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はじまりの一日

第十五話 眠り

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「いいえ」

 わたしの答えは初めから決まっていた。

「フレデリックのことは、会ったときからずっと嫌いです。好きになってことなどありません」

「そうか。ありがとう」

 意味のわからない質問だったが、なにやら考えがまとまったらしい。ベルトラン様の考えていることはわからないけど、何か役に立ったのなら良かった。

 ベルトラン様が去ったのを確認すると、すぐにローズがわたしに跪いてきた。

「エリザベート様」

「あの、ローズ?」

「申し訳ありませんでした。私がついていれば、こんな風に傷つくこともありませんでしたのにっ」

 ぽろぽろと涙を流すローズに、わたしは慌てて首をせいいっぱい横に振った。

「やめて。わたしは、ローズのことが大好きだし、いつも守ってくれてることを知ってるから。それに、傷なんてないでしょ?治ったんだからもういいじゃない」

 未だに不安そうにこっちを見つめてくるローズ。

「ですが」

「ですがはなし。わたしはね、ローズのことが大好きなの。そうやって変に真面目なところも、優しいところも、強いところも、頼もしいところも、たぶん、わたしが知らないローズも。わたしはローズのどこを知ってもローズがもっと好きになるだけだって確信をもって言える。それなのに、ローズはわたしの言葉を受け入れてくれないの?」

 ローズは、いつもどおり無表情だったけど、涙をきゅっとふいて、かすかに笑った気がした。

「ありがとうございます、エリザベート様。これからも守らせていただきます」

 その瞳には一点の曇りもなかった。

「ありがとう、ローズ。これからもよろしくね」

 わたしは、小さく笑ってベルトラン様の持ってきてくれた水を飲んだ。

「わたし、どれくらい眠ってたの?」

「五時間くらいですね」

 思っていたよりも少量の睡眠薬だったらしい。

「ここはどこ?」

「城の特別室です。私も詳しいことは聞かされていませんし、聞いてもわからないから無駄だと判断したので尋ねませんでしたが、ベルトラン様がエリザベート様のためだとおっしゃっていました」

 ふうん。
 よくわからないけど、ベルトラン様の判断か。
 にしても、ローズらしい答えだ。
 なにごとも深く考えないローズも、わたしは好きだ。

「もう少し寝ていてもいい?体がだるいの」

「どうぞ」

 ローズの許可を得て、わたしは再び眠りにつく。今度は、もっともっと深く。
 その眠りは、さっきのものとは違って、心地よく、安心してつける眠りなのだから。
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