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二章
麗人
しおりを挟む官の中には、鶏鳴の時刻までに起きて早々に仕事を始める者もいる。しかし景舜は間に合えばいいくらいのつもりで、いつもほどほどの時刻に寝台を出る。だがその朝は少しだけ早起きをせねばならなかった。昨夜の岡持ちを、自分たちの食堂ではなく府のほうの厨まで返却に行く必要があったからだ。
それに、できるだけ早いうちに、蘇長官に礼を伝えねばならないだろう。本来なら公用でない限り景舜から話しかけに行っていい立場の人物ではないのだが、この場合省略はしない方がいいと思う。
仕事が始まる前か、あるいは休憩時間。もしくは勤務明け。夜に訪ねるものではないから、もし今日一日のうちに出会えなければ、苦手な文でもしたためて誰かに託そうくらいは思っていた。
身支度を整え、朝餉をとり、岡持ちをぶらさげて主殿に向かう。その端にある厨にはやはり朝の早い官のための食事が用意されはじめていて、それを横目に岡持ちを預けてそそくさと退散である。
問題はその後。
長官には、一般官吏の官舎とは別の、長官用の別邸が敷地内に用意されている。長官以外の上級官吏は近郊に自宅がありそこから通う者がほとんどだが、都から来た長官は当然自宅は県内にないので、そういうことになるわけだ。
当然前任者もそこから執務室へと通っていたのだから、新任者もそうであるし、場所も当然知っているのだが、そこに直接出向くわけにもいかない。まして、どこかで待ち伏せも怪しすぎる。執務中に訪問はもっと不可能で、一体いつどこで彼を捕まえることができるのか、一晩考えた後でも見当がついていないありさまだ。
一言で言えば、ちょっと面倒。
身分の高い人のやることは後を考えてない。それはやはりあの人にも言えることであるようだ。
確かに自分の剣舞を気に入ってはくれた。その礼をしたい気持ちも嬉しくはあったし、実際これ以上ないありがたい礼が届いたのには、彼の人柄を感じた。しかしだ。
長官舎へ向かう途中の道でうろうろしていた景舜だったが、やがて足を止めて諦めた。ここで無駄な時間を過ごしているよりは、あっさり文に切り替えた方がよさそうだ。とにかく礼状だけ届けて、もし偶然に会えたなら直接言えばいい。礼の言葉など重なっても迷惑ではないだろうし。
慌てて取って返し、自室へ飛び込んだ。急がねば、文を届ける前に始業時間になってしまいそうだ。
勤務内容は、今日も朝は昨日と同じ、門番だ。文を通りすがりの文官に押し付けて、駆けつけたら貞が待ち構えた顔をしていた。
「おい、昨日は大手柄だったな」
舞台を終えてのち、心配して部屋まで様子を見に来た貞は昨日のうちに事情も知っているが、また改めてそんなことを言ってきた。ちょうど、一人で食べるには多すぎた天心を二人で分けながら、事の経緯は話してある。その時も、ずいぶんとはしゃいで「すごいすごい」を連発していたものだ。どうも、本人である景舜よりも興奮しているらしい。まあ、友達甲斐がそうさせることは、景舜も理解しているつもりだ。騒ぐなとは言わない。
「礼は言ったのか」
「いや、捕まらなかったから。文だけ届けた」
「おほー、いいねえ、文通とか始まったりして」
「どうしてそうなる」
冗談とはわかりながら、それでも発想があまりにも突飛に過ぎて、思わず呆れた。
「気に入られたんだろ、お前」
「の、剣舞がな」
「でも、どの客より長官が喜んでて、大絶賛だったって聞いたぞ?」
「どこで聞いてきたんだ」
「ひとの噂。お前今朝は早めに食堂を出たみたいだったけど、いたら結構な有名人になってたぜ」
「御免だ」
朝一からそんな扱いを受けたのでは、一日が疲労からの始まりになる。嫌だった。
「もうちっと喜べよ」
「とは言うがな、お前は関わりたいか? 将来有望な天才中央官吏なんぞに」
「……あの顔拝めるならそれもいいかも?」
「一生嫁もらえねえぞ」
「そりゃ困るな」
冗談交じりな会話に行きついて、それもひとまず終了だ。さっそく荷車を引いた馬車が通りの向こうからやってくるのが見えた。
昨日ほどではないが、引き続き挨拶にやってくる人や物に追われ、半日が過ぎた。交代し昼休憩をとったあとは、また別の警備兵とともに、府内の見回り。やっとあの騒ぎから遠ざかることができて、ほっと一息をついた。
やはり、文を届けておいてよかった。ただの下級武官でしかない自分に、県令と面会する機会などここまで全くなかった。行動範囲が違ううえに、関わり合う必要性が発生することもなくて、同じ敷地内で過ごしていても所詮雲の上の人なのだということが思っていた以上にひしひしと感じられた。とにかく無礼だけは免れたはずだと片付け、その日の務めを終えようという時間までになった。
夕刻になると、県府を訪れる者の足もじわじわと少なくなり、何となく閉門が近いなと皆がその雰囲気で察する。春とはいえ、午後も遅くなってくると外の風には幾分温度が足りなくなり、そういうところからも一日の終わりを感じられた。文官たちの中にはまだ残務を抱えて緊張の解れない顔の者もあるが、当番制できっちり管理されている警備兵は、特別問題がなければ時間通りに退勤できるものである。
景舜もそのつもりだった。あとは詰め所に戻って業務報告をするだけ。そんな、少し気の緩んだ頃合いだった。
後ろから、誰かが走ってくる気配はしていた。上品そうに振舞っている官にもたまにはそんなことがあるので、なんだろうくらいには気にしたが、特に呼ばれることもなかったので自分には無関係だと興味を持たなかった。しかし、その人物が景舜の近くまで追いついてきて、横に並んで顔を覗かれたときに、その距離の微妙な近さを感じて咄嗟に剣の鞘に手を掛けてしまったのは職業柄仕方がなかった。
「!」
「君だな!」
その警戒が全くの無意味だったことを悟るのと、顔を確認してきた人物が嬉し気な声を上げたのは同時だった。
足を止めた景舜の前に回り、長官職を示す赤い官服の袖を翻してもう一度「やっぱり君だ」と言って笑みを見せたその人は、かの蘇李秀だったのである。
昨日は彼の方が上段にいてしかも座っていたので、並び立つのは初めてだ。長身である景舜よりは、ほんの少しだけ目線が低かった。
「やっとみつかったよ。いや、府内の広さ、侮りがたしだな」
「あなた……」
まあ、この流れで彼の目的が自分であることは察した。しかし、用件はさっぱりである。まさか礼状が届いていなかったのだろうか。にしても、彼から景舜を探しに走ってくる理由にはならないだろう。
「これで仕事は終わりかい?」
どこから駆けてきたかはしらないが、彼は少しだけ息を弾ませていた。三十路にも満たない若さとはいえ、高級官吏が府内を走るとは、なかなか見られないことのはずだ。その理由が自分であることには、疑問しか湧いてこなかった。
「ええ、まあ。あとは報告だけです」
許可なく自分から質問を投げていい身分ではない景舜は、ただ問われたことにだけ答えた。
「その間、待っていてもいいかな。ここでこのまま立ち話をしていると、職務怠慢になるだろうから」
「……え、っと?」
ここでどういう返答が正しいかは、とっさに思いつけなかった。
まだ勤務時間を少し残している景舜よりも早く執務室を出て、こんなところをほっつき歩いているこの人の立場や業務は大丈夫なのか。しかも、一言二言で終わらない会話をしたそうな様子だが一体何を話すつもりなのか。疑問は一つも解決することなく増える一方だ。
そうこうしているうちに、遠くからこの二人の様子を見ている他の官の視線がひじょうに気になってきた。自分たち……正しくは長官だけなのかもしれないが……、必要以上に目立っている。
「ほら、行っておいで。私はここで待っている」
「ここで、ですか」
「いけないかい?」
「不自然すぎます。まさか、ご自身がここの者たちにどういうふうに見られているか、お察しではないと?」
「どうせどこで何していても物珍しいんだろうから、開き直った。都もここも、たいして変わらない」
少しも臆することなく出たような言葉だった。妙に説得力があって、既にそういうことには耐性があるということらしいし、自身がある種奇人の領域であることも自覚しているらしい。
「こそこそする方が、変な噂を呼ぶものだよ」
「……」
どんな噂だ。考えるだけでもぞっとする。
「どうだい、ひどく疲れているのでなければ、府内を案内でもしてくれないか。文官とは違う視点で、見ることができるかもしれない」
「……変人」
またひとつ疑問が増え、景舜はそれに解答を考えるよりも先に、この人物を身分や立場の上下とは違う尺度で、特別に分類することにした。
「え、何?」
「いえ。わかりました。では、ここで。すぐに戻って、一応上官に、あなたの案内をすることは伝えてから、来ます」
「うん。よろしく頼む」
案内は半分口実なのは、砕けた雰囲気ですぐにわかった。一体何を考えているのか、さっぱりだ。だいたい、高官など自分から下っ端に声をかけることすらしないものなのに。話したいと。何を?
この先はもう、景舜の二十二年そこそこの人生経験では想像もつかない。だから、今は考えるまいと思った。疲れるだけである。
駆け足で詰め所に入ると、上官が書類を前に頭を抱えていた。彼は警備班の責任者で、すっと整った髭を生やし、四十あたりで男らしい精悍さを持つ武官だ。面倒見がよく、景舜の直属の上官として、わりと尊敬に値する人物だと思っている。
「二隊長景沐辰、持ち場異常ありませんでした」
「了解した。上がっていいぞ」
いつものように返答があったが、今日は上官はこちらを向くことがなかった。
嘘のない報告をしているかの確認もあるようで、彼は業務の終わりには必ず相手の目を見て、真実かと念押しをするようなところがあるのに、珍しいことだ。
「あの、念のため伝えておくのですが、……この後、職務外ではありますが、自分が蘇長官を案内して府内を回ることになりました。ご本人の希望からです。一応、お知りおきください」
「長官を?」
やっとここで書面から顔を離して景舜を見た上官は、一度驚いた顔をしてから、ふふっと笑った。
「お前、昨日ので長官に気に入られたか」
この人はあの場にはいなかったはずだが、さすがに部下の派手な動きは把握しているようだ。
「そういうわけでは……」
ないと言い切るのはあまりにわざとらしいような気がして、言葉は途切れた。
「まあ、いいさ。お前ならまずいことには繋がらんだろうしな。いろんな意味で」
どこか品定めをするように見られ、その意味はわかった。上級官吏ならば、利害による不正が疑われる可能性がある。彼よりも年上ならば、特別な仲を疑われる。しかし景舜ならばそのどちらでもないということだ。別に悔しくもないが、やはりああいった立場の人間と関わるには、難しいところがあるようだ。彼もそれを鑑みて、わざとかえって目立つように行動したのかもしれない。やましいことは何もないと見せつけるように。
「……、なにか、難しい案件でも?」
珍しいと言えば、書物が大嫌いなはずのこの上官が、書簡や木簡を眺めて唸っているのもこれまた珍しいことだった。机上をのぞきこみ、景舜はなにげなく問いかけた。
「うむ。その県令殿がだな、府内の警備体制を整えるようにとおおせでな」
上官が、渋い顔で苦く笑った。
「は……はい?」
「今朝次官殿に案内されて見て回られただけなのに、我々が把握している手薄をあっさりと指摘なさった。早急に対策せよとおおせだ。把握しているならなぜ変えぬと言われてな。まったくその通りなんだが」
「……」
「そういうことさ」
「なるほど」
完全に口実でもなかったということだ。もしかすると先程も、自分の目でもう一度見て回りながら景舜を探していたのかもしれない。そうとわかれば、むしろ気が楽だ。こちらもそのつもりで案内できるというもの。世間話をせよと言われるよりもずっと簡単だ。しかし。
「私が案内でよいのでしょうか」
「いいのだろうさ。かの方がお前を選んだんだと思え。お前の目で、細かいところまで見せて差し上げるといい。今からの時間なら、日が落ちてからの留意点も伝えておけ。今日のぶんは一刻ぶん残業としてつけておく」
「承知しました。ご配慮ありがとうございます」
ついうっかり話し込んでしまったことを気にし、やはり急いで先程の場所に駆けつけると、蘇李秀は変わらずその場所で、人の行き来や建物を眺めて過ごしていた。通り過ぎる官たちが挨拶するのにもちゃんと答え、愛想もいい。
景舜が来たことに気が付き、軽く手を上げて招く。そこまではしなくてもいいのだが。
「このあとのは、残業扱いになりました。どこでもおおせのままに案内させていただきます」
「なんだ、聞いたのか。お陰で仕事になったのだな。すまない」
「それならそうと仰ってくださればいいのです」
「うん。だがどちらかと言えばそっちは口実だからな。君と話がしたいと思ったんだよ」
と、あっさり言ってしまう。この顔で言われると、下心のある人間ならたやすくその気になってしまいそうだ。なんという罪作り。
「でも、二人でその辺をうろうろしていたら変だろう?」
「……まあ、そうでしょうね」
「では、案内を頼む。ぐるり一周はしてあるんだが……、外周から行こうか」
探検にでも出かけるようなどこか軽い雰囲気で、しかし蘇李秀が案内を乞うたのは、裏門の脇にある空井戸と、裏門の手前にある古い別館、蔵書庫の脇の物置などで、およそ長官が興味を持つべき場所ではなかった。しかし、府内の構造を誰よりも知る警備兵としては、いささか息を飲んだ。それらは地下通路でつながっていて、万が一の際の抜け道となる箇所なのだ。実際、他にも抜け道はあるはずだが、それらは景舜程度の者には明かされていない。
長官に隠し立ては無用だと、彼は言った。それに抗うことのできる立場ではない景舜は、それでもやや逡巡したが、責任者に許可を取ってあると言い加えられ、説明をすることになった。
「で、ですね、この空井戸が、あっちの倉庫の地下に続きます。城壁の外にも井戸があって、そこに繋げられています。鍵は要所ごとに取り付けられており、県丞と警備班長が管理します。最近利用されたという話は聞きませんが、何十年か前に西門から向こうが不審火で焼けたときに、解放されたそうです」
「なるほど、やはりそうなんだね」
「なぜ、ここが気になりましたか」
「うん。まあ、こういうのはどこの府にもあるのは知ってるから把握しておきたかったのと、その割に管理がね、雑だなと思って。この井戸、外に繋がってるわりに戸が痛んでる。そもそもこんなやわな扉では、内外共に不用心ではないかな」
「ですね。予算が下りないのだそうです。」
「警備にかける金がないとはどういうことだ」
「それ、俺に言われましても。うちの上官が何度か上申しているんですが……前任の長官が判をくれなかったのだそうで」
ただ淡々と事実を述べた景舜に、蘇李秀は「よく話してくれた」と機嫌を良くした。
「この後、今日中に君の上司にもう一度申書を作るように言うから、明日には判が下りるよ。これくらいの金ならどこからでも出てくるはずだ。出なけりゃ懐肥やしていそうな官に逆立ちさせてやる」
スパンと、竹でも切ったような爽快な物言いだった。
「……」
「どうした?」
「いや、なんかその……」
「なに、変かい?」
「いえ、ありがたいなと思いまして」
こういう仕事をするのか、この人は。それが正直な感想だった。容姿で人を判断してはならないとは十分にわかっていたつもりだったが、まだまだ自分は未熟だったようだ。昨日の天心と言い、今の予算と言い、淀みない采配がいっそ小気味よいほどだ。
前の長官は何にしても腰が重かった。それに比べ、この手際があらゆる公務に反映されるなら、たいした官吏である。
「まあ、こういうことをしに来ているつもりでいるからね。公金も必要ならば惜しまないさ。私が出すわけじゃないし」
「ごもっとも」
どうやら、自分の案内がこの人の役に立ったらしい。しかしそれ以上に、この長官がもしかすると期待する価値のある人間であるかもしれないとわかったことが妙に嬉しかった。
こんなふうにこの人が働くのを、もっと見てみたいと思った。
「わかった、じつに参考になったよ、ありがとう。で、だ。ここまで仕事の話しかしていないんだが?」
クイと顎を上げて、蘇李秀は言った。美しいと、どんな表情も様になる。
「そりゃ、そうでしょう」
「君、長官室においで。これから」
「なんでです」
即座に返した。この勢いに流されるのは危険な気がしたのだ。しかし、相手はそんなことではひるんでくれない。
「話したいと言ったろう。君の剣舞について、聞かせてほしい」
「……なんでです」
「興味がある。言っては悪いが、こんな辺鄙な県府の警備兵があの腕とは、納得がいってないんだ。誰に弟子入りした? 私も剣舞が好きなんだ。見るだけだがね」
なるほど、もともと好きなものを見て、余計に印象が上がったということか。と、のんびり納得している場合ではないらしい。今自分はとてつもなく不相応なことに誘われている。長官室? 自分などが招かれていい場所じゃない。
「え……っと、申書の件がまだ残っているのでは?」
「そんなの、次官に言えば動いてくれる。私の仕事は、明日朝一に判を押すだけ」
「……残務は」
「残業したところでさばける量じゃない」
「私には、是とお答えするしかないのでしょうか」
「だと嬉しいね。じつに」
強引。手際の良さは、そういう側面を持つという例であるらしい。
上官命令には逆らえない景舜の立場をご機嫌に利用しているわけだが、そこに威圧感が全くないのが不思議だ。おそらく、景舜が本当に拒否するならすっきりと引き下がるつもりなのだろう。それがわかって、景舜は敢えて「命に従う」という体裁を選ぶことにした。
正直、まんざらでは、ないのだ。
「いいです。はい。言うこと聞きます」
「ついておいで。長官室なんて入ったことないだろう? けっこう広くて快適だぞ」
「……そう、でしょうね」
もうどうにでもなれである。
長官を待っていた副官数名に、蘇李秀は手早く先程の件を伝え、執務室を出た。それが終われば部下たちも解散と命じてからだ。
執務室の奥に続いて長官室があって、主がそこでゆったり寝泊まりもできるくらいの設備は整っていると聞いている。なにか大きな問題を抱えてしまった時に、何日もここに詰めることもあるのだろう。当然、そんな場所に景舜が入ったことなど一度もなかった。警備すら、この中は管轄外となっている。
「本当は長官舎のほうに招きたかったんだがね、さすがに君が嫌がるだろうと思ってここにした。まあ、寛げと言っても無理かもしれないが、茶の一杯くらい付き合いなさい」
「……はあ」
この強引さの由来は何なのだろうと、贅沢に作られた部屋を眺め渡しながら景舜は思った。これまで持っていた高級官吏の印象は、まったくこういうのではなかったはずだ。
長官にしても、たまに乗り込んでくる監査員や何某かにしても、中央官吏といえば皆ツンとして取り付く島もないか、あるいはねちっこく腹黒さを絵に描いたような者たちばかりだった。さすがにこの人の容姿は特別であることを差し引いても、長官職に就きながら下々に気やすく話しかけ、簡単にこんな場所にまで招き入れるなど、普通はまずないだろう。
幾重にも度肝を抜かれて唖然としている景舜を放ったままで、蘇李秀が茶の準備をしはじめた。気づいて慌てて我に返る。
「そのようなこと、私が」
代わろうとして手を出したが、要らぬときっぱり拒まれた。
「まあ、させておきなさい。君に、高級な茶をうまく淹れられる自信があるなら任せるが、どうだい?」
「……するい仰り様ですね。私をどうなさりたいんです?」
「言っただろう、話を聞きたいんだ。さあそこに座って」
言われるがまま、一人で座るにはすこし余裕のありすぎるような椅子に腰かけると、卓の上に品のある茶器が並べられ、滑るように滑らかな作法で芳しい香りの立つ茶が用意された。県令より先に席に着き、茶など入れさせているなんて、自分でも驚きである。誰かが見ていれば即座に引っ立てられて、不敬罪決定だ。
やがて向かいの席に落ち着いた蘇李秀は、この状況を楽しんでいるようなご機嫌な顔で、改めて景舜を見る。少し見つめられただけで、慣れぬこちらはちょっとした冷や汗ものだ。なにせ、良すぎる顔が小ぶりの卓をはさんですぐ向こうにあるのだ。近い。
部屋にはこの応接用の卓の他には、執務用の大きな机、そこに積まれた紙類や木簡と書類箱。隣に書棚、反対側に飾り棚と衝立があり、衝立の向こうの部屋には恐らく寝台などがあるのだろう。景舜の使う部屋が、ここには十以上すっぽりと入ってしまう広さだ。しかし、その空間に違和感なく溶け込んでいる蘇李秀。幼きからそのような環境で育ってきたから、馴染むのだろう。ここでは景舜だけが場違いだ。
自分の入れた茶の出来を確かめるように一口含む、所作につい見惚れてしまう。一度伏せた目元にまつ毛がすっと影を作り、肌の白さを引き立たせた。杯に触れる唇の艶は、紅では出せない品があった。
景舜と同じ男なのに、何がここまで違うのか、不思議なほどだ。だからと言って、決して女らしいとかではなくて、例えるならば性別では振り分けることのできない美しさなのだ。どうにも不思議な存在である。
それが、そっと杯を置き、景舜に視線を合わせた。
「君の剣舞についてはまだ賞賛し足りないんだが、これも嫌がりそうだから、質問にしようと思う。差し障りなければ教えてほしい。誰に従事した?」
なかなか巧みな切り出しである。さすが、相応しい立場に着く者といったところだろうか。
緊張はするので、景舜も茶を一口含んだ。確かに香りから美味い。
「黄雀(ファンチュエ)っていう名の爺さんですね。俺がここに勤める前にたまたま知り合って、教えてもらいました。強引に一年くらい仕込まれたかな。あとは俺の勝手な趣味として、ってところです」
「黄雀殿? まさか! こんなところに身を隠しておられたのか」
カタリと杯を置き、蘇李秀は身を乗り出した。顔がもっと近くなるので遠慮賜りたいが、相手はそんな景舜の戸惑いには関与しない。
「ご存じで?」
「ああ。若い頃は将軍を務めていた方で、現役を引退してからは若い者に武芸を教えておられた。機会あって、彼が剣舞の達人であることを知って、一度だけ見る機会に恵まれたのだが、それはそれは老成した見事な舞で、私はそれから剣舞が好きなんだ。ある日突然都から姿を消したので、一時期心配されていたんだが、一人娘のところに身を寄せたのだろうとか言われていたな。その後彼を見た者はないんだ。まさかあの黄殿が弟子をとっていたとは」
熱っぽく語る蘇李秀の言葉には、説得力があった。短い間ではあったが師弟として関わったわりに、黄雀爺本人については実はほとんど知らないままだった。そんな肩書を持っていたのなら、かえって明かしたくはなかったのだろうと思う。
「弟子ってほどでもないと思いますけど」
「彼は直弟子を取らないことでも有名だったんだ。それに教わったのだから、特別な存在なんだぞ、君は」
「あの黄爺がそんな偉い人だったなんて。全然知りませんでしたよ」
ただ者でないくらいは気配で感じることがあった。しかし、そんな仰々しい経歴の持ち主であるわりに気さくで、肩肘張らない人だった。ガハハと歯を見せる豪快な笑い方は好感が持てた。厳しいが人のいい爺さんだった。
剣の鍛錬をしている景舜にいきなり声をかけてきて、自分の剣舞を見せたと思ったら、それを教えたいなどと言い出した。変な爺だが剣舞は見事で、やってみてもいいと思ったのだ。思えばかなり強引で、貴人だというのに壁を感じさせないところは少しだけこの蘇李秀と通じるものがある。
「うん。私にその筋の才能があればなんとしてでも弟子入りしたかったが、君は見込まれたんだな」
「どうでしょうね。あの爺さんのことだから、気まぐれとかかもしれませんよ」
「はは。そういうところもある方だが、それだけでもあるまいよ。君はたぶん彼の唯一の弟子だ。誇りに思っていい」
「そう、っすかね」
と言いながら、やはり悪い気分ではなかった。自分が何かを誇れるとしたら武芸よりもむしろこれで、その誇りをこのような人に見いだされ評価を得たのだ。都に出てもそこそこ通用するのだろうという自信が持てた。
「君だって、あの腕ならこんな役所務めをやめて弟子を取っても食っていけるだろうね」
「よしてくださいよ。そういうのは、向いてないです。たまに酒席の余興で舞くらいでいいです」
「謙虚なことだな。なれば私はずいぶんと運がよかったようだ。そんな貴重なものを見ることができたんだからね」
「ほめ過ぎです」
だが、それはこの人の本心からの言葉であることは十分にわかっていた。昨日も、目を輝かせて自分の舞を見てくれていた。今もそうだ。例えばそれが何かを意図しての演技だと仮定してみても、景舜をおだててこの人が得をすることはない。やはり自然な賞賛だと受け取ってもいいのだろう。
「……それで念のため聞くが、今、黄殿は?」
一呼吸の後、伺うような慎重な問いに、景舜は少し苦笑を見せた。
「残念ながら、去年に」
この返答は、少なからず彼を落胆させたようだった。しかし、知っているものを伝えないわけにもいかなかった。
「そんな気がしたよ。彼が最後に君にあの技を授けてくれてよかった。君がこの先気まぐれを起こして弟子でも取ってくれれば、彼の技も途絶えずにいられるだろうしね」
「辞めさせたいんですか、役所。あなたならできますけどね、俺一人辞めさせるくらい」
「いや、そこまで人でなしにしないでくれ給えよ。冗談だ。君に繋がっただけでもありがたいと思う。願わくは、私の任期中にあと三回は拝ませてほしい」
それが、彼にとっての弔いになるのだと、少し寂し気になった表情が語っていた。こちらまでしんみりしてしまい、黄翁の死を知り墓前で泣いた日のことがじわりと思い出された。
「……命令、ですか」
「いいや。期待と、願い。それ以上じゃない」
「……」
こういう人か。強引ではあるが、引き際をちゃんとわきまえている。だから、彼の申し出には承諾を返した。
「あまり派手に人を呼ぶとかでなければですよ?」
「いいよ。もっと人に見せたい気もするが、独り占めしたい気もするしね」
「なんですか、それ」
「なんだろうね」
ははっと笑い、この人にしては少し歯切れの悪い言葉で、その話はお終いとなった。
「よくわかったよ。付き合ってくれてありがとう。また、話し相手になってくれるか」
「え……俺があなたの話し相手? ないでしょそれは」
「そうかなあ。別に、悪い話でもないと思うけど」
「嫌ですよ、俺、あなたの小姓か何かにされたのかとか噂されるのは」
「……はは。なるほどね」
そこで、蘇李秀の苦笑がややひきつった。それを見て、景舜は失敗したと咄嗟に察した。そういう扱いには慣れているだろうと思っていたが、慣れるのと嫌わないのとは別物なのだ。つい、砕けた空気に乗じて口を滑らせたようだ。
「も、申し訳ありませんでした! 失言でした! どうかお咎めを」
すっくと席を立ち、彼の前で深く頭を下げた。なんなら膝も折るべきだったかもしれないが、貴人相手の行動に慣れていない景舜に、とっさにその判断はできかねた。
「馬鹿なことを言うのはよしなさい。別に怒ってやしないから」
「ですが、今のは不敬にあたります」
「まあまあ、顔を上げて。いいよ、ちょっと余計な一言ではあったが、それだけだ。別に、慣れてもいるしね。この顔がいけないね」
「いけないなど!」
「焦らなくてもいい。頼むからそんなに引かないでくれ。この顔は変えられないのでそこは許してほしいんだ。ほかには珍しいことのないただの役人だよ」
「そんなことはありません。昨日の天心も、今日の案内についても、見事な采配で……、正直、驚いています。あなたがあまりに……」
「なに? 誉め言葉?」
急にまた機嫌を直して、蘇李秀は前のめりだ。どこかはしゃいでいるようにも見える。
「……はい」
この人は真心があり有能で、できすぎた人物だと思うのだ。仮に蘇李秀が人並みの容姿であっても、長官として敬うに十分値する人物だと思う。
「うまく言えなくて、すみません。ですが、あなたにならついていきたいと思います。立場的に、遠すぎてそれも難しいですけど」
少しだけ、声がしぼむ。もっと自分が上の立場であったならば、この人の手足となり共に働くことができるのにと。
「いいよ。ありがたい言葉だ。心はいただいておこう。それに、まだ着任二日目であまり褒められてはね」
「どうしてです?」
「私の本領発揮はこれからってことだ。私の腕前がこの程度と思ってもらっては困るんだよ」
「……」
まだ、本気を出していないということだ。当たり前なのかもしれなかったが、この先どんな手腕を見せようというのだろう。遠巻きに見ているしかない景舜にとっても、怖いほど楽しみだ。
そして今見せた勝気なほど自信に満ちた彼の表情は、その造形如何を度外視しても、美しかった。
「頼もしいです」
「そうかい? 嬉しいね。期待に沿えるよう努めるよ。だから、あまり遠巻きにしないでくれ」
「……はい」
「黄翁の縁だ。気楽に接してほしい。あの方も、身分や立場に拘らない人だったろう」
「と言ってもですね……」
「君はここでの数少ない友となる気がする。君さえ嫌でなければね」
なんと、これである。まったく、どう答えよというのだ。
雲の上の身分でありながら、目線を合わせよと言ってくる。理由やきっかけは何であれ、つまり単純に気に入ってくれたということなのだろうけれども。
それが、景舜の立場が低いゆえの気楽さによるものであることが明らかでも、どうでもいいと思う。むしろ、この一風変わった長官と、他の官吏とは違う視点を持って関われることには、引け目よりもずっと好奇心が勝った。
景沐辰、お前も男なら、これに応える度胸くらい持て。と、そう自分を奮い立たせた。
「もったいないお言葉です。……私は田舎の無作法者で、高貴な方への配慮をしばし忘れ、うっかり慣れ合ってしまうやもしれません。それでも罰せずとしていただけるのでしたら、そのお心、ありがたく頂戴いたします」
景舜はそう言って、目の前の高官に、礼を取った。
そして顔を上げ、ニッカと笑う。
ここであなたの友になるなどとは到底言える立場ではない。しかし、俺もあなたを気に入った。あなたが俺を近く置きたいと言うのならば、その心を無下にはしたくない。あなたの手の届かない場所は自分が手を貸そう。それであなたが何かを成せるならいくらでも力になろう。そんなつもりだった。
「あははは! いいね、君、謙虚に過ぎると思いきや、なかなかの機転だ! この顔は多少煩わしいだろうが、よろしく頼むよ」
その言い方に、景舜は遠慮なく笑いを零した。人々が天の造形とも称する自分の美貌を、煩わしいが許せという、その感覚が可笑しかった。武器にするでなく、しかし悲観するでなくそんな風に扱う度量なのだ。
「まあ、人目のある所では節度は必要だ。それは互いに異論ないだろうね? 景舜?」
「もちろんです。俺は剣舞で身を立てるつもりはないんで。……名前調べたんですか」
「まあね。君の上司に少しだけ君のことを聞いた」
「たいしたことなかったでしょ」
「そのしがらみのなさに、私はつけ入りたい」
「もう、勝手にしてください。仕事の邪魔にならなければいいです」
「気を付けるよ」
「ええ、重々に」
こんな顔で、口を開けて笑う麗人に、やはり景舜も遠慮なく笑った。堅苦しくされるのなら御免だが、こうして公然と特別である人がそれを感じさせない笑顔を見せてくれるのは、気分がいい。
「おや、そんなに見つめてどうした? 実は君もこの顔が好きか?」
冗談めかして問われた言葉で、笑いが途切れた。これには少し慎重であらねばならぬ気がして、即答はできなかった。
……好きかどうかじゃない。見惚れてしまうほどに、美しいだけだ。しかし、それはここで言ってはいけないのだということは察した。確かに好ましいと感じる心があるゆえに。
「美しいからなあ」
「自分で言わんでいいです」
その反応も可笑しかったらしく、蘇李秀はまた笑った。そして。
「取り柄のひとつだとは思っているからね。だが、それ以上の欠点でもある。わかるだろう?」
「褒められるのは、好きじゃないんですか」
「正直、そっとしておいてほしいね。誰も、他人の顔の黒子についていちいち反応しないだろ、それと同じに思ってほしい」
「無茶ですねそれ」
「だからさ、これに寄って来る人間は、あまり信用してないんだ」
「……」
都で問題。その噂が脳によぎった。
恐らくそのせいで、ここに左遷された。原因は美貌で、何かを損なってしまい……、それだけでもないのだろうが、容姿を愛でられることにある程度抵抗もあり、そういった粘着質な人間関係も避けたいのだろう。
「言い忘れてたけど、文、受け取ったよ」
「え、ああ、そうでした」
「喜んでくれたようでなにより」
「ありがたかったですから。美味かったし」
「うん。私の我儘を聞いてくれた、礼だ」
「べつにいいって言いませんでした?」
「でもしたかった。受け取ってくれた。それでよくないか?」
「そういうことにしましょうか」
話はそこで一区切り。あまり長居するわけにはいかず、景舜は長官室を辞することにした。思いの外楽しい時間を過ごせた。ほっとしたようで、まだどこかむず痒い思いだ。
見送りを断った景舜の背に、蘇李秀が言った。
「次に君を招くのは、ここか長官舎か、どっちがいいかな。考えておいてくれないか」
「やー、それってほとんど変わらないんじゃ?」
つい答えたが、あくまでもそれは景舜にとっての話であって、職場の延長である長官室と、私邸に近い官舎とでは蘇李秀の意識は大きく違うのだろう。
「どちらでもいいということか」
「いや、だから……」
入りづらさと場違い感において、両方に大差はない、というのが景舜の言い分。
「わかっている。君の負担にはなりたくないからなあ。外で会う?」
「……もっと変でしょ」
「だろうね。まあ、いいか。その時考えるよ」
それじゃあねと、戸口で蘇李秀が手を振った。それに振り返す景舜を、しかし彼は一度引き留めた。
「言っておかねばな」
二人しかいない廊下で、蘇汎はそっと景舜に身を寄せ、耳に小さく囁いた。
「名は、汎(ハン)」
「……!」
参った。県令を名で呼べというのか。
しかし、名乗られて突き返すわけにはいかない。景舜は「承知しました」とだけ返し、蘇李秀と目を合わせることができないまま、その場を去る。
これでしばらく頭を抱えることになりそうだと、景舜は本気で思った。やたらと胸が熱かった。
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