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7話 『転移』~Metastasis~
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--時は王国暦223年
『王国』の圧政に苦しみ、罪のない多くの弱者が虐げられていた。腐敗統治を根底から覆すべく立ち上がった『国民』との内戦が長く続いた時代。
惨劇の発端は王国北部に属する最果ての地「クィントゥス領」の小さな村で起こったのだ。
生き地獄の中、多くの血が流れ朽ちていくのを止める術がなかった……
真の平等と失われた正義を求める人々は一人の求道者の出現により再び立ち上がろうと決意を新たにしていた。
「--無限と紛う永劫の中、幾千幾万の人間を見てきた……力なき正義など正義ではない、選ばれたこの力、必ず皆の為に役立てよう」
求道者は人々に対し『正義』を説いた、失われた家族や仲間達に報いる為には何をすべきかという事を。
そして人々も求めていた、踏みにじられた誇りの対価『真の平等』を胸に--
幾つかの時を重ね、人々は王国への反乱勢力として『教団』を設立。来る王国との衝突に備え戦力の確保に尽力していた頃、確実に忍び寄る戦争の足音が、繰り返される惨劇の始まりを告げるのであった……
「た……大変だ、もうすぐ王国の軍勢が攻めてくるぞ」
王国中心部ガリアとクィントゥスの国境付近で任務に就いていた斥候隊員が息を切らしながら帰ってきた。
報せを聞き、団長「ヤシム」が教会の物見から望遠鏡で覗くと僅かではあるが、遠くの方で土煙が上がっているのを目の当たりにし確信へと変わった。
「全員落ち着いて行動するんだ、まずは女、子供を避難させろ」
ヤシムは、若い青年ながら村人からの信頼も厚く責任感も強い所からその手腕を買われ団長としての任に就いていた。
エンミティ不在の事態と未だ拭いきれない惨劇の記憶が交錯し、恐怖心に浮き足立つ村人達を何とか勇めようと必死に誘導するのだった。
「うろたえるな!戦闘になるとは限らない、俺が直接話しを聞いてくる」
そう言って、地下の貯蔵庫に身を隠し何があっても出て来ないようにと念を押した。
「他は丸腰のまま中央で待機だ、争う意思がない事と俺達しかいないよう見せかけるんだ決して悟られるなよ!」
--言葉は必要なかった……
互いに目を合わせ無言で頷く、各々に課せられた使命を理解しているに違いないのだから。
--守るべき者の為に。
ヤシムは大地を埋め尽くす騎兵の大軍に包囲された、その数ゆうに千は下らないだろう。大軍はすぐさま左右に分隊し、中央から『赤い武具』で身を固めた騎士がゆっくりと距離を詰めてきた。
--1人で来るとは平民にしては勇気があるな、俺は『真紅公』ゼパル お前の名は?
「私はヤシムと申します。この村の代表です。これは一体何の騒ぎですか?」
--そうか、魔力 『降り注ぐ赤い雨』
ゼパルは右手に構えていた重厚なハルバートを振り下ろすと、真空の刃がヤシムの左腕を捉えた。
--ドサッ
後方で聞こえた鈍い音に視線を移すと同時に、おびただしい鮮血の粒がヤシムの横顔を染めた。
--裏切り者の同胞『オロバス』を出せ、次は首と胴が離ればなれになるぞ。
激痛に顔を歪め崩れ落ちるヤシムを助けようと村人の1人が駆け寄ろうとした時、再び真空の刃が村人を襲った。
「やめろ……村の者に手を出すな!それにオロバスとは誰の事だ?」
--何も聞かされていないようだな、お前達の統率者は元王国72柱が1柱、貴様ら平民と手を組んだ所で一体何が出来るというのか理解に苦しむ。
ヤシムは言葉を失った……初めて明かされた真実に戸惑い、保身の為に自分達を売ったのかという猜疑心さえ持つ程に……
--オロバスへの置き土産だ、村を蹂躙せよ!一匹足りとも生かしてはおかぬ。
ゼパルの掛け声と共に、歩兵の大軍が村を飲み込んでいく……
ゼパルは両手を掲げ歓喜の表情を浮かべていた……
むせ返るような血の臭い、人々の断末魔の叫びにかき消され、ヤシムの必死の願いは届く事はなく、薄れゆく意識の中でエンミティの言葉が走馬灯のように蘇った。
--『力なき正義など正義ではない』
--惨劇から一夜明け、村を目指し早馬を飛ばす4人の姿があった。
「--胸騒ぎがする……何か良からぬ事が起こったのかもしれん、皆急ぐぞ」
エンミティの直感は現実のものとなり最悪の光景が眼前へと映し出されたのだ。
「エンミティ様、あそこに誰か倒れています!」
「--お前達は村の様子を探ってくるのだ、まだ敵が潜んでいるかもしれん油断するなよ」
従者達はエンミティの指示に従い村へと馬を走らせる。1人その場に残ったエンミティは馬を降り無言のまま、その者を両の腕で抱えるのであった……
「--ヤシム……すまない」
エンミティは身体を震わせながら辺りを見渡し呆然と立ち尽くす。偵察を終えた従者達も状況を伝えようと合流した。
「酷い有り様ですね……残念ながら生存者は1人も残っていません、その者は?」
「--この者はヤシム、そなた達と同じく私の教え子だった」
エンミティは従者達にヤシムについて詳しく述べた後、能力『魂の伝承』を発動させ肉体を12枚の羽根へと変化させたのだった。
「--この12枚の羽根はヤシムの魂を具現化させたもの、我らは求道者を集めヤシムの想いを繋ぎ王国を打倒する」
--我らが悲願必ずや成就させるのだ。
「んっ?どうしたんだ何か問題でもあったのか?」
アラタは壁に手を当て微動だにしないエンミティを心配して声を掛けた。ふと我に返った様子は伺えたのだが、また壁を見つめ何か考え事をしているかのようだった。
「--心配ない少し昔の事を思い出していただけだ」
(……長く生きてると色々あるんだろうね、哀愁って言うんだろこういうの?)
ダンテスの横やりに思わず苦笑するアラタを後目に聞こえているぞと言わんばかりにこちらを向いている。
「--ぬかせ……これより先は悪魔の巣窟、人の理など皆無の世界。一歩足を踏み入れれば、干渉を断ち切らぬ限り戻る事は決して叶わぬ」
手を当てた壁面に黒点が現れ次第に大きさを増していく、エンミティは異世界とを繋ぐゲートだと簡潔に説明してくれたのだ。
「今さら脅すのはナシだろ、とっくに覚悟は出来てるし」
--では参るぞ、堕天の大陸『王国ガリア』へ
『王国』の圧政に苦しみ、罪のない多くの弱者が虐げられていた。腐敗統治を根底から覆すべく立ち上がった『国民』との内戦が長く続いた時代。
惨劇の発端は王国北部に属する最果ての地「クィントゥス領」の小さな村で起こったのだ。
生き地獄の中、多くの血が流れ朽ちていくのを止める術がなかった……
真の平等と失われた正義を求める人々は一人の求道者の出現により再び立ち上がろうと決意を新たにしていた。
「--無限と紛う永劫の中、幾千幾万の人間を見てきた……力なき正義など正義ではない、選ばれたこの力、必ず皆の為に役立てよう」
求道者は人々に対し『正義』を説いた、失われた家族や仲間達に報いる為には何をすべきかという事を。
そして人々も求めていた、踏みにじられた誇りの対価『真の平等』を胸に--
幾つかの時を重ね、人々は王国への反乱勢力として『教団』を設立。来る王国との衝突に備え戦力の確保に尽力していた頃、確実に忍び寄る戦争の足音が、繰り返される惨劇の始まりを告げるのであった……
「た……大変だ、もうすぐ王国の軍勢が攻めてくるぞ」
王国中心部ガリアとクィントゥスの国境付近で任務に就いていた斥候隊員が息を切らしながら帰ってきた。
報せを聞き、団長「ヤシム」が教会の物見から望遠鏡で覗くと僅かではあるが、遠くの方で土煙が上がっているのを目の当たりにし確信へと変わった。
「全員落ち着いて行動するんだ、まずは女、子供を避難させろ」
ヤシムは、若い青年ながら村人からの信頼も厚く責任感も強い所からその手腕を買われ団長としての任に就いていた。
エンミティ不在の事態と未だ拭いきれない惨劇の記憶が交錯し、恐怖心に浮き足立つ村人達を何とか勇めようと必死に誘導するのだった。
「うろたえるな!戦闘になるとは限らない、俺が直接話しを聞いてくる」
そう言って、地下の貯蔵庫に身を隠し何があっても出て来ないようにと念を押した。
「他は丸腰のまま中央で待機だ、争う意思がない事と俺達しかいないよう見せかけるんだ決して悟られるなよ!」
--言葉は必要なかった……
互いに目を合わせ無言で頷く、各々に課せられた使命を理解しているに違いないのだから。
--守るべき者の為に。
ヤシムは大地を埋め尽くす騎兵の大軍に包囲された、その数ゆうに千は下らないだろう。大軍はすぐさま左右に分隊し、中央から『赤い武具』で身を固めた騎士がゆっくりと距離を詰めてきた。
--1人で来るとは平民にしては勇気があるな、俺は『真紅公』ゼパル お前の名は?
「私はヤシムと申します。この村の代表です。これは一体何の騒ぎですか?」
--そうか、魔力 『降り注ぐ赤い雨』
ゼパルは右手に構えていた重厚なハルバートを振り下ろすと、真空の刃がヤシムの左腕を捉えた。
--ドサッ
後方で聞こえた鈍い音に視線を移すと同時に、おびただしい鮮血の粒がヤシムの横顔を染めた。
--裏切り者の同胞『オロバス』を出せ、次は首と胴が離ればなれになるぞ。
激痛に顔を歪め崩れ落ちるヤシムを助けようと村人の1人が駆け寄ろうとした時、再び真空の刃が村人を襲った。
「やめろ……村の者に手を出すな!それにオロバスとは誰の事だ?」
--何も聞かされていないようだな、お前達の統率者は元王国72柱が1柱、貴様ら平民と手を組んだ所で一体何が出来るというのか理解に苦しむ。
ヤシムは言葉を失った……初めて明かされた真実に戸惑い、保身の為に自分達を売ったのかという猜疑心さえ持つ程に……
--オロバスへの置き土産だ、村を蹂躙せよ!一匹足りとも生かしてはおかぬ。
ゼパルの掛け声と共に、歩兵の大軍が村を飲み込んでいく……
ゼパルは両手を掲げ歓喜の表情を浮かべていた……
むせ返るような血の臭い、人々の断末魔の叫びにかき消され、ヤシムの必死の願いは届く事はなく、薄れゆく意識の中でエンミティの言葉が走馬灯のように蘇った。
--『力なき正義など正義ではない』
--惨劇から一夜明け、村を目指し早馬を飛ばす4人の姿があった。
「--胸騒ぎがする……何か良からぬ事が起こったのかもしれん、皆急ぐぞ」
エンミティの直感は現実のものとなり最悪の光景が眼前へと映し出されたのだ。
「エンミティ様、あそこに誰か倒れています!」
「--お前達は村の様子を探ってくるのだ、まだ敵が潜んでいるかもしれん油断するなよ」
従者達はエンミティの指示に従い村へと馬を走らせる。1人その場に残ったエンミティは馬を降り無言のまま、その者を両の腕で抱えるのであった……
「--ヤシム……すまない」
エンミティは身体を震わせながら辺りを見渡し呆然と立ち尽くす。偵察を終えた従者達も状況を伝えようと合流した。
「酷い有り様ですね……残念ながら生存者は1人も残っていません、その者は?」
「--この者はヤシム、そなた達と同じく私の教え子だった」
エンミティは従者達にヤシムについて詳しく述べた後、能力『魂の伝承』を発動させ肉体を12枚の羽根へと変化させたのだった。
「--この12枚の羽根はヤシムの魂を具現化させたもの、我らは求道者を集めヤシムの想いを繋ぎ王国を打倒する」
--我らが悲願必ずや成就させるのだ。
「んっ?どうしたんだ何か問題でもあったのか?」
アラタは壁に手を当て微動だにしないエンミティを心配して声を掛けた。ふと我に返った様子は伺えたのだが、また壁を見つめ何か考え事をしているかのようだった。
「--心配ない少し昔の事を思い出していただけだ」
(……長く生きてると色々あるんだろうね、哀愁って言うんだろこういうの?)
ダンテスの横やりに思わず苦笑するアラタを後目に聞こえているぞと言わんばかりにこちらを向いている。
「--ぬかせ……これより先は悪魔の巣窟、人の理など皆無の世界。一歩足を踏み入れれば、干渉を断ち切らぬ限り戻る事は決して叶わぬ」
手を当てた壁面に黒点が現れ次第に大きさを増していく、エンミティは異世界とを繋ぐゲートだと簡潔に説明してくれたのだ。
「今さら脅すのはナシだろ、とっくに覚悟は出来てるし」
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