親が決めた婚約者と幸せになれる筈がありません!

真咲

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初めてのトモダチ

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 デートは、そのまま解散になった。楽しかったけど、それだけに最後で現実に引き戻されてしまった気がする。
 あの、言葉。

 本当に嬉しかったのに、嘘だなんて思いたくない。世辞だったなんて考えたくない。

 私は唇を噛み締めて、リボンの箱を机に置いた。勿体なくて、まだ開けることができない。
 体が妙にだるかった。私は体をベッドに投げ出し、そのまま意識を手放した。考えることから逃げたかった。

 少しでも期待してしまった自分が悲しくて。



 翌朝。
 案の定、熱がでた。
 もとより体が強いほうでもない。デートで疲れただけだろう。珍しく歩き回ったせいで。自分の体力のなさに半ば呆れつつ、ふとあの背の低い婚約者のことを考える。

 私の家も大概貴族なのでお金はあるほうだが、彼の家は相当な大貴族である。私としてはお金持ちならお金持ちにこしたことはないのだが、あちら側が婚約を決めたのがなぜなのかわからなかった。

 こちらのほうが格が下である。
 もっと上の立場の令嬢を嫁がせてもよかったはずなのだが。

 考え事をしていると、側仕えが遠慮がちにやってきた。

「お嬢様、お客様です」

「どなた?」

 オーレリアーノだろうか。

「それが、お嬢様の友人を名乗る旅人のようで……追い出しましょうか?」

「いいえ、通して頂戴」

 初めてのトモダチ、リノである。部屋に入ってきた彼は、すっかり身長ものびていて、いつも旅をしているせいか黒く焼けていた。

「相変わらず熱ばかりだしているのかい」

「いいえ、最近は強くなったのよ。昨日、無理をしたのがいけなかっただけ。今は元気よ」

 そうかい、と特に興味なさそうにしながら、ベッドの縁に腰をおろす。

 ひんやりとした手が私の手に触れた。冷たくて気持ちいい。私はほっとして安堵のため息をつく。

「カルロッテ、一段と綺麗になったね」

 リノの声は男性にしては少し高く、本人はそれを少し気にしているが、私はむしろそれが好きだった。おしゃべりなリノの土産話をその口から久々に聞きたい。

「どこへ行っていたの?」

「北国さ。涙も凍ってしまうほど寒いところに行ったんだ。信じられるか?あたり一面真っ白なんだぜ。少し前のことも後ろも白が埋め尽くす世界って」

 その国の文化や歴史、地元の人との交流、言語やよく売れた商品。彼の少し盛った土産話は聞いていて飽きない。しばらくその美声に耳を傾けていると、唐突に話が変わった。

「カルロッテ、手を出せよ」

 不審に思いながらも、言われた通り手を出すと、何かを渡された。
 チャリ、と金属の音がする。

 銀貨三枚だった。

「それ返す。もう、お金で縛ったトモダチはやめだ。別にお金にがっついわけじゃない。この三枚がなくたって、あんたとは友達でいたいと思える」

 よく、わからなかった。

「でも、お金がないと友達にはなってくれないんじゃ」

「友達はお金で買うものじゃないんだよ。あんたは箱入り娘だったし、オレも当時は未熟だった。今もそうだが、昔ほどひどくはない。今は、わかってる。お金関係なしの、純粋な友達関係になったってことだ」

 ニヤ、と笑う彼の瞳を私はじっと見つめる。私だって、友情物語で友情をお金で買っているところなんて見たことがないので、なんとなく予想はついていた。
 友情物語のような友達ができたことが嬉しい。

 それと同時に、私の中でお金の価値が下がったが。

「ねぇ、リノ。私にまだ話すこと、あるでしょ?」

 彼を変えた、何かがある。
 その予想はあたりだったようで、リノは頭をポリポリとかきながら、北国にガールフレンドができたのだと教えてくれた。

 顔が真っ赤である。
 その土産話にまじった惚気話はその後しばらく続いた。
 私はそれが面白くて聞いていた。
 変わりやすくて悲しいのだが、私だって一応年頃である。惚気話を聞いているうちに、恋というものに対する憧れが芽生えてきた。

 リノの話が終わると、私の番であった。婚約者の話をせがまれ、デートの話をすると大笑いされてしまった。
 真剣に悩んでいたのに、とむくれると、リノは柔らかく微笑む。

「最後のお金持ってるアピールは好意の塊みたいなものじゃない?だって、カルロッテって、お金が好きな令嬢で有名だから、好かれようとしてるんだよ」

 え?
 その超解釈よりも、お金がすきな令嬢で有名って……我が事ながら、大丈夫だろうかその令嬢。
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