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看病と混沌の二週間

第三十九話 手紙

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 部屋に戻る。
 ドロテもネリー様もいない。
 静か、としか言い様のない部屋。

 ふかふかの絨毯、ぷぅんと香るのは花の香りだろう。ネリー様の香水の匂いかもしれないし、もしかすると庭からただよってくる甘い花の香りなのかもしれない。
 家の自分の部屋よりは流石に狭いものの、不便とは思わない。
 可愛らしいカーテン、豪華なソファーに天蓋つきのベッド。

 どこかの有名な画家が描いたのだろうか、絵画が飾られている。残念なことにそちら方面への造詣が深くないが。

「……」

 部屋のテーブルに置かれた一通の手紙が目にはいった。
 ペーパーナイフを取りだし、封を開ける。こうして、いつの間にか部屋に手紙があるということは、ドロテあたりが置いておいたのだろう。途中まで姿が見えなかったことだし、十分とまではいかないけど、手紙を置ける程度の時間はある。合鍵を渡しておいたので、置いておいてくれたのだろう。

「誰からかな……」

 無気力のまま、封を開けて硬直する。
 カサリ、と手紙が手から落ちた。
 ビクビクと震える両手なんて気にもとめずに、必死に手紙を拾う。

 絨毯の上に座りこんでしまったけど、誰もいないので構ってられない。

 その、名前に。
 わたし宛の手紙に書かれた差出人の名前に、衝撃を受けた。

「ローズ……」

 たぶん、一番。
 わたしが一番話したいと思っていた相手からの手紙だった。

 手紙の文字を追い、唾をのみこんだ。
 落ち着きたかった。
 ドクドクと早鐘をうつ心臓を落ち着かせて。

 自分で思ったよりも追い詰められていたのだと、ようやく自覚した。

「ローズ……」

 ただ、ローズの名前を口にしただけ。
 それだけで、力がわいてくる気がした。

『エリザベート様
少し会ってないだけで、もうエリザベート様だったかエリザベス様だったかエリーちゃんだったか名前がわからなくなってしまいますね。なので、忘れないように手紙を書きます。こうしてエリザベート様の名前を書いていれば、しばらくは忘れずにすむんじゃないでしょうか。怖いって震えていませんか?お腹一杯食べていますか?ダイエットなんて毒にしかなりませんよ。自由を諦めていませんか?やめてくださいね、真っ直ぐに間違った方向へと進む貴女は魅力的なんですから、勝手に諦めるの。フレデリック様と喧嘩していませんか?貴族っぽく自分の感情をおさえこんでいませんか?そんなエリザベート様は似合いません。エリザベート様は、自分に正直に生きてください。
ローズ・オスーフ』

 滅茶苦茶だ。
 だけど、嬉しい。
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