親が決めた婚約者と幸せになれる筈がありません!

真咲

文字の大きさ
上 下
1 / 4

お金が第一がモットーです

しおりを挟む
 命の次に大事なものを挙げるとすれば、どんなものになるのだろう。
 愛情?家族?友人?恋人?
 きっと、すごく大切なものがその枠に収まっていることだろう。
 そして、私、カルロッタ・パスクィーニの命の次に大切なものは、『お金』である。

 堂々と、胸を張って宣言してもいい。どこぞの山に叫んでもいい。『お金』。それがあるだけで、世の中の大抵のことはうまく回るのだと気づいたのは私が八歳のときのことである。
 つまり、今からちょうど八年前になるのだがーー。

 カルロッタは、病弱な令嬢で、友達が一人もいなかった。こもりきりなのだから仕方ないと、読書に没頭した時期もあったものの、その寂しさは簡単に和らぐものではない。友情物語なんて読んでしまった日には、仮想の友達と走り回る夢を見ることになる。
 ある日、屋敷にやってきた商人の子に勇気を振り絞って友達になってくれと願ったところ、返ってきた返事は『銀貨三枚で手を打とう』というものだった。カルロッタにとって銀貨三枚というのはそれなりの額だったが、友達になるためなら今まで貯めたお小遣いの全てを使い果たすこともやぶさかではなかったので、お金を払った。
 その後、その子とは親しくなり、旅する商人のため遊べるのは年に数度となるが、文通は頻繁に行っている。

 それに味を占めた私は、自分から出かけていってはお金をちらつかせ、友達の輪を広げていったのである。

 大きくなった今では、お金は友達をつくる手段というだけではなく、他にも色々できる万能なものだと認識している。よって。カルロッタが婚約者に要求するのはただひとつ。

 『お金』なのである。
 ーーそして今夜、カルロッタは親が決めた婚約者と面会することになっていた。



「あなたがカルロッタ嬢か。噂通りの美しい方ですね……金貨の輝きの次にぐらいですがね」

「まぁ、私を褒めても何も出ませんわよ。そちらは顔だけはいいようですけど、背が少し低くありません?」

 二人きりのテーブル席で、どこぞのシェフが腕によりをかけて作ったらしいフルコース料理に舌鼓を打ち、こんな風に和やかな会話をしているというわけである。
 カルロッタの希望通り、『お金』のある男性であったので、カルロッタとしては特に文句もない。

「ところで、貴女はどうやら話がわかる人らしい」

 背が低いという指摘に顔をしかめつつ、だが男は会話をやめようとはしない。
 カルロッタはなんたらかんたらとかいう長ったらしい名前のスープを口に運びながらそれを聞いていた。

「お互い、別に愛を求めているわけではないのだし、不仲だと言われて勝手に婚約破棄されないように、月一ほどで出掛けては如何だろうか。フリでもいいが、あまり面倒くさいことになりたくないので、食事を共にしてくれると嬉しい」

 ーーうーん。
 その提案には賛成である。私の価値観にこうも似た人物にはなかなか会えないだろうし。
 破談になるのは勿体無い。次の婚約者がお金持ちじゃなかったらどうするのだ。

「わかりました」

 私の承諾により、月一のデートが決定したのである。
 ビジネスな婚約もいいなと思いながら、私は面会を終えた。

☆★☆

 ああああああああ。
 なにやってんだオレ!
 バカか!

 彼女が去った後、オレは一人醜く転げ回っていた。
 
 サラサラと揺れるストレートの銀髪、知的なスカイブルーの瞳のカルロッタは、噂に違わぬ美貌の持ち主ーー否、噂以上の美人だった。
 あまり動かない表情が、微かに動く瞬間。
 その長いまつげが伏せられ、視線がが料理に注がれる瞬間。
 形の良い唇から紡がれるスパイスのきいた言葉。
 
 どの瞬間も一番美しい瞬間の彼女に見えて、とてもじゃないが気のきいた会話ができなかった。

 それでも、なんとかデートの約束をとりつけた自分を褒めてほしい。
 
 ーー確かに、彼女は親が決めた婚約者である。
 だけど、だからといってラブラブになれないと誰が決めた?
 オレは絶対に、カルロッタとラブラブ生活を送ってやるのだ!
 ぐっと拳を握り、覚悟を決めたところで、今更ながら皿を下げに来た側仕えに軽蔑の視線を向けられていることに気づく。

 あぁ、オレ、床の上に転げ回ってたんだっけか。
 シワシワになってしまった服を整え、取り繕うように咳をひとつした。
 あー恥ずかしい恥ずかしい。

「ご主人様、浮かれるのはわかりますが冷静に行動してくださいね」

 釘をさされ、小さくなって足早にその場を去る。
 まだふわふわとした脳内では、デートプランがあれこれと浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の秘密はどうでもいい

真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。     ◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。  ◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。  ◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

リリーの幸せ

トモ
恋愛
リリーは小さい頃から、両親に可愛がられず、姉の影のように暮らしていた。近所に住んでいた、ダンだけが自分を大切にしてくれる存在だった。 リリーが7歳の時、ダンは引越してしまう。 大泣きしたリリーに、ダンは大人になったら迎えに来るよ。そう言って別れた。 それから10年が経ち、リリーは相変わらず姉の引き立て役のような存在のまま。 戻ってきたダンは… リリーは幸せになれるのか

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

処理中です...