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看病と混沌の二週間

第二十五話 挨拶 下

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 わたしがそんなことを考えていると、ネリーがわたしのほうを見た。
 う、わたしの妄想がバレちゃったのかな!?

「こちらの可愛い方は?」

 ……可愛い方なんてっ、照れますよ。

「ネリー様のほうがずっと可愛いですよ」

「いえいえ、この蜂蜜のような金色の髪、宝石のような瞳。もしもわたくしが殿方でしたら会って一秒でプロポーズ致しております」

「そんなわけありませんよ。ネリー様のほうこそきっと猫耳メイドでも魔法少女でも露出度の高い水着でも似合いますわ」

 すらりと長い手足。女性にしては背が高く、そしてゆったりとしたドレスごしにもわかる、そのないすばでぃな体型。……あぐあぐ。

「ネリー様はともかく、やめておけエリザベート。変態発言は控えたほうがいい」

 バカデリックに注意された。
 しょーがないなー。

「お茶を勧めたいところですが……やめておいたほうがよさそうですね。顔色が優れないようです。長旅でお疲れでしょうし、もう挨拶はいいのでお休みになってください」

「そういうわけ、には……」

 バタリ。
 わたしを支えていたフレデリックの力がふっと抜ける。
 ……え?

 おそるおそるそちらを見ると、フレデリックが倒れていた。

「!?ちょ、起きなさいよバカデリックっ、心配させないでよっ」

 目を覚まさない。
 息が荒い。

 なんで。
 なんで気づかなかったの。

 こんなに側にいながら。
 こんなに近くにいながら。

 眠い?
 ふざけるな。
 甘えるな。
 周りをよく見ろ。

「落ち着いてください、エリザベート様」

 ネリー様がわたしの髪を優しく撫でた。
 ああ、そういえば二つ上のおねーさんだった。

「わたくしが校医を呼んできます。揺さぶらず、そのままにしてください」

 言われた通りに少しフレデリックから離れた。
 フレデリックがいなくなってわかった。
 例えフレデリックのことが嫌いだろうとも。

 この学校内で心を許せるのは、フレデリックしかいない。
 長い間仲良くとまではいかなくても、話してきた。もしかすると、嫌いなぶんだけ本心をつつみかくさず話せたのかもしれない……なかなか帰ってこない両親よりも、ずっと。

 心細くて。
 心がおれそうで。

 ああ、わたし。
 弱いなぁと、思った。

 ネリー様が呼んできた校医の先生が手早くフレデリックを移動させる。

「貴女は」
「フレデリックの婚約者です」

 フレデリックのくせに。
 いつまでも寝ているなんて。
 わたしに心配かけるなんて。

 早く起きないと叩き起こすわよ。
 早く起きて。

 お願い。
 白い簡素なベッドに寝かされたフレデリックの顔が青い。
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