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幽世
後篇
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美代子、透を抱きしめ、泣いている。
美代子、涙を袖で拭う。
「よし、ここを出よう。そのためには透の想いが必要なんだ」
「想い? 」
「そう」
「どうすればいいの? 」
「お父さんのことを想い、念じれば、道が開かれるわ。そうすれば、ここから出れるから」
「念じる?」
美代子は胸の前で両手を握り、目を瞑る。
「こうして、お父さんのことを念じればいい。やってみて」
透、美代子の真似をして、両手を握り、目をぎゅっと瞑る。
「そう、念じてみて」
透は必死に念じている。辺りの木々の枝が風で揺らぎ、木の陰に隠れる人ならざるもの達がざわつき始める。
木の奥の暗闇から木漏れ日のように微かな光が透に届く。
「そうもっと、もっと念じてみて」と美代子が力を入れて語りかける。
瞼が潰れるがごとく強く瞑り、更にぎゅっと手を握る。
段々と透に照らす光が強くなっていき、光の奥で扉が開く。
美代子が喜び、透を抱きしめる。透が驚き、扉の向こうを交互に見つめる。
「お父さんと通じたんだよ……」
「お父さん……」
美代子の腕を優しく振りほどき、美代子に向き直す。美代子、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
透、美代子の手を握り、涙を一粒頬を撫でる。
「お母さん、ぼく強くなるよ」
「……あぁ」
透、光の方へ振り返り、一歩前へ出ようとしたら、足が震えて、止まる。
美代子は透の背を優しく、ポンと押す。透は一瞬振り返り、笑顔見せて、歩きだす。一歩一歩と。
美代子、涙を流しながら、手を振り続ける。
透は前を向いて、歩き続ける。唇を噛み、涙を一粒一粒溢れる。
透は光の中に包まれ、扉の外へ一歩足を踏み入れる。
寺尾と洋一はお経を唱え、念じている。
ところが突然、開いた扉の奥から眩いほどの光が漏れ出してくる。
「こ、この光は……」
洋一は驚きのあまり、お経を唱えるのを辞め、ゆっくりお堂に歩み寄る。
「この光、向こうと繋がったか!? 」
寺尾も驚き、光の先を見つめる。
すると、光の中から透が飛び出してくる。そして、お堂の前で、転びそうで危なげなく着地した。
洋一が透に驚きの顔を浮かべながら、ゆっくり近づいていくる。
「透、透なのか? 」
透が洋一に気づき、涙を拭く。間髪入れずに、洋一に駆け寄り、抱きつく。
「お父さん、お父さん」
洋一が透を引き剥がし、透の前に片膝をついて、両手で腕をガシッと透の腕を掴む。何度も透の身体を確かめるように触れた。
「本当に透なのか? 」
「そうだよ、お父さん」
「でも、この姿……」
「姿? 」
「十年前と変わっていないじゃないか」
美代子、涙を袖で拭う。
「よし、ここを出よう。そのためには透の想いが必要なんだ」
「想い? 」
「そう」
「どうすればいいの? 」
「お父さんのことを想い、念じれば、道が開かれるわ。そうすれば、ここから出れるから」
「念じる?」
美代子は胸の前で両手を握り、目を瞑る。
「こうして、お父さんのことを念じればいい。やってみて」
透、美代子の真似をして、両手を握り、目をぎゅっと瞑る。
「そう、念じてみて」
透は必死に念じている。辺りの木々の枝が風で揺らぎ、木の陰に隠れる人ならざるもの達がざわつき始める。
木の奥の暗闇から木漏れ日のように微かな光が透に届く。
「そうもっと、もっと念じてみて」と美代子が力を入れて語りかける。
瞼が潰れるがごとく強く瞑り、更にぎゅっと手を握る。
段々と透に照らす光が強くなっていき、光の奥で扉が開く。
美代子が喜び、透を抱きしめる。透が驚き、扉の向こうを交互に見つめる。
「お父さんと通じたんだよ……」
「お父さん……」
美代子の腕を優しく振りほどき、美代子に向き直す。美代子、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
透、美代子の手を握り、涙を一粒頬を撫でる。
「お母さん、ぼく強くなるよ」
「……あぁ」
透、光の方へ振り返り、一歩前へ出ようとしたら、足が震えて、止まる。
美代子は透の背を優しく、ポンと押す。透は一瞬振り返り、笑顔見せて、歩きだす。一歩一歩と。
美代子、涙を流しながら、手を振り続ける。
透は前を向いて、歩き続ける。唇を噛み、涙を一粒一粒溢れる。
透は光の中に包まれ、扉の外へ一歩足を踏み入れる。
寺尾と洋一はお経を唱え、念じている。
ところが突然、開いた扉の奥から眩いほどの光が漏れ出してくる。
「こ、この光は……」
洋一は驚きのあまり、お経を唱えるのを辞め、ゆっくりお堂に歩み寄る。
「この光、向こうと繋がったか!? 」
寺尾も驚き、光の先を見つめる。
すると、光の中から透が飛び出してくる。そして、お堂の前で、転びそうで危なげなく着地した。
洋一が透に驚きの顔を浮かべながら、ゆっくり近づいていくる。
「透、透なのか? 」
透が洋一に気づき、涙を拭く。間髪入れずに、洋一に駆け寄り、抱きつく。
「お父さん、お父さん」
洋一が透を引き剥がし、透の前に片膝をついて、両手で腕をガシッと透の腕を掴む。何度も透の身体を確かめるように触れた。
「本当に透なのか? 」
「そうだよ、お父さん」
「でも、この姿……」
「姿? 」
「十年前と変わっていないじゃないか」
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