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「……もう、良いです」

 先程までの声音が作り物だと、はっきりわかるものだった。
 凛とした声に芯が宿り、これが本来のカルロッタの声だとわかる。
 平凡さをかなぐり捨てた彼女は、リベリオによって人払いのすませられた室内で緊張を解いた。

 突如として現れるのは、カルロッタ特有の風格。

「お兄様に迷惑をかけ続けているわけには参りませんし、このまま逃げるのはあまりに苦しい」

 酷く平坦な声。

「リベリオ殿下。私はカルロッタ・タルティーニではありません。本当の名前はコレット。コレット・ラルエット。ラルエット皇家の第一皇女で、セザール殿下の妹です」

 あまりにもな爆弾発言に、しかしリベリオは口元を緩める。

「それが聞けて満足だよ」
「私の正体を見破るためにセッティングしてるでしょう、殿下? ご丁寧にラルエットの茶葉まで用意して」

 カルロッタ……コレットは紅茶を指差して、嫌な顔をする。
 コレットは折角、リベリオの好きな紅茶に合うケーキを持ってきたのにと不満なのだった。

「ところで、君たちは僕にラルエットの内情を話す気はないかな? もしもあるようなら、喜んで聞くし僕の援助を約束しよう」

 セザールが眉根を寄せる。
 彼の知るリベリオはもう少し思慮深い人物だった。
 なぜか、ポンコツになっている気がした。あながち間違いでもない。
 リベリオは、セザールが恋敵ではなくカルロッタの兄だということを知って上機嫌だった。

 自国の内情を話せと言われて話すような皇族がいるものか。特に不安定ということは、付け入る隙があると言っているようなもの。それを話してもらえるという前提で進めるのはおかしいのである。
 それに、援助とは。リベリオに得なことがない。

「なぜ、そうも帝国に尽くそうとしてくれる」

 慎重なセザールに、リベリオは笑いかけた。

「コレット姫には皇族に返り咲いてもらわなければいけないのでな。子爵令嬢では王妃としていささか身分が足りない」

 冗談めかして言うが、本当にそんなことで誤魔化せるとでも思うのか。
 さらにセザールの目が険しくなる。
 こいつは、冗談なのか本気なのか妹を欲しいと宣言している不届きものである。

「……お兄様、話してみても良いと思います」

 鶴の一声。
 硬直状態の二人の間に鈴のごとき美声が割り込んだ。

「コレット、信用しているのか」
「……と、いうよりも、今のリベリオ殿下では帝国をどうこうする力は持っていないと見えます。あくまで援助、支援。その程度の地位しか与えられていないのですよ」
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