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義妹が思ったよりもあんぽんたん

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 第二王子……名前はアルバートと言うらしい。
 癇癪を起こしている時でなければ、彼は基本的に……泣き虫だった。良く言えば謙虚で物腰穏やか、悪く言えば目から体の資源を垂れ流すぽやぽやした野郎ってとこか。頼りない。まぁ、婚約者が自殺に走ればそんな風にもなるだろう。アルバートは優しく、自分に自信がなかった。確かに呪いは嫌悪する輩もいるだろうけど、もとの顔はかなり良い。全体的に彫刻に見間違える美しさだ。

 私はそれなりにブラコンであると自負しているが、それでも兄とアルバートを並べたらアルバートのほうがイケメンだと言わなくちゃいけないだろう。悔しいけど。めちゃくちゃ悔しいけど。でも兄もかなり見目は整っている方だと思う。

「キャスリン……近づかないで……ひくっ、僕は醜いから……ひくっ」
「とても悔しいのですけど殿下、殿下は非常に美しいです。格好良いです」

 本当は放置で結婚だけするのも良いかなと思った。
 うじうじしている人が周りにいなかったものだから、苦手、というかどう接したら良いのかわからない。でも、その綺麗な顔で醜いと言うのは謙虚にならない。じゃあ王子よりも顔の整っていないほとんどの人はどうしろって話だからね。全員醜いの? 私の兄は醜くなんてない。ふざけんな。それに、婚約者が自殺未遂? こちとら不幸自慢なら負けないけど? 両親死亡、兄は海外、私は婚約者とられて義理の母と妹に半分監禁状態。状況を打破するべく王妃に交渉を持ちかけ、婚約者が自殺しかけた顔の持ち主と婚約中! こんな波瀾万丈の人生で私はまだ12歳だよコンチクショウ。勿論、本人の前では言わないし、思ったよりもずっと婚約者が良いタイプの人だったけどね。

「ほん……と? 嘘だっ、僕は醜いんだ……っ」
「殿下は醜くなんてありませんよ。本当です。綺麗です。輝く金髪はまるで太陽からの祝福で、青色の瞳は本で読む、広大な神秘、海を閉じ込めたようです。肌は白く透き通り、睫毛は長く……悔しいですが私よりも長いんじゃないですかね? 小柄ですが食事を改善すればすくすくお育ちになることでしょう。恐れいりますが、私が断言いたします。殿下は今まで見たどの殿方よりも見目麗しいです」
「……っ! なっ……!? う……」

 口をパクパクさせ、動転している。
 ちょっと愉快だ。

 王族をおもちゃ扱いするって結構不敬だろうけど、言わなければバレないので存分に遊んでおこう。
 今日はからかうのはこれくらいにして、と。
 未来の王子妃として、私にはやるべきことがごまんとある。王妃様、第一王子の婚約者様、王女様、私。社交界の女性たちをリードする存在になったので、私はしっかりやらなくちゃいけない。第二王子は社交界に出ないから、ほんと、私が頑張らないと。

 私くらいの年代の令嬢たちを取り巻きにつけ、ゾロゾロ歩き回る。義妹が心配だけど、義妹は伯爵家の令息を追いかけ回しているみたいだから私にできることはない。流行を編み出して影響力をつけたり、兄の嫁、つまり王女と親睦が深いこともアピール。さらに派閥争いをのらりくらりとかわす。辣腕を振るう兄がいるので領地のことは心配ない。王女もさすが王族というところか、女性たちをまとめあげている。私も負けてらんない。王子に嫁ぐってほんと疲れる。

 それと、こそこそ調べておきたいこともあるのでそれとなく手配しておいた。

 アルバートは最近ちょっぴり変わっている。
 私がついているときだけだけど、部屋から出て散歩するようになった。栄養のある食事をとって、運動して、最近はあんまり泣かなくなったし癇癪を起こす時間も減ったらしい。健康は良いことだね。

 醜いと言えば私からの褒め殺しが無表情で執行されると気づいてから、自分を卑下することもなくなった。
 顔色も心なしか明るい。良い兆候だ。

「殿下、そろそろ社交界に出てみませんか?」
「そんな……でも……」
「無理にとは申しません。でも、殿下の世界は狭すぎます。友人を作るのに良い機会だと思うのですが」

 アルバートは将来、兄の第一王子を支える役割を担う。
 そのためにも、社交界進出は必須だ。私の負担を減らすためっていう魂胆もあったりなかったりするけどね!

「……行く」

 決定だ。王妃様たちにもお願いされてたから良かった。
 アルバートがバカにされたり怖がられたりすることはないと思う。生まれつきの見た目の良さは隠せないし、私たちっていう権力者を敵に回すような言動を貴族がするわけがない。例え本当にびびっても口と顔に出さないだろう。

「きゃーっ、化け物ですわぁ~っ」

 前言撤回する。

 いた。義妹がいたのだ。婚約者の腕にひしとしがみつき、王族で、しかも上級貴族と王妃様たちがバックについたアルバートを何の臆面もなく罵倒した。目眩がする。いくらなんでも庇いきれない。可哀想に、しがみつかれた私の元婚約者殿は魂が抜けているかのような顔面蒼白ぶりだった。できることなら横の義妹を振り払ってとんずらしたいんだろう。
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