大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲

文字の大きさ
上 下
28 / 30

27

しおりを挟む
 レオは馬を走らせていた。
 風がすぐ側を切り裂いていく。

 エーリヒが屋敷を出る直前、伯爵家に訪れていた国王陛下がヨアヒムを呼び立てたらしい。様子の気になったエーリヒが聞き耳を立てたところ、国王陛下は税率改竄についてヨアヒムに話し、彼を強請っていたという。

「この…ド鬼畜陛下っ」

 殆ど見たことのない相手に恨み言を言う。

「ヨアヒムは関係ない、ただの被害者を巻き込むなっ」

 優秀なはずの国王陛下の軍が動かず、衛兵も呑気なものだった。それは、そもそもヨアヒムが陛下に交渉し、レオの指名手配を防いだ故だとしたら?
 もしも、ヨアヒムがレオの罪を代わりに被ると決めたのだとしたら?

 筋は通らないはずだ。
 何年も前に改竄されたものをつい最近ヨアヒムがやったと言うのは無理がある。が、絶対権力者である陛下が直接下した決断だとすれば?
 ヨアヒムは優秀だ。その彼を手駒に加えられるのなら、陛下もレオの改竄を見逃すことにしたのかもしれない。

 素直なヨアヒムなら、レオのために泥を被ることも厭わないだろう。
 彼から愛されていると知ってしまったレオは、その様子をまざまざと想像できてしまう。

 嫌だ。
 そんなのは望んでいなかった。

 昂る感情のまま、グラウを走らせる。
 力強く地を踏む名馬は乗り手の思いに応えてみせた。



「あーあ、行ってしまわれました」

 エーリヒは一人、主人の出た方向を見送っていた。もはや慰めてくれるのは家に生えた雑草くらいである。

「そう言えば、レオ様の伯父様が隣町にいらっしゃるんでしたっけ。後で果物でも持って謝罪に行きましょう。脅してしまったようですし、ね。主人の後始末も従者の仕事です…って、もうレオ様の執事でさえないんでした」

 エーリヒの辞職届を受理したのは国王陛下だった。
 予定よりずっと早く伯爵家に来た陛下は、エーリヒを上から下まで眺めた後、届けに判を押した。あの鋭く値踏みする眼光をよく覚えている。

「わざと逃がされましたね、あれは」

 恐らく、エーリヒはレオを炙り出す為の道具扱いされた。

「それに素直に利用される私も私ですが……うーん、人に使われることに慣れ過ぎてしまった気がします」

 悔いはない。
 ヨアヒムの話をするレオの顔があまりに優しく、穏やかで。
 伯爵家でいつも父の顔を伺っていた彼とは思えなかった。エーリヒは、あんな顔を知らない。ヨアヒムのようにレオの悪夢を和らげてあげることもできない。

「レオ様、幸せになってくださいね」

 ぽつんと呟いた言葉に、雑草達はさらさらと揺れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

僕は平凡に生きたい

15
BL
僕はただ平凡に生きたいだけなんだ! そんな思いを抱いて入学したのは… 全寮制の男子校…!? 待って!僕はこんなところ受験してない…! 入学式当日に知らされる驚愕の事実。 僕を気に入ったから、俺のモノになれ!? 僕はモノじゃない! …なんて話を書こうかと思ったけど、無理でした。 ○○×平凡。 恐ろしく一人称が合わない平凡、のんびり学園生活を謳歌します。 (気づかない内にお気に入りが600になってました!ありがとうございます!) *ただいま加筆修正中。気が向いた時に番外編更新したりしてます。 後日談未定。

狼王の夜、ウサギの涙

月歌(ツキウタ)
BL
ウサギ族の侍従・サファリは、仕える狼族の王・アスランに密かに想いを寄せていた。ある満月の夜、アスランが突然甘く囁き、サファリを愛しげに抱きしめる。夢のような一夜を過ごし、恋人になれたと喜ぶサファリ。 しかし、翌朝のアスランは昨夜のことを覚えていなかった。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...