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はじまりの一日

第九話 ローズ、陥落

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 ベルトラン様は、わたしに変な疑い(わたしはツンデレじゃないからね!)をかけた後、笑いすぎてうっすらと目に涙を浮かべていた。なまじ美形なせいで、わたしが心からベルトラン様に激怒していなかったら危なかったかもしれない。

「とりあえず、そういうわけだから」

 笑いをどうにかおさめたらしいベルトラン様の一言。

「まぁ、二人は特別生徒として魔法学校に行ってもらうことになる。面倒くさい大人の手続きは全部兄貴に任せとけよ……ほら、エリザベートも俺のことお兄ちゃんって呼んでいいよ?」

 おい。
 わたしを何だと思ってるんだ。

「あれ、デレないの?」

「だから、ツンデレじゃありません!」

 ベルトラン様は、くくく、と笑いながらもう部屋から出ていく。やっぱり、彼も忙しいのだ。

「あ、そうだ。ローズ、おいで」

 最後に、ベルトラン様のとんでもない一言。ローズをそんな風に呼びつけるなんて……っ命知らずにもほどがあるんじゃないかしら?

 血の雨が降る……!
 わたしは若干震えていたのだが、意外なことに、ローズの自慢の剣がベルトラン様を貫くことはなかった。

「なぜ私に命令する。お前ごときが」

 ベルトラン様にお前ごときって……。
 ローズもローズで命知らずだよね、うん。

「ローズ、いいものあげる」

 ひょっとして、物で釣ろうとしているのか、この男……。

「いいものとはなんだ?」

「今日ね、遠方からわざわざとりよせたぬいぐるみが届いたんだよーー流石職人が丁寧につくっているだけあって、もう触れただけで幸せな気持ちになるね」

 は?
 ぬいぐるみ?
 わたしが呆然とするなか、相変わらず無表情なローズは小さく頷いた。

「……よし、そのぬいぐるみは私がいただく」

 ぐはぁっ。
 ローズのギャップがすさまじいんだけど!
 いい!
 いいわ!

 ローズとベルトラン様は、躊躇いなくフレデリックの部屋を出てしまった。

 さてと。
 これで、バカデリックとわたしは二人でこうしてフレデリックの部屋にいるわけだけど。
 不思議なことに外聞的には全く問題ない。
 わたしとフレデリックは婚約者だ。

「つまり、ここでのんびり花嫁修業をサボってお昼寝でもしていろということね」

 日頃の行いがいいと、こういうことがあるから嬉しいわ。

「兄様……何を考えているんだ……」

 部屋の隅っこで悶々と考え事をしている奴がいるけど、気にしなーい。

「ていうか、あのローズはなんとかならないのか?腕は確かだが主を迷いなく置いていったぞ。護衛はどうしたんだ」

 なんか色々悩みがあるらしい。
 おつです。

「あ、フレデリック。ここ借りるわね」

「って、さっきからエリザベートがため口だし……!」

 うん。フレデリックに敬語つかうのも、面倒くさいしねぇ?

 わたしはそう思いながらフレデリックのベッドに寝転んだ。
 ふわー、眠い。

「!!!!!」

 フレデリックが、急に飛び上がったんですけど。
 どうかしました?

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