上 下
10 / 43
はじまりの一日

第九話 ローズ、陥落

しおりを挟む
 ベルトラン様は、わたしに変な疑い(わたしはツンデレじゃないからね!)をかけた後、笑いすぎてうっすらと目に涙を浮かべていた。なまじ美形なせいで、わたしが心からベルトラン様に激怒していなかったら危なかったかもしれない。

「とりあえず、そういうわけだから」

 笑いをどうにかおさめたらしいベルトラン様の一言。

「まぁ、二人は特別生徒として魔法学校に行ってもらうことになる。面倒くさい大人の手続きは全部兄貴に任せとけよ……ほら、エリザベートも俺のことお兄ちゃんって呼んでいいよ?」

 おい。
 わたしを何だと思ってるんだ。

「あれ、デレないの?」

「だから、ツンデレじゃありません!」

 ベルトラン様は、くくく、と笑いながらもう部屋から出ていく。やっぱり、彼も忙しいのだ。

「あ、そうだ。ローズ、おいで」

 最後に、ベルトラン様のとんでもない一言。ローズをそんな風に呼びつけるなんて……っ命知らずにもほどがあるんじゃないかしら?

 血の雨が降る……!
 わたしは若干震えていたのだが、意外なことに、ローズの自慢の剣がベルトラン様を貫くことはなかった。

「なぜ私に命令する。お前ごときが」

 ベルトラン様にお前ごときって……。
 ローズもローズで命知らずだよね、うん。

「ローズ、いいものあげる」

 ひょっとして、物で釣ろうとしているのか、この男……。

「いいものとはなんだ?」

「今日ね、遠方からわざわざとりよせたぬいぐるみが届いたんだよーー流石職人が丁寧につくっているだけあって、もう触れただけで幸せな気持ちになるね」

 は?
 ぬいぐるみ?
 わたしが呆然とするなか、相変わらず無表情なローズは小さく頷いた。

「……よし、そのぬいぐるみは私がいただく」

 ぐはぁっ。
 ローズのギャップがすさまじいんだけど!
 いい!
 いいわ!

 ローズとベルトラン様は、躊躇いなくフレデリックの部屋を出てしまった。

 さてと。
 これで、バカデリックとわたしは二人でこうしてフレデリックの部屋にいるわけだけど。
 不思議なことに外聞的には全く問題ない。
 わたしとフレデリックは婚約者だ。

「つまり、ここでのんびり花嫁修業をサボってお昼寝でもしていろということね」

 日頃の行いがいいと、こういうことがあるから嬉しいわ。

「兄様……何を考えているんだ……」

 部屋の隅っこで悶々と考え事をしている奴がいるけど、気にしなーい。

「ていうか、あのローズはなんとかならないのか?腕は確かだが主を迷いなく置いていったぞ。護衛はどうしたんだ」

 なんか色々悩みがあるらしい。
 おつです。

「あ、フレデリック。ここ借りるわね」

「って、さっきからエリザベートがため口だし……!」

 うん。フレデリックに敬語つかうのも、面倒くさいしねぇ?

 わたしはそう思いながらフレデリックのベッドに寝転んだ。
 ふわー、眠い。

「!!!!!」

 フレデリックが、急に飛び上がったんですけど。
 どうかしました?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

溺愛されて育った夫が幼馴染と不倫してるのが分かり愛情がなくなる。さらに相手は妊娠したらしい。

window
恋愛
大恋愛の末に結婚したフレディ王太子殿下とジェシカ公爵令嬢だったがフレディ殿下が幼馴染のマリア伯爵令嬢と不倫をしました。結婚1年目で子供はまだいない。 夫婦の愛をつないできた絆には亀裂が生じるがお互いの両親の説得もあり離婚を思いとどまったジェシカ。しかし元の仲の良い夫婦に戻ることはできないと確信している。 そんな時相手のマリア令嬢が妊娠したことが分かり頭を悩ませていた。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

処理中です...