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初デート、致します
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私は、ハッキリ言ってこの銀髪が嫌いだ。
もっとふんわりとした金髪だったら可愛げもあろうが、これでは可愛らしいモチーフのものが似合わない。そのせいで、側仕えたちは私が着替えの時不機嫌になるのはなぜなのかあれこれ噂しているらしい。
以前の面会の時よりもカジュアルな服装を意識しながらも、令嬢として恥ずかしくない格好を選ばなければならない。私はそういったセンスを磨くのは苦手のため、もっぱら側仕え任せである。
今日はデートだと告げると、気合いの入った側仕えたちが私が不機嫌になるのも構わずシンプルなものを選んでいく。曰く、私の顔つきはシンプルなものを身に付けていたほうが映えるらしい。
「では、行って参ります」
側仕えを連れていくことも考えたのだが、そこは側仕えたちがなぜか断固拒否した。
仕事なので、と申し訳なさそうに護衛がだいぶ後ろからついてくる程度である。
前から決めていた待ち合わせの場所に時間ピッタリで行くと、すでにオーレリアーノはそこで待っていた。
「待たせてしまったかしら」
「今来たところです。そこまで貴女を待ったりするはずないでしょう」
それもそうだ。
待たせてなかったようで安心した。
「どこに行くのです?」
「この辺りをブラブラしながらお茶でもどうでしょうか」
ふーん。
ブラブラしているときに沈黙が続くことは容易に予想できたが、悪くないデートプランである。取り敢えず及第点として、私とオーレリアーノは歩きだした。
伝統的な店があれば、新しくオープンしたばかりの店もある。賑やかな商店街にお忍びで貴族が通うのは珍しくないし、よく探せば社交界で見たことのある令嬢や令息がいるだろう。
歩を進めるうちに、一瞬だけアクセサリーショップに目が止まった。
完全に私の好みである、ファンシーなアクセサリーが並んでいた。
「あ、これきっとカルロッタ嬢に似合いますよ」
オーレリアーノは唐突に、スカイブルーのリボンを手に取った。
目がキラキラしている。そこまで値の張るものではないが、そんなファンシーなもの、私に似合うのだろうか。
「似合わないと思いますが……」
私の言葉が聞こえていないのか、リボンをあててくる。
困惑し、その可愛いリボンが自分についているところを想像して恥ずかしくなる。似合うはずがないものを身に付けるなんて。
だが、オーレリアーノは満足げに顔を綻ばせた。
「似合っていますね、やっぱり」
あ……、と。
微かに声が漏れる。
今まで誰も言ってくれなかった、ほしかった言葉に胸がしめつけられた。
「では買ってきます」
「そんな、悪いです」
値の張るものではないとはいえ、私はアクセサリーにお金を裂くようなことをしたことがなかった。もったいないと思ってしまう。
「お金の心配はしなくていいですよ。これでも結構稼いでいるんです」
それに、と。
「折角のデートですから、プレゼントくらいいいでしょう?」
デート。
確かにデートとはわかっていたが、こんな普通の恋人みたいな展開は期待していなかった。お金があればそれで十分。愛人をつくってもらっても構わないとさえ思っていたのに。
結局、綺麗にラッピングされたリボンを貰い、喉が乾いたので喫茶店に入った。
オシャレな店内にはセンスのいい音楽。
自分好みの喫茶店に上機嫌になりながら、リボンの礼を言った。
「たいしたことではありませんよ。欲しいものがあれば何でも言ってくださいね。お金だけはありますから」
さっと、背筋が冷たくなる。
お金がある人が第一。その目的を満たしているオーレリアーノに、それ以上を期待していたのか。
さっきの言葉は世辞に決まっていると言うのに。浮かれてしまって情けない。親が決めた婚約者が、少しでも私に好意を持ってプレゼントしてくれたのだと考えるなんてーー馬鹿馬鹿しかった。
☆★☆
時間ピッタリに来た彼女を、らしいなぁ、なんて思いながら見つめる。
俺はといえば、実に四時間ほど前からここにいるのだが、まさか本当のことは言えまい。
彼女の服装はシンプルで、物凄く素敵だったが、似合いそうなものがあったので、リボンをプレゼントした。余計なお世話かと思ったが、プレゼントした瞬間、僅かに綻んだくちもとや緩んだ瞳を見たら蕩けそうになってしまった。
相変わらずの無表情だったが、上機嫌なのが伝わってきて、紅茶を頼んでいる最中に欲しいものがあれば言ってほしいと言った途端、しゅんとおとなしくなってしまった。
あれ……オレ、失敗した?
もっとふんわりとした金髪だったら可愛げもあろうが、これでは可愛らしいモチーフのものが似合わない。そのせいで、側仕えたちは私が着替えの時不機嫌になるのはなぜなのかあれこれ噂しているらしい。
以前の面会の時よりもカジュアルな服装を意識しながらも、令嬢として恥ずかしくない格好を選ばなければならない。私はそういったセンスを磨くのは苦手のため、もっぱら側仕え任せである。
今日はデートだと告げると、気合いの入った側仕えたちが私が不機嫌になるのも構わずシンプルなものを選んでいく。曰く、私の顔つきはシンプルなものを身に付けていたほうが映えるらしい。
「では、行って参ります」
側仕えを連れていくことも考えたのだが、そこは側仕えたちがなぜか断固拒否した。
仕事なので、と申し訳なさそうに護衛がだいぶ後ろからついてくる程度である。
前から決めていた待ち合わせの場所に時間ピッタリで行くと、すでにオーレリアーノはそこで待っていた。
「待たせてしまったかしら」
「今来たところです。そこまで貴女を待ったりするはずないでしょう」
それもそうだ。
待たせてなかったようで安心した。
「どこに行くのです?」
「この辺りをブラブラしながらお茶でもどうでしょうか」
ふーん。
ブラブラしているときに沈黙が続くことは容易に予想できたが、悪くないデートプランである。取り敢えず及第点として、私とオーレリアーノは歩きだした。
伝統的な店があれば、新しくオープンしたばかりの店もある。賑やかな商店街にお忍びで貴族が通うのは珍しくないし、よく探せば社交界で見たことのある令嬢や令息がいるだろう。
歩を進めるうちに、一瞬だけアクセサリーショップに目が止まった。
完全に私の好みである、ファンシーなアクセサリーが並んでいた。
「あ、これきっとカルロッタ嬢に似合いますよ」
オーレリアーノは唐突に、スカイブルーのリボンを手に取った。
目がキラキラしている。そこまで値の張るものではないが、そんなファンシーなもの、私に似合うのだろうか。
「似合わないと思いますが……」
私の言葉が聞こえていないのか、リボンをあててくる。
困惑し、その可愛いリボンが自分についているところを想像して恥ずかしくなる。似合うはずがないものを身に付けるなんて。
だが、オーレリアーノは満足げに顔を綻ばせた。
「似合っていますね、やっぱり」
あ……、と。
微かに声が漏れる。
今まで誰も言ってくれなかった、ほしかった言葉に胸がしめつけられた。
「では買ってきます」
「そんな、悪いです」
値の張るものではないとはいえ、私はアクセサリーにお金を裂くようなことをしたことがなかった。もったいないと思ってしまう。
「お金の心配はしなくていいですよ。これでも結構稼いでいるんです」
それに、と。
「折角のデートですから、プレゼントくらいいいでしょう?」
デート。
確かにデートとはわかっていたが、こんな普通の恋人みたいな展開は期待していなかった。お金があればそれで十分。愛人をつくってもらっても構わないとさえ思っていたのに。
結局、綺麗にラッピングされたリボンを貰い、喉が乾いたので喫茶店に入った。
オシャレな店内にはセンスのいい音楽。
自分好みの喫茶店に上機嫌になりながら、リボンの礼を言った。
「たいしたことではありませんよ。欲しいものがあれば何でも言ってくださいね。お金だけはありますから」
さっと、背筋が冷たくなる。
お金がある人が第一。その目的を満たしているオーレリアーノに、それ以上を期待していたのか。
さっきの言葉は世辞に決まっていると言うのに。浮かれてしまって情けない。親が決めた婚約者が、少しでも私に好意を持ってプレゼントしてくれたのだと考えるなんてーー馬鹿馬鹿しかった。
☆★☆
時間ピッタリに来た彼女を、らしいなぁ、なんて思いながら見つめる。
俺はといえば、実に四時間ほど前からここにいるのだが、まさか本当のことは言えまい。
彼女の服装はシンプルで、物凄く素敵だったが、似合いそうなものがあったので、リボンをプレゼントした。余計なお世話かと思ったが、プレゼントした瞬間、僅かに綻んだくちもとや緩んだ瞳を見たら蕩けそうになってしまった。
相変わらずの無表情だったが、上機嫌なのが伝わってきて、紅茶を頼んでいる最中に欲しいものがあれば言ってほしいと言った途端、しゅんとおとなしくなってしまった。
あれ……オレ、失敗した?
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