大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲

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 それから数週間、レオとヨアヒムは寝室で攻防を繰り広げた。
 ヨアヒムは本番に至らなかったとは言え、先輩の誘いに抗えなかった自分が嫌だったのか、本気で指一本触ってくれなくなってしまった。
 レオはヨアヒムが許すのを良いことに、キスをしたりハグをしたり、甘い言葉を囁いてみたりした。するとヨアヒムを反応を示すのに、鋼の理性でレオには触れない。

 新婚で、同じベッドで寝ているというのにビックリするほど性的な触れ合いがない。

「ぐ、くそ…」

 ハンネスを通して、レオの実家には仕送りが送られている。
 エーリヒからの手紙には、父が仕送りの金でギャンブルに明け暮れているため、相変わらず税率が下がっていることに気づいていないようだ。

 ヨアヒムは昼は執務室で忙しく仕事をしており、邪魔するのも申し訳なくてレオは大抵自室にいることになった。

「ハンネス、ヨアヒムはいつもあんな風に働いているのか?」

 レオは本格的に政務に関わったことがない。思えば父は初めからレオに跡を継がせるつもりがなかったのだろう。そんな初心者の目にも、ヨアヒムのてきぱきした働きぶりは目を見張るものがあった。
 報告を二人から同時に聞いたり、書類を瞬時に分類したり。

「昔の旦那様はあれほど働いてはおりませんでした。一年もすると慣れてきたとおっしゃって、三人分もの働きを無理なくこなすようになったのです。クーネンフェルス家がここまで発展したのも旦那様のおかげですね」

 誇らしそうなハンネスを見て、レオはちくりと嫉妬心が芽生えた。
 自分が凡人なのは知っているが、バルシュミーデ家に生まれたのがレオではなく、ヨアヒムだったなら、家の再建も夢ではなかったかもしれない。
 レオにできたのは、税率のちょろまかし程度だった。

 ヨアヒムは、なんでも上達が早い。

 隣に立つ人を探したがるヨアヒムのそれは、きっと天才の苦悩と言うものだ。しかしヨアヒムに並び立てる天才がいないため、彼は一番マシだと感じたレオを隣に据えた。
 寂しがり屋の妥協だ。

「まぁ、暫くすればおさまりますよ。元々この領地は大きな問題も抱えていませんし、仕事量は並より少ないくらいです。最近は急な引越しをしたのでその時の仕事を処理しているんです」
「引越し?」
「おや、ご存知なかったのですか? 旦那様は結婚前にこの屋敷をお買い上げになったのです」

 聞いてない。
 張り切ったとは言っていたが、まさか結婚のために家まで買っているとは。

「どうも、森にほど近い、大きな庭と馬小屋がある屋敷が欲しかったそうです」
「──乗馬、か」

 脳裏に浮かぶのは乗馬クラブのあの頃。
 レオとヨアヒムは出会い、苦楽を共にし、そして終わった。終わったはずの縁はヨアヒムの努力で結ばれたが、過去に一度終わったことは確かだ。

「レオ様は乗馬がお好きでいらっしゃいますか? 獲物を今数用意するのは無理ですが、馬に乗るくらいはできますよ」

 迷う。
 良い思い出と悪い思い出が同居するあの頃のように、馬に乗ってもいいものか。昼間ならヨアヒムもいない。ただ馬に乗るだけなら、嫉妬心は呼び起こされないかもしれない。

「準備してもらえるか?」
「勿論でございます」
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