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1話 『仇なす者』~enmity~

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--笑い声が聞こえる……深淵に蠢く悪魔達が這い上がろうとする俺の足を掴み引きずり下ろす--
何がおかしい?笑うのを……

「やめろ--」

目を覚ますとそこは湿った臭いの石造りの部屋の中、目の前には鉄格子が行く手を阻んでいる。
壁にもたれるように眠っていたせいで全身が痛く動くのに少し時間がかかりそうだ。

天井の隙間から溢れる雨垂れがポツリと一滴、また一滴と頬を打ちつける。
腫れ上がった傷口には不思議と心地よく感じる事が幸いだろう。

しこたま殴られたせいで頭がクラクラするが、じっとしている訳にもいかず脱出の方法がないかと辺りを見渡してみた。あったのは石畳に無造作に敷かれた毛布が1枚で他に使えそうな物はなさそうだ。

手錠が邪魔をして確認は出来ないが、恐らく所持していた物も全て没収されているに違いない。
万策が尽き落胆していると何かの気配を感じ鉄格子へ目を向ける。

気配は影へと変化し、物音をたてず距離を縮めてくる、ゆっくりと歩みを進めるように。

「だ……誰だ、誰かいるのか?」

突如、薄暗闇をランプの光が照らした。姿を現したのは白色のローブに身を包んだ人物、フードで顔は確認出来ないが、背格好から察するにであると判断出来る。

男は一瞬で鉄格子をすり抜けアラタに告げる。

「--汝の運命さだめは『死』刑の執行を待たずとも、投獄された時点で生きて戻る事は叶わぬ」

突きつけられた現実ことばを受け入れる事など到底出来ない。無実を立証する機会を与えてさえ貰えれば、ここから出られると信じていたからだ。

「そんな馬鹿な話があるか?!デタラメを言うな!」

「--悪魔は人間の絶望を喰らう……汝は餌に過ぎん」

男は続ける--
1度魅入られた者は絶望を喰らい尽くすまで決して解放されない烙印を体に刻まれると言う。悪魔の存在に干渉した時は何かしらの体調不良として現れる。アラタに度々起こる強烈な頭痛がそれを物語っていた。

「アンタが俺の前に現れた理由は何だ?」

「--彼の地にて諸悪の根源たる72の悪を封印する事、さすれば此の地での干渉が消え烙印も消えよう」

選択肢は2つ『運命を受け入れて死を待つ』or『この男に協力して戦う』なのだが生きる為の可能性として有力なのは後者しかない。やるしかないとアラタは覚悟を決めて男に告げる。

「--よかろう、我が名は『仇なす者』エンミティこれより汝に魔を滅する力を与えよう」
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