覇王の影、狂信の刃

阿院修太郎

文字の大きさ
上 下
1 / 2

第一話:「新たなる命令」

しおりを挟む
プロローグ:「影に宿る狂気」

影井薫は幼少期、家族に捨てられ、荒れ果てた村の廃屋で一人、飢えと寒さに震えながら育った。生まれながらにして、彼にはどこか冷たい間が宿っていた。感情を露わにすることなく、常に静かで、何を考えているのか分からない子供だった。

村人たちは彼を忌み嫌い、誰も手を差し伸べることはなかった。食べ物を盗むときも、彼の冷たい眼差しを受けて、人々はただ背を向けるだけだった。薫はそんな孤独な日々を過ごし、次第に心の中に不気味な影を育てていった。

しかし、その暗く冷たい日々に一筋の光が差し込んだ。ある日、織田信長が村を訪れたのだ。村は言長の軍勢によって蹂躙され、多くの命が失われた。だが、薫にとってはそれが初めて見た「力」の象徴だった。
血と炎に包まれる村で、長が自らの刀で敵を斬り倒す姿を目にした時、薫は胸の奥にかって感じたことのない感情を抱いた。それは恐怖ではなく、むしろ崇拝に近いものだった。信長の存在は、彼の中にあった冷たい闇に火を灯し、無限の忠誠心と狂気を植え付けた。

その日以来、薫は長に仕えることを人生の全てとし、彼の影となることを決意した。
長が彼を受け入れた理由は分からないが、薫はその後、彼の側近として頭角を現し、冷酷無比な戦士へと成長していくことになる。
    
    天正十年。織田長の天下統一が目前に迫っていた。しかし、信長にはまだ倒さねばならぬ敵が数多くいた。

影井薫は、信長の命を受け、再び戦場に赴く準備をしていた。この日も、彼は長の命令を遂行するために全力を尽くしていた。

「薫、この戦が終われば、次は甲斐を狙う」

信長の声は冷静でありながら、何かを決意した者の力強さを感じさせた。薫はその言葉を聞いて、心の中で戦の準備を整えた。長のためなら、どんな犠牲を払っても良いと彼は固くじていた。

信長の計画は、敵を分断し、各個撃破するものだった。薫はその命令を忠実に遂行するために、あらゆる策を講じた。彼は部下たちに命じ、戦略的な配置を整えさせた。

「城門を開かせ、敵が突撃してきたところを一気に殲滅する。それが、長様のご意向だ」

部下たちは薫の命令に従い、計画を遂行した。敵は見事に罠に嵌まり、次々と討ち取られていった。

しかし、戦いが進む中で、薫は一つの報告を受けた。敵の一部が包囲網を突破し、長のいる本陣へ向かっているというのだ。

「何としても長様を守らねば....」

薫はすぐに言長のもとへ駆けつけた。彼の心には、言長を失うという恐怖がかってないほど強く沸き上がった。彼は一瞬も迷わず、長の前に立ちはだかった。

「薫、来たか」

長は冷静な表情で彼を迎えた。薫は無言で頷き、敵が現れるのを待った。
そして、ついに敵が現れた。言長を狙って突進してくる敵兵たちを、薫は冷酷な目で見据えた。

「貴様らに、言長様の命を奪わせるわけにはいかぬ」

「貴様らに、信長様の命を奪わせるわけにはいかぬ」

その瞬間、薫は敵の中心に飛び込み、一人また一人と敵を斬り伏せた。彼の動きは疾風のごとく、敵兵たちはまるで無力だった。

戦いが終わると、薫は再び信長の前に跪いた。彼の体には多くの血が付着していたが、それを気にする様子もなかった。

「信長様、無事ですか」

「見事だ、薫。お前がいれば、私は何も恐れることはない」

その言葉を聞いて、薫は心の中で狂気的な喜びを感じた。長のために生き、長のために死ぬ。それが彼の全てだった。そして、その決意は、今後も変わることはないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

御懐妊

戸沢一平
歴史・時代
 戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。  白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。  信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。  そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。

骨董屋 鬼灯

歴史・時代
 元禄十三年。江戸の街は元禄十一年に起こった勅額火事の影響から復興しつつあった。その江戸の中に勅額火事を運良く免れた一件の骨董屋があった。 名を骨董屋 鬼灯。骨董ならば何でもござれのこの店の主人は醜女の若い女主人であった。表の顔は骨董屋、そして裏の顔は何でも屋。 そう、庭木の剪定から暗殺まで何でもこなす。 例え其れが幕府や大名が関わろうとも・・・・・・。 骨董屋鬼灯は今日も醜女の店主と変わらぬ日々を送り出すのであったがある日突然襲われる鬼灯。相手の流派から、少し前に武具を都合した親子と関係があることが分かる。 それから何故か首を突っ込んでゆく鬼灯。 さてさて、どのような事件に首を突っ込んだのか・・・・・・。 (作中の姉川家は架空のものです)

楽毅 大鵬伝

松井暁彦
歴史・時代
舞台は中国戦国時代の最中。 誰よりも高い志を抱き、民衆を愛し、泰平の世の為、戦い続けた男がいる。 名は楽毅《がくき》。 祖国である、中山国を少年時代に、趙によって奪われ、 在野の士となった彼は、燕の昭王《しょうおう》と出逢い、武才を開花させる。 山東の強国、斉を圧倒的な軍略で滅亡寸前まで追い込み、 六か国合従軍の総帥として、斉を攻める楽毅。 そして、母国を守ろうと奔走する、田単《でんたん》の二人の視点から描いた英雄譚。 複雑な群像劇、中国戦国史が好きな方はぜひ! イラスト提供 祥子様

国殤(こくしょう)

松井暁彦
歴史・時代
目前まで迫る秦の天下統一。 秦王政は最大の難敵である強国楚の侵攻を開始する。 楚征伐の指揮を任されたのは若き勇猛な将軍李信。 疾風の如く楚の城郭を次々に降していく李信だったが、彼の前に楚最強の将軍項燕が立ちはだかる。 項燕の出現によって狂い始める秦王政の計画。項燕に対抗するために、秦王政は隠棲した王翦の元へと向かう。 今、項燕と王翦の国の存亡をかけた戦いが幕を開ける。

明日の海

山本五十六の孫
歴史・時代
4月7日、天一号作戦の下、大和は坊ノ岬沖海戦を行う。多数の爆撃や魚雷が大和を襲う。そして、一発の爆弾が弾薬庫に被弾し、大和は乗組員と共に轟沈する、はずだった。しかし大和は2015年、戦後70年の世へとタイムスリップしてしまう。大和は現代の艦艇、航空機、そして日本国に翻弄される。そしてそんな中、中国が尖閣諸島への攻撃を行い、その動乱に艦長の江熊たちと共に大和も巻き込まれていく。 世界最大の戦艦と呼ばれた戦艦と、艦長江熊をはじめとした乗組員が現代と戦う、逆ジパング的なストーリー←これを言って良かったのか 主な登場人物 艦長 江熊 副長兼砲雷長 尾崎 船務長 須田 航海長 嶋田 機関長 池田

陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。  一般には武田勝頼と記されることが多い。  ……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。  信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。  つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。  一介の後見人の立場でしかない。  織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。  ……これは、そんな悲運の名将のお話である。 【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵 【注意】……武田贔屓のお話です。  所説あります。  あくまでも一つのお話としてお楽しみください。

お江戸を指南所

朝山みどり
歴史・時代
千夏の家の門札には「お江戸を指南所」とおどけた字で書いてある。 千夏はお父様とお母様の三人家族だ。お母様のほうのお祖父様はおみやげを持ってよく遊びに来る。 そのお祖父様はお父様のことを得体の知れない表六玉と呼んでいて、お母様は失礼ね。人の旦那様のことをと言って笑っている。 そんな千夏の家の隣りに、「坊ちゃん」と呼ばれる青年が引っ越して来た。 お父様は最近、盗賊が出るからお隣りに人が来てよかったと喜こぶが、千夏は「坊ちゃん」はたいして頼りにならないと思っている。 そんなある日、友達のキヨちゃんが行儀見習いに行くことが決まり、二人は久しぶりに会った。 二人はお互いの成長を感じた。それは嬉しくてちょっと寂しいことだった。 そして千夏は「坊ちゃん」と親しくなるが、お隣りの幽霊騒ぎは盗賊の手がかりとなり、キヨちゃんが盗賊の手引きをする?まさか・・・

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

処理中です...