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看病と混沌の二週間

第三十二話 歯をくいしばってくださいませ

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「歯をくいしばってくださいませ」

 パァン。

 ほぼ同時に響いた音。
 強い。
 さっきのエリザベートのが可愛く思えるほどには、強い。

「ネリー様……」

「サヴィラン様。エリザベート様が何をしていたか、あなたのために何をしていたのか、それを何も知らずに否定して追い出し、挙げ句嫌いと宣言するなんてとてもじゃありませんけど紳士のなさることとは思えませんわ」

 そうか。
 エリザベートは、俺のために何かしてくれたのか。
 見舞いだけじゃなく。

「だけど、これがエリザベートにとって最善なんだ」

「……っ」

 エリザベートのことなんてよく知らない。それでいい。嫌いであればいいのだ。無関心であればいいのだ。強い意思をもって、はねのければいいのだ。彼女の幸せを願うならば。
 エリザベートのことをここまで強く思ってくれる者が現れたことは喜ばしい。だがそれは、ネリー様以外にもできる。

 なんのことはない。

 ただ、俺のなかで。俺の世界で。全てはエリザベートを中心に回っている。
 エリザベートを理解しているなんて傲慢を言うつもりは毛頭ないが、俺には絶対的な自信がある。全力で。出会ったときからエリザベートのために動いたのだから。
 たかが一週間程度で。

 なんて言えば、俺がまるで時間を重視しているかのように思えるかもしれないが。

 一週間。
 王子を殴る。
 ああ。その程度で。
 その程度で、エリザベートの幸せのために動いてるなんて、よく思い込めるな。
 他でもない、俺に向かって。

 その程度の覚悟なら、誰だってもてるさ。エリザベートは、人を引き込む。代替はきくのだ。
 ……凡人が。
 あまり、調子にのるなよ。

 そんなことは勿論、表情には出さない。

「それじゃあ、エリザベートが俺にしたことを教えてくれますか?」

 執着。
 なんとでも言えばいい。
 俺は、世界とエリザベートを天秤にかけるまでもなくエリザベートを選ぶような男だ。
 エリザベートの隣が誰だっていい。

 愛しい彼女にとって、自分が邪魔者と気づいたときから。
 俺の価値はどん底に落ちた。

「貴方が倒れたのは、魔力の急激な減少、そして魔力が回復しなかったことーーつまり、睡眠不足ですわ。校医の先生の見立てでは、十日後に目覚める予定でしたが、エリザベート様がご自身の魔力を注がれたことにより、魔力の回復が早まった為、一週間で目覚められました」

 ーーそうか。

「ありがとう……」

 エリザベート。やはり君は、優しすぎるよ。
 もっと、もっともっと。
 俺を嫌いになってくれないと。
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