私は契約を交わした」

「そうか……だが、お前の覚悟はまだ足りないようだな」

男はそう言うと、彼女に向けて手を差し出した。彼の手にも同じように黒い紋章が浮かび上がっていた。

「この力が、どれほど危険なものか知っているのか?」

彼女は男の言葉に一瞬、動揺した。だが、すぐにその心を押し殺し、毅然とした態度で言い返した。

「危険だろうと構わない。私はこの力で、全てを取り戻すんだ」

男はしばらく彼女を見つめた後、ゆっくりと手を下ろした。

「ならば、その覚悟を見せてみろ」

次の瞬間、男の姿が消え、彼女の周りに黒い霧が立ち込めた。霧の中からは無数の影が現れ、彼女に襲いかかってきた。

「また幻影か……!」

彼女は咄嗟に手を振り上げ、黒い炎を解き放った。影たちは次々と燃え尽き、消え去っていく。だが、その中の一つが彼女の背後に忍び寄り、鋭い爪を振り下ろしてきた。

「っ!」

彼女はその攻撃をかろうじてかわし、再び炎を放つ。だが、影たちは次から次へと現れ、彼女を追い詰めていく。

「これが……契約の代償か……!」

彼女は徐々に力を消耗していく自分を感じていた。影たちの攻撃は止まらず、彼女の身体に深い傷を刻んでいった。意識が朦朧とする中、彼女は再び弟の姿を思い浮かべた。

「私は……絶対に負けない……!」

その瞬間、彼女の中で何かが弾けた。黒い紋章が強く輝き、彼女の身体を包む炎が一瞬で倍増した。彼女はその力を解き放ち、影たちを一気に焼き尽くした。

「この力が……」

彼女は立ち上がり、自分の手に宿る新たな力を見つめた。その力は、彼女の意志に反応し、さらに強大なものとなっていた。

「これが……私の覚悟だ」

彼女は男が消えた方向を見つめ、再び歩き出した。彼女の背後で、黒い霧はゆっくりと晴れていき、深い森の中に静寂が戻った。

「この先に何が待っていようと、私はもう迷わない」

彼女は決意を新たにし、次なる目的地へと向かって歩みを進めた。その瞳には、全てを乗り越える強い意志が宿っていた。
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