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はじまりの一日

第四話 エスコート

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「待ってください、フレデリック様!」

 わたしは、淑女とは思えないような走りを見せた。
 あの文官がいないから、やりたい放題だ。
 ドレスをたくしあげ、ヒールでダッシュ。

 うん。
 まぁいいよね?
 ローズも止めなかったし。

「そんなに慌ててどうしたのだ、エリザベート。俺が恋しくなったか?」

「いえ、そんなことは全くないのですけども」

 恋しくなんてなるものか。
 こいつは自分が世界の中心だと本気で思っているような男だぞ?

「それでは、何用だ?」

 正直に言うなら、フレデリックに用なんてなくて(一生ないと嬉しいのだが)単に文官に怒られたから仕方なく追いかけたというものなのだが。
 さすがのわたしも、それを言うのは面倒くさい。
 というか、この人間のクズみたいな男に懇切丁寧に説明するのが時間の無駄だと思うのだ。

 なので理由をてきとーにでっちあげる。

「用がなければ会ってはいけませんか?」

 ……と思ったが、理由さえ思い付かないので(というか、こいつのために考える労力が惜しい)あえて開き直ってみた。

「……」

 なぜかほんのりと頬をそめるフレデリック。

「……ったく、早く俺のこと嫌いになれよ」

 は?
 とっくの昔に嫌いですが。

「エリザベート、俺は忙しいんだぞ?」

 あ、そう。
 興味ないのよねー。

「わかっておりますわ……ご迷惑かと思いますが、お城までついていってはいけませんか?」

 ここで帰ったら、また花嫁修行だからね。
 わたしはこれでもフレデリックの婚約者。
 一緒に行動することに何の問題もない……残念なことに。

「……そこまで言うのなら」

 いっそう顔を赤くしたフレデリックは、自然な動作でわたしをエスコートし始めた。
 差し出された右手に左手を重ねる。

 わたしを気づかってくれているのを感じて、奇妙な違和感を覚えた。
 フレデリックが、わたしを気遣うなんてありえない。
 だって彼は、自己中で傲慢で俺様で。わたしのことなんて眼中にないわがままバカデリックなのだから。

 わたしは違和感を感じながらも、フレデリックにエスコートされて馬車に乗った。
 ガタガタと揺れる馬車。

 その馬車の中で、再びふんぞりかえったフレデリックを見て、わたしは安心する。
 よかった。
 さっきのは、気のせいよね。

 わたしはそのまま、馬車で城に向かった。

「それにしても、お前が俺のこと、そんなに好きだったなんてな!」

 ……うふふ。
 こいつ、ぶん殴ってもいいかしら?
 
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