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 デートから帰宅した、次の日のことだった。

 エーリヒから、一通の手紙が届いた。
 曰く。

「父上が急死した…?」

 今まで見ていたものが泡沫の夢であったのだと気づく。急に現実に引き戻されてしまった。長年の不摂政がたたって、というのが王宮から派遣されていた調査員の見解らしい。

 父の死に、何の痛みも感じない自分に気づいた。
 ああ、そうだ。父は子供を愛さなかったが、実の子であるレオが愛した家族もまた二人の姉だけであったのだ。

「伯爵家は…名前だけ残すのか」

 伯爵家は現在家を継ぐ存在がいない。通常、実子または遺書があればそれに倣った人物が
国王陛下に継承を認められ、家を継ぐことになる。
 遺書らしきものはなく、あったのは亡き妻へのラブレターのみだと言う。

 同情はしないが、父もまた、一面で見れば哀れな人だった。

 継承者候補が全員他の家に行っていること、遺書もないこと、なにより悪政に苦しんだ領民たっての希望とあって、暫くは実質的に国王陛下が執り仕切る地になるようだ。準直轄地といったところだろう。しかし伯爵家の名前は残すようで、相応しい相手に伯爵領の継承を命ずるまでの期間になる。都から遠い土地を長く直轄地にするには陛下の負担が大きいためだろう。

「陛下の調査が入れば、十中八九俺のしたことは公になる」

 これまでどのように治められてきたのか、正確に調査をしないわけがない。領民の発言と書類の不備を示し合わせれば、じきに改竄はバレてしまう。
 どんな理由があろうとも、犯罪は犯罪だ。

 レオは捕縛され、ヨアヒムは犯罪者との結婚を非難される。彼は優しいから、きっと理由を知ればレオを守ろうとする。

「ごめん、俺が考えなしなせいで」

 その時その時の最善を選んだつもりでも、レオの策は天才のそれに敵わない。小手先の最善は巡り巡って今を苦しめる。

「でも、今の俺は自分が思いつける最善を選ぶしかない」

 ヨアヒムを巻き込まない方法がひとつだけあった。

 彼を被害者にしてしまえばいいのだ。
 容姿を活かして取り入った男に騙されただけの被害者に。

 ヨアヒムが与えた金目のものを荷物にまとめる。ハンネスに持ち歩いてるのを見つかっても怪しまれないよう最小限に、しかし被害額として申し分のない程度に。更に馬小屋に行ってこっそりグラウに鞍をつけ、跨る。馬と金銭を盗み、逃亡したとあれば十分だろう。

 少し出かける振りをして、下町に行く。
 目立たないよう気をつけながらローブを購入し、すぐ目深に被った。

 自分の容姿は隠れて行動するには向いていなすぎる。

 携帯食料をいくつか調達した後、足の赴くままに領地を出る。
 行き先は決めていた。

 初めから永遠に逃亡するつもりはない。ヨアヒムを被害者にして、自分だけが罪を被り非難されるよう仕組めれば十分だ。
 国王陛下の軍が、容疑者の逃亡を知った時、まずはどこを捜すだろうか?

 レオと縁のある土地。

 例えば──レオの父、今は亡き伯爵の出身地。
 ヘンネフェルト男爵家。
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