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お金が第一がモットーです
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命の次に大事なものを挙げるとすれば、どんなものになるのだろう。
愛情?家族?友人?恋人?
きっと、すごく大切なものがその枠に収まっていることだろう。
そして、私、カルロッタ・パスクィーニの命の次に大切なものは、『お金』である。
堂々と、胸を張って宣言してもいい。どこぞの山に叫んでもいい。『お金』。それがあるだけで、世の中の大抵のことはうまく回るのだと気づいたのは私が八歳のときのことである。
つまり、今からちょうど八年前になるのだがーー。
カルロッタは、病弱な令嬢で、友達が一人もいなかった。こもりきりなのだから仕方ないと、読書に没頭した時期もあったものの、その寂しさは簡単に和らぐものではない。友情物語なんて読んでしまった日には、仮想の友達と走り回る夢を見ることになる。
ある日、屋敷にやってきた商人の子に勇気を振り絞って友達になってくれと願ったところ、返ってきた返事は『銀貨三枚で手を打とう』というものだった。カルロッタにとって銀貨三枚というのはそれなりの額だったが、友達になるためなら今まで貯めたお小遣いの全てを使い果たすこともやぶさかではなかったので、お金を払った。
その後、その子とは親しくなり、旅する商人のため遊べるのは年に数度となるが、文通は頻繁に行っている。
それに味を占めた私は、自分から出かけていってはお金をちらつかせ、友達の輪を広げていったのである。
大きくなった今では、お金は友達をつくる手段というだけではなく、他にも色々できる万能なものだと認識している。よって。カルロッタが婚約者に要求するのはただひとつ。
『お金』なのである。
ーーそして今夜、カルロッタは親が決めた婚約者と面会することになっていた。
「あなたがカルロッタ嬢か。噂通りの美しい方ですね……金貨の輝きの次にぐらいですがね」
「まぁ、私を褒めても何も出ませんわよ。そちらは顔だけはいいようですけど、背が少し低くありません?」
二人きりのテーブル席で、どこぞのシェフが腕によりをかけて作ったらしいフルコース料理に舌鼓を打ち、こんな風に和やかな会話をしているというわけである。
カルロッタの希望通り、『お金』のある男性であったので、カルロッタとしては特に文句もない。
「ところで、貴女はどうやら話がわかる人らしい」
背が低いという指摘に顔をしかめつつ、だが男は会話をやめようとはしない。
カルロッタはなんたらかんたらとかいう長ったらしい名前のスープを口に運びながらそれを聞いていた。
「お互い、別に愛を求めているわけではないのだし、不仲だと言われて勝手に婚約破棄されないように、月一ほどで出掛けては如何だろうか。フリでもいいが、あまり面倒くさいことになりたくないので、食事を共にしてくれると嬉しい」
ーーうーん。
その提案には賛成である。私の価値観にこうも似た人物にはなかなか会えないだろうし。
破談になるのは勿体無い。次の婚約者がお金持ちじゃなかったらどうするのだ。
「わかりました」
私の承諾により、月一のデートが決定したのである。
ビジネスな婚約もいいなと思いながら、私は面会を終えた。
☆★☆
ああああああああ。
なにやってんだオレ!
バカか!
彼女が去った後、オレは一人醜く転げ回っていた。
サラサラと揺れるストレートの銀髪、知的なスカイブルーの瞳のカルロッタは、噂に違わぬ美貌の持ち主ーー否、噂以上の美人だった。
あまり動かない表情が、微かに動く瞬間。
その長いまつげが伏せられ、視線がが料理に注がれる瞬間。
形の良い唇から紡がれるスパイスのきいた言葉。
どの瞬間も一番美しい瞬間の彼女に見えて、とてもじゃないが気のきいた会話ができなかった。
それでも、なんとかデートの約束をとりつけた自分を褒めてほしい。
ーー確かに、彼女は親が決めた婚約者である。
だけど、だからといってラブラブになれないと誰が決めた?
オレは絶対に、カルロッタとラブラブ生活を送ってやるのだ!
ぐっと拳を握り、覚悟を決めたところで、今更ながら皿を下げに来た側仕えに軽蔑の視線を向けられていることに気づく。
あぁ、オレ、床の上に転げ回ってたんだっけか。
シワシワになってしまった服を整え、取り繕うように咳をひとつした。
あー恥ずかしい恥ずかしい。
「ご主人様、浮かれるのはわかりますが冷静に行動してくださいね」
釘をさされ、小さくなって足早にその場を去る。
まだふわふわとした脳内では、デートプランがあれこれと浮かんでいた。
愛情?家族?友人?恋人?
きっと、すごく大切なものがその枠に収まっていることだろう。
そして、私、カルロッタ・パスクィーニの命の次に大切なものは、『お金』である。
堂々と、胸を張って宣言してもいい。どこぞの山に叫んでもいい。『お金』。それがあるだけで、世の中の大抵のことはうまく回るのだと気づいたのは私が八歳のときのことである。
つまり、今からちょうど八年前になるのだがーー。
カルロッタは、病弱な令嬢で、友達が一人もいなかった。こもりきりなのだから仕方ないと、読書に没頭した時期もあったものの、その寂しさは簡単に和らぐものではない。友情物語なんて読んでしまった日には、仮想の友達と走り回る夢を見ることになる。
ある日、屋敷にやってきた商人の子に勇気を振り絞って友達になってくれと願ったところ、返ってきた返事は『銀貨三枚で手を打とう』というものだった。カルロッタにとって銀貨三枚というのはそれなりの額だったが、友達になるためなら今まで貯めたお小遣いの全てを使い果たすこともやぶさかではなかったので、お金を払った。
その後、その子とは親しくなり、旅する商人のため遊べるのは年に数度となるが、文通は頻繁に行っている。
それに味を占めた私は、自分から出かけていってはお金をちらつかせ、友達の輪を広げていったのである。
大きくなった今では、お金は友達をつくる手段というだけではなく、他にも色々できる万能なものだと認識している。よって。カルロッタが婚約者に要求するのはただひとつ。
『お金』なのである。
ーーそして今夜、カルロッタは親が決めた婚約者と面会することになっていた。
「あなたがカルロッタ嬢か。噂通りの美しい方ですね……金貨の輝きの次にぐらいですがね」
「まぁ、私を褒めても何も出ませんわよ。そちらは顔だけはいいようですけど、背が少し低くありません?」
二人きりのテーブル席で、どこぞのシェフが腕によりをかけて作ったらしいフルコース料理に舌鼓を打ち、こんな風に和やかな会話をしているというわけである。
カルロッタの希望通り、『お金』のある男性であったので、カルロッタとしては特に文句もない。
「ところで、貴女はどうやら話がわかる人らしい」
背が低いという指摘に顔をしかめつつ、だが男は会話をやめようとはしない。
カルロッタはなんたらかんたらとかいう長ったらしい名前のスープを口に運びながらそれを聞いていた。
「お互い、別に愛を求めているわけではないのだし、不仲だと言われて勝手に婚約破棄されないように、月一ほどで出掛けては如何だろうか。フリでもいいが、あまり面倒くさいことになりたくないので、食事を共にしてくれると嬉しい」
ーーうーん。
その提案には賛成である。私の価値観にこうも似た人物にはなかなか会えないだろうし。
破談になるのは勿体無い。次の婚約者がお金持ちじゃなかったらどうするのだ。
「わかりました」
私の承諾により、月一のデートが決定したのである。
ビジネスな婚約もいいなと思いながら、私は面会を終えた。
☆★☆
ああああああああ。
なにやってんだオレ!
バカか!
彼女が去った後、オレは一人醜く転げ回っていた。
サラサラと揺れるストレートの銀髪、知的なスカイブルーの瞳のカルロッタは、噂に違わぬ美貌の持ち主ーー否、噂以上の美人だった。
あまり動かない表情が、微かに動く瞬間。
その長いまつげが伏せられ、視線がが料理に注がれる瞬間。
形の良い唇から紡がれるスパイスのきいた言葉。
どの瞬間も一番美しい瞬間の彼女に見えて、とてもじゃないが気のきいた会話ができなかった。
それでも、なんとかデートの約束をとりつけた自分を褒めてほしい。
ーー確かに、彼女は親が決めた婚約者である。
だけど、だからといってラブラブになれないと誰が決めた?
オレは絶対に、カルロッタとラブラブ生活を送ってやるのだ!
ぐっと拳を握り、覚悟を決めたところで、今更ながら皿を下げに来た側仕えに軽蔑の視線を向けられていることに気づく。
あぁ、オレ、床の上に転げ回ってたんだっけか。
シワシワになってしまった服を整え、取り繕うように咳をひとつした。
あー恥ずかしい恥ずかしい。
「ご主人様、浮かれるのはわかりますが冷静に行動してくださいね」
釘をさされ、小さくなって足早にその場を去る。
まだふわふわとした脳内では、デートプランがあれこれと浮かんでいた。
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