大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲

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 朝だ。
 チチチ、と呑気に鳴く鳥が恨めしい。
 腰の辺りに少し気怠さがあるものの、痛みや生活に支障がありそうな疲労感はなかった。当然だ。ヤるべきことをヤッてない。レオは昨夜、あろうことか前戯の途中で寝た。

 自分で誘っておいて、である。
 覚悟も決めていたし、知識だって十分だ。何度も頭の中でシミュレーションした。紆余曲折あったものの、先輩としてリードすることもできた。気がする。途中までは。

「うう……」

 自分のあられもない声とヨアヒムの色っぽい顔を思い出して恥ずかしくなる。
 前戯のことを考えるのはやめて、今一度状況を整理しよう。

 レオは一度は可愛がったがその後決別した後輩、ヨアヒムと結婚した。ヨアヒムは決別について特に重く捉えていなかったし、むしろレオに恋をしていたと言う。その恋を成就させるため、レオとの結婚を決めた。金銭的援助も惜しまない様子だった。
 しかしいざやって来たレオを見て、自分がレオの気持ちを考えていなかったと気づき、レオに手を出すことを躊躇う。

 だがレオは覚悟を決めて初夜に挑み……

 つまるところ、冷静に考えればレオはヨアヒムと前戯どころか一緒の寝室に行く必要もなかった。ヨアヒムはレオに何も求めていない──いや、隣に立つことを求めていた、が──性的な要求はなかった。
 ただ、後輩から金を受け取る罪悪感を誤魔化したくて、自分の体を提供するレオに付き合っただけだ。

 提供できてないけど。

「レオ、起きたの?」

 夜の雰囲気のない、朝日差し込む爽やかな寝室。
 大人が二人寝転んでも十分なほど広いベッド。

 レオの隣に、ヨアヒムがいた。

「だっうわっ!? なんでお前がここに!?」
「そのリアクションは酷くない?」

 当然だが、誰かと共寝したのは今回初めてである。同じベッドに自分以外の誰かがいるという状況に心底驚いた。でもまあ、寝室は一室しかないようだし、初夜だし、夫婦だし、本番はなくともそういうことはやった。
 むしろヨアヒムが隣にいるのは当然だ。

「わ、悪い…つい、驚いて」

 ヨアヒムの声が掠れているし、顔を見ると昨夜のことを思い出して気まずい。

「百面相してるレオが面白くて話しかけなかった僕も悪いからおあいこってことで」

 ぐ。
 わかっていたが、見られていたらしい。

「結婚前の僕が調子に乗って寝室を一室にしただけだし、今日からは他の部屋を使っていいし、自室にベッドを置いてもいいよ。部屋は余ってるから、ハンネスに言えばすぐ用意してもらえるはずだ」

 ヨアヒムは一線を引く。
 昨夜のことがまるでなかったかのように。性の香りを感じさせない、穏やかながらも淡々とした口調。

「いや、ここでいい」

 ヨアヒムが困った顔をする。

「何度言ってもわからないようだから言うけど、僕に気を遣わなくていいよ。君に強請るつもりはない」

 だから、レオはただ屋敷にいて、金を受け取っていれば良いと?

「……」

 最善を示しているのはヨアヒムなのに、レオはヨアヒムの善意を全て受け取ることができない。性行為を善意の対価にするなんて自分でも酷いことをしていると思うけど。

「いいよ。僕はレオの後輩だからね。レオが望むなら、ここで寝ようか」

 何も言えなくなってしまったレオの頬をなぞり、ヨアヒムが優しく笑った。
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