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はじまりの一日

第二話 お帰りくださいませ(怒)

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 わたしが慌てて応接間まで行くと、小刻みに震えたうちの使用人たちに囲まれながら、ソファでふんぞりかえる男がいた。

「やぁ、偶然会ったな、エリザベート」

 わたしは、ぴきりと浮いた青筋を隠そうともせずに、できるだけしっとりと話した。

「珍しいですわね。一国の王子がこんなところにいらっしゃるなんて」

「あっはは。たまたま通りかかったからな」

 こんなことをしておいて、未だ偶然会ったと言い張るつもりらしい。
 思えば、このわたしの婚約者は嘘ばかりついている奴だった。

「フレデリック様、何の御用ですか?」

 正直、用がないのなら帰ってほしい。
 わたしは、主にフレデリックのせいで嫌な花嫁修業などさせられており、時間がないのだ。

「用などない。たまたま、偶然、通りかかったのだからな!」

 そんな子供っぽいお遊びにつきあっていられるほどわたしも大人じゃない。

「そうですか。それではお帰りくださいませ」

 ちょっとまずいかな、と思いつつも、この俺様婚約者を追い出すようにしむける。わたしだけのためじゃない。ここで震えている、可哀相な使用人のためでもある。

「それにしても、お前の屋敷は落ち着くな」

 わたしの言葉は綺麗にスルーして、なんだか的外れな会話を挑んでくる。

 これ、ひょっとしてわたしの堪忍袋の緒がいつ切れるのか試してるってことはないよね?

 もうぶち切れそうなんだけど。

「お褒めいただきありがとう存じますわ、フレデリック様」

「うむ、良い感じだぞ、エリザベート」

 は?
 良い感じ?

「あっ、さっきのは間違えただけだ」

 なにやら、慌ててとりつくろうフレデリック。その瞳はさっきまでの自信に満ち溢れた傲慢な態度が嘘のようにおどおどと頼りなく光っていて。

「あの、フレデリック様?」

「エリザベートの顔が見られたことだし、俺はもう帰る。……ローズ、頼んだぞ」

 なにやらローズに目配せして、フレデリックは去っていく。
 くう、フレデリックめ、わたしの可愛いローズたんにまで手を出そうとしているのか……許せない!

「ローズ!」

 わたしは、相変わらず無表情美人の護衛騎士を見上げる。

「あの男に騙されちゃダメよ!」

 ローズはきょとんとして、ほんの少しだけ表情を変化させる。

「何のことですか?」

 うぐ。
 うまく説明できないんだけどね、えっとね。

「よくわかりませんが、わたしのやることは一つです」

 うん、よくわからなかったんだね。
 あのバカデリックの意味深な合図。

「エリザベート様は、命にかえても守ります」

 きゅう~んっ!

「ろ、ローズ!わたしも貴女を守るわ!」

「いえ、結構です」

 あっさりフラれました。残念。
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