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シャーロットは男爵家の生まれである。位の低い貴族で、目立つ容姿をしていたせいで、嫉妬や醜い欲望に晒され、辛い日々を送っていた。転校しても、教室で一人、遠巻きにされている。そんなとき。
彼女が話しかけてくれた。
チョコレートブラウンの髪を持つ、可愛らしい女の子。オーレリアは、伯爵家でありながら、爵位を鼻にかけることもせず、友達だと言ってくれた。シャーロットにとって、オーレリアは天使のように清らかで、離れがたい存在だった。だがじかし、オーレリアにはすでに邪魔な虫がくっついていた。
ナサニエル・エルヴィスである。
教室で、公衆の面前で、堂々とオーレリアに褒められたナサニエル。
共に過ごした時間の差というものは埋められない。シャーロットは悔しかった。だが、自分に向けられる好意以外は基本他人の気持ちに敏感というヒロインスペックの高いシャーロットは見破っていた。ナサニエルがオーレリアに向ける恋心に。時間をかけて育てられたそれは、本人さえも淡くしか自覚していないもの。
シャーロットは、可愛らしい容姿をしている。
男から向けられる欲望のことも知っていた。故に、親友のピンチを悟ったのである!(すでにシャーロットにとってオーレリアは親友になっていた)
ナサニエルという男がオーレリアに自らの欲をぶつけるなんていう最悪の事態が脳裏に浮かび、シャーロットは決意した。なんとしても、オーレリアを守ると! ここに、ヒロインという名の……オーレリア守り隊隊長が誕生した瞬間であった!
オーレリアのいない中庭で、シャーロットとナサニエルは歓談という名の舌戦を繰り広げていた。
余程鈍ければ、なかむつまじいカップルに見えないこともないが、暗黒微笑を張り付けた男女の話し合いは、痴話喧嘩かな? と連想する隙さえなく、互いに親の仇と話しているかのような空気だった。
オーレリアはさほど鈍くないが、残念なことに乙女ゲームの世界、という先入観と持ち前の思い込みの激しさから、二人のことをこれからカップルになりそうな男女だと思っていた。まことに残念なことである。
さて、そのオーレリアは現在、学園の王子ならぬ国の王子……もはやただの王子だが……とエンカウントしていた。
『一途×第二王子 ~お前には俺だけを見ていてほしい…ダメか?~』
……。厳格な生徒会長兼王子殿下の秘密の顔を覗いてしまった。うむ。ナサニエルほどショックではないが、これもまたがつんとくるものがあるな。
「おい」
あー。どうしよう。お腹空いたなぁ。
昼休み終わるギリギリまで我慢するつもりだったけど、どうしようか。
軽食を買ってひとまずお腹を満たすとか?
「おい、そこのお前……シルヴェスター伯爵令嬢」
ふおん?
金髪碧眼の美男子が私に話しかけてきた。取り巻きの生徒会執行部たちに脇を固められ、逃げ場はない。なんてことだ。いやまぁ、名前呼ばれて逃げたりしないですけど。私は悪役令嬢でもヒロインでもない。王子からすればモブAと大差ない。ただ、ヒロインの周りをちょこまかしてるなー、くらいの。
だから、罰も受けることはないし、好意を向けられつこともない。
どんな用だろう、と自然に待ち構えることができた。
「弁当を忘れた後輩を捨て置いたりしない」
「……あ、ありがとう存じます」
怖い。ガチガチに緊張する。
私はモブだってわかっているけど、王子や取り巻きたちに囲まれ、一流シェフと一緒にご飯だなんて!
幸いなのは、私の家は中立派でモブらしく無害な家なところだ。取り巻きたちにも敵視されることはなく、簡単に受け入れてもらえた。
それにしても、本当に王子さまは王子さまなんだな。
優しい。
「伯爵令嬢は、いつもエルヴィス卿と一緒に食べているだろう。喧嘩でもしたのか?」
へ?
「していません。今日はたまたま、です」
「そう、か……それと、少し聞きたいのだが……そなたのクラスに転校してきた令嬢を見かけたのだが……その」
顔をやや赤くして、殿下が私に耳打ちをする。
なるほどねぇ。一目惚れってやつ?
私、今日は恋のキューピッドとして大活躍ね!
「シャーロットのことですか? シャーロットは学園に慣れていないので、学園の案内をしなければなりませんね~今日の放課後にでも、しようかなと思っているんです~そうですね、まずは三年生の教室から回ろうかと」
このくらいの応援はしよう。
ナサニエルには悪いけど、でもやっぱりシャーロットの気持ちが大切だもの。
シャーロットも、王子のことを好きになったら……そのときは、ドンマイ、ってナサニエルを慰めてあげよう。
王子は赤い顔をして、私にぼそぼそ感謝してくれた。
ふふ。
昼休みが終わり、私は授業を受け……あっという間に放課後になった。
ナサニエルとシャーロットを連れていく。
「シャーロット! 今から学園を案内するわ」
「わあ! ありがとうございます、オーレリア」
笑顔で腕を絡ませてきた。可愛いなあ。でへへへへ、心なしか良い匂いがする気がする。
「……っち」
「あら? エルヴィスさん、舌打ちなどしてどうなさったんですか?」
「……なんでもない」
不服そうだ。
そうだよね。私に嫉妬しちゃうよね。シャーロットと腕を組みたいのはナサニエルなのに、ごめん。でも私、今日は恋のキューピッドとして頑張ったからこのくらいのごほうびはあってもいいと思うのよね!
というわけで、腕は絡ませたままレッツ学園探索。
まずは三年生から。
三年生の階では、取り巻きを連れずに王子が待っていた。うむうむ。
「ちゃんと連れて来ましたよ、殿下っ」
シャーロットをちらちら見てる可愛い王子に耳打ちする。
すると、王子の顔がぼんっ! と赤くなった。
「っ、伯爵令嬢……っ」
小さな声で抗議する姿が可愛らしい。
急に現れたイケメンにシャーロットを取られるのではないかと危惧したのだろう。ナサニエルは顔は笑っているのに、どす黒いオーラを放っていた。
ナサニエルはわかるのだけど、シャーロットまでどす黒いオーラを放っているのは……ま、気のせいだよね。
彼女が話しかけてくれた。
チョコレートブラウンの髪を持つ、可愛らしい女の子。オーレリアは、伯爵家でありながら、爵位を鼻にかけることもせず、友達だと言ってくれた。シャーロットにとって、オーレリアは天使のように清らかで、離れがたい存在だった。だがじかし、オーレリアにはすでに邪魔な虫がくっついていた。
ナサニエル・エルヴィスである。
教室で、公衆の面前で、堂々とオーレリアに褒められたナサニエル。
共に過ごした時間の差というものは埋められない。シャーロットは悔しかった。だが、自分に向けられる好意以外は基本他人の気持ちに敏感というヒロインスペックの高いシャーロットは見破っていた。ナサニエルがオーレリアに向ける恋心に。時間をかけて育てられたそれは、本人さえも淡くしか自覚していないもの。
シャーロットは、可愛らしい容姿をしている。
男から向けられる欲望のことも知っていた。故に、親友のピンチを悟ったのである!(すでにシャーロットにとってオーレリアは親友になっていた)
ナサニエルという男がオーレリアに自らの欲をぶつけるなんていう最悪の事態が脳裏に浮かび、シャーロットは決意した。なんとしても、オーレリアを守ると! ここに、ヒロインという名の……オーレリア守り隊隊長が誕生した瞬間であった!
オーレリアのいない中庭で、シャーロットとナサニエルは歓談という名の舌戦を繰り広げていた。
余程鈍ければ、なかむつまじいカップルに見えないこともないが、暗黒微笑を張り付けた男女の話し合いは、痴話喧嘩かな? と連想する隙さえなく、互いに親の仇と話しているかのような空気だった。
オーレリアはさほど鈍くないが、残念なことに乙女ゲームの世界、という先入観と持ち前の思い込みの激しさから、二人のことをこれからカップルになりそうな男女だと思っていた。まことに残念なことである。
さて、そのオーレリアは現在、学園の王子ならぬ国の王子……もはやただの王子だが……とエンカウントしていた。
『一途×第二王子 ~お前には俺だけを見ていてほしい…ダメか?~』
……。厳格な生徒会長兼王子殿下の秘密の顔を覗いてしまった。うむ。ナサニエルほどショックではないが、これもまたがつんとくるものがあるな。
「おい」
あー。どうしよう。お腹空いたなぁ。
昼休み終わるギリギリまで我慢するつもりだったけど、どうしようか。
軽食を買ってひとまずお腹を満たすとか?
「おい、そこのお前……シルヴェスター伯爵令嬢」
ふおん?
金髪碧眼の美男子が私に話しかけてきた。取り巻きの生徒会執行部たちに脇を固められ、逃げ場はない。なんてことだ。いやまぁ、名前呼ばれて逃げたりしないですけど。私は悪役令嬢でもヒロインでもない。王子からすればモブAと大差ない。ただ、ヒロインの周りをちょこまかしてるなー、くらいの。
だから、罰も受けることはないし、好意を向けられつこともない。
どんな用だろう、と自然に待ち構えることができた。
「弁当を忘れた後輩を捨て置いたりしない」
「……あ、ありがとう存じます」
怖い。ガチガチに緊張する。
私はモブだってわかっているけど、王子や取り巻きたちに囲まれ、一流シェフと一緒にご飯だなんて!
幸いなのは、私の家は中立派でモブらしく無害な家なところだ。取り巻きたちにも敵視されることはなく、簡単に受け入れてもらえた。
それにしても、本当に王子さまは王子さまなんだな。
優しい。
「伯爵令嬢は、いつもエルヴィス卿と一緒に食べているだろう。喧嘩でもしたのか?」
へ?
「していません。今日はたまたま、です」
「そう、か……それと、少し聞きたいのだが……そなたのクラスに転校してきた令嬢を見かけたのだが……その」
顔をやや赤くして、殿下が私に耳打ちをする。
なるほどねぇ。一目惚れってやつ?
私、今日は恋のキューピッドとして大活躍ね!
「シャーロットのことですか? シャーロットは学園に慣れていないので、学園の案内をしなければなりませんね~今日の放課後にでも、しようかなと思っているんです~そうですね、まずは三年生の教室から回ろうかと」
このくらいの応援はしよう。
ナサニエルには悪いけど、でもやっぱりシャーロットの気持ちが大切だもの。
シャーロットも、王子のことを好きになったら……そのときは、ドンマイ、ってナサニエルを慰めてあげよう。
王子は赤い顔をして、私にぼそぼそ感謝してくれた。
ふふ。
昼休みが終わり、私は授業を受け……あっという間に放課後になった。
ナサニエルとシャーロットを連れていく。
「シャーロット! 今から学園を案内するわ」
「わあ! ありがとうございます、オーレリア」
笑顔で腕を絡ませてきた。可愛いなあ。でへへへへ、心なしか良い匂いがする気がする。
「……っち」
「あら? エルヴィスさん、舌打ちなどしてどうなさったんですか?」
「……なんでもない」
不服そうだ。
そうだよね。私に嫉妬しちゃうよね。シャーロットと腕を組みたいのはナサニエルなのに、ごめん。でも私、今日は恋のキューピッドとして頑張ったからこのくらいのごほうびはあってもいいと思うのよね!
というわけで、腕は絡ませたままレッツ学園探索。
まずは三年生から。
三年生の階では、取り巻きを連れずに王子が待っていた。うむうむ。
「ちゃんと連れて来ましたよ、殿下っ」
シャーロットをちらちら見てる可愛い王子に耳打ちする。
すると、王子の顔がぼんっ! と赤くなった。
「っ、伯爵令嬢……っ」
小さな声で抗議する姿が可愛らしい。
急に現れたイケメンにシャーロットを取られるのではないかと危惧したのだろう。ナサニエルは顔は笑っているのに、どす黒いオーラを放っていた。
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