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8話 『未踏の地』~Unexplored land~
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--監獄を抜け辿り着いた先は、四方を広大な山々に囲まれた山岳地帯だった。
見上げれば、霧で隠された赤い満月が徐々に姿を見せ始め、それは絶景へと変貌を遂げる。
秘境と言っても過言ではないこの天然要塞は、アジトとして使用するには申し分無いと言えるだろう。
アラタはキョロキョロと辺りを見渡す、警戒しながらエンミティの後を追っていると遠目に女性の姿を確認した。
「ようこそ教団へ!エンミティ様も長旅大変お疲れ様でした!」
「--今戻った、私は先に行く、自己紹介でも済ませるがよい」
そう言い残し、エンミティは1人先へと進むのであった。
健やかな笑みを浮かべるその女性は、小柄ではあるが整ったスタイルと青い瞳が一段と印象的である。
教団の衣装なのだろうか、胸に銀の二枚羽根が施されたロングコートを纏っていた。
ブラウンのセミロングから見えているのは、同じく羽根を象ったピアス……
「それってもしかして神判の羽根?」
目を凝らして確認すると紛れもない本物だという事にアラタは気づき、この女性も自分と同じ求道者であると認識するのだった。
「正解です!大切な物なので私はこの通りピアスにしちゃいました、似合ってますか?」
さっと髪をかきあげる、ごく自然な仕草ではあったが一瞬心を奪われるように我を忘れてしまったようだ。
「--あ……ああ、似合ってる、女の子らしくて良いと思う」
アラタのぎこちなさが面白かったのか、口元に手を当てクスクスと笑いながら自己紹介を始めたのだった。
「私の名前はマシロ・フローレンス、マシロと呼んでください!あなたと同じ求道者ですよ」
--『マシロ・フローレンス』
9番目の求道者として教団に招かれたが、アラタ同様にまだ日が浅いらしい。
神判の羽根に刻まれたローマ数字がそれを表すと言っている。
ちなみにアラタの刻印はⅩⅡである。
「私の適合者はイワン・パブロフ 能力は誓約の選択者です」
--『イワン・パブロフ』
条件反射研究の創始者と呼ばれる生理学者である。
彼の実験結果から得た条件反射と言うのは
『ある特定の刺激に対して特定の反応をする』よう条件付けられる事、これが一般的な解釈だろう。
マシロの能力に置き換えると『一度条件付けた誓約に関し、対象者は同じ反応を繰り返す』という仕組みだそうだ。
欠点を言うと、対象が1体に限定される事と発動の際に自身の感覚の一つを停止させる事が条件だとマシロは言う。
「私についてはこんな所です、次はアナタの事を教えて下さい!」
「俺はアラタ、適合者は巌窟王で能力は断罪する撃鉄っていう銃が使えて、あとは……」
説明下手はアラタをダメ出しするかのように、この男が再び登場したのだ。
(……僕の説明が少なくないかい?ほら、銃と剣の扱いも超一流で、強くて、美形で、頭もキレて、女性の扱いも得意だろ?何なら巌窟王モードで代わってあげてもいいよ)
アラタはうつむき、頭を押さえながら肩を落とす。ダンテスと交代なんてしたら何をやらかすか分からないので、キッパリとお断りをしたようだ。
「ほら、俺達って適合者と常に同調の状態にあるだろ?やっぱマシロも頭の中に声が届くのか?」
アラタが身体的な変化として特に違和感を覚えるのが、常に意識を共有している状況なので、マシロはどう思っているのかが気になって仕方なかったのだ。
「同調の種類は人によって異なるものなんですよ!」
とマシロは言う。
--同調のタイプとは、
大きく分けて3種類存在するのだ。
まず一つが『自我タイプ』攻撃を主体とする求道者に依存し、その存在を主張する。
巌窟王はこれに属する。
二つ目に『守護タイプ』主に補助系の能力を有する求道者に依存、別個体に寄生して本体を守護する。
最後に『特異タイプ』遠隔操作系の求道者に現れる。物体として顕現し意のままに操れるという。
「アラタさんは自我タイプなんですね、私は守護なので、いつもこの子と一緒にいます!」
--おいで!パブロフ
マシロの呼び声に応えるよう姿を現したのが、小型犬ではあるが筋肉質な体型のフレンチブルドッグだ。
表情は……さておき、明るく気立ての良い感じでマシロにとても良く懐いている。
「パブロフは鼻が利くので、悪魔の存在を感知できる優秀な子です!」
「なるほどね、パブロフの犬……ね」
パブロフはマシロの腕から飛び降り、少し先へと進んでから振り返り小さな尻尾を軽快に動かしている、まるで早く来いと言わんばかりに。
「さぁ今日はもう遅いですから中へ入りましょう!」
こうしてアラタは教団へと招かれるのであった。
見上げれば、霧で隠された赤い満月が徐々に姿を見せ始め、それは絶景へと変貌を遂げる。
秘境と言っても過言ではないこの天然要塞は、アジトとして使用するには申し分無いと言えるだろう。
アラタはキョロキョロと辺りを見渡す、警戒しながらエンミティの後を追っていると遠目に女性の姿を確認した。
「ようこそ教団へ!エンミティ様も長旅大変お疲れ様でした!」
「--今戻った、私は先に行く、自己紹介でも済ませるがよい」
そう言い残し、エンミティは1人先へと進むのであった。
健やかな笑みを浮かべるその女性は、小柄ではあるが整ったスタイルと青い瞳が一段と印象的である。
教団の衣装なのだろうか、胸に銀の二枚羽根が施されたロングコートを纏っていた。
ブラウンのセミロングから見えているのは、同じく羽根を象ったピアス……
「それってもしかして神判の羽根?」
目を凝らして確認すると紛れもない本物だという事にアラタは気づき、この女性も自分と同じ求道者であると認識するのだった。
「正解です!大切な物なので私はこの通りピアスにしちゃいました、似合ってますか?」
さっと髪をかきあげる、ごく自然な仕草ではあったが一瞬心を奪われるように我を忘れてしまったようだ。
「--あ……ああ、似合ってる、女の子らしくて良いと思う」
アラタのぎこちなさが面白かったのか、口元に手を当てクスクスと笑いながら自己紹介を始めたのだった。
「私の名前はマシロ・フローレンス、マシロと呼んでください!あなたと同じ求道者ですよ」
--『マシロ・フローレンス』
9番目の求道者として教団に招かれたが、アラタ同様にまだ日が浅いらしい。
神判の羽根に刻まれたローマ数字がそれを表すと言っている。
ちなみにアラタの刻印はⅩⅡである。
「私の適合者はイワン・パブロフ 能力は誓約の選択者です」
--『イワン・パブロフ』
条件反射研究の創始者と呼ばれる生理学者である。
彼の実験結果から得た条件反射と言うのは
『ある特定の刺激に対して特定の反応をする』よう条件付けられる事、これが一般的な解釈だろう。
マシロの能力に置き換えると『一度条件付けた誓約に関し、対象者は同じ反応を繰り返す』という仕組みだそうだ。
欠点を言うと、対象が1体に限定される事と発動の際に自身の感覚の一つを停止させる事が条件だとマシロは言う。
「私についてはこんな所です、次はアナタの事を教えて下さい!」
「俺はアラタ、適合者は巌窟王で能力は断罪する撃鉄っていう銃が使えて、あとは……」
説明下手はアラタをダメ出しするかのように、この男が再び登場したのだ。
(……僕の説明が少なくないかい?ほら、銃と剣の扱いも超一流で、強くて、美形で、頭もキレて、女性の扱いも得意だろ?何なら巌窟王モードで代わってあげてもいいよ)
アラタはうつむき、頭を押さえながら肩を落とす。ダンテスと交代なんてしたら何をやらかすか分からないので、キッパリとお断りをしたようだ。
「ほら、俺達って適合者と常に同調の状態にあるだろ?やっぱマシロも頭の中に声が届くのか?」
アラタが身体的な変化として特に違和感を覚えるのが、常に意識を共有している状況なので、マシロはどう思っているのかが気になって仕方なかったのだ。
「同調の種類は人によって異なるものなんですよ!」
とマシロは言う。
--同調のタイプとは、
大きく分けて3種類存在するのだ。
まず一つが『自我タイプ』攻撃を主体とする求道者に依存し、その存在を主張する。
巌窟王はこれに属する。
二つ目に『守護タイプ』主に補助系の能力を有する求道者に依存、別個体に寄生して本体を守護する。
最後に『特異タイプ』遠隔操作系の求道者に現れる。物体として顕現し意のままに操れるという。
「アラタさんは自我タイプなんですね、私は守護なので、いつもこの子と一緒にいます!」
--おいで!パブロフ
マシロの呼び声に応えるよう姿を現したのが、小型犬ではあるが筋肉質な体型のフレンチブルドッグだ。
表情は……さておき、明るく気立ての良い感じでマシロにとても良く懐いている。
「パブロフは鼻が利くので、悪魔の存在を感知できる優秀な子です!」
「なるほどね、パブロフの犬……ね」
パブロフはマシロの腕から飛び降り、少し先へと進んでから振り返り小さな尻尾を軽快に動かしている、まるで早く来いと言わんばかりに。
「さぁ今日はもう遅いですから中へ入りましょう!」
こうしてアラタは教団へと招かれるのであった。
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